東芝<6502>が日本産業パートナーズ(JIP)連合による買収提案を受け入れ、上場廃止することを取締役会で決議した。7月下旬頃に株式公開買い付け(TOB)を実施する。TOB価格は1株4620円で、買収額は2兆円となる。果たして、この価格でTOBは成立するのだろうか?

プレミアム平均を大きく下回る東芝のTOB

TOBの成否を大きく左右するのは公募価格だ。一般的にTOBの公募価格は、発表直前の株価に「プレミアム」と呼ばれる金額を上乗せする。TOB価格の方が安ければ、株式市場で売却した方が得だからだ。

例外は経営危機に陥った上場企業のTOBで、2022年2月に発表された佐渡汽船のTOB価格は発表前営業日の202円を大きく下回る30円だった。こうした場合は「プレミアム」ではなく「ディスカウント」と呼ぶ。

2022年にTOBは59件あり、総プレミアム平均は43.02%、ディスカウントTOBを除くポジティブプレミアム平均は47.63%だった。

東芝の場合、TOB受け入れを決議した3月23日の終値は4213円で、公募価格の4620円のプレミアムは9.66%で、昨年のプレミアム平均を大きく下回る。昨年のプレミアム平均を「適正価格」とすれば、東芝のTOB価格は6025〜6220円が妥当となる。

もっともTOB価格は「プレミアムありき」で決まるわけではない。市場株価平均法、類似会社比較法、事業計画書からその会社が将来どれくらいの利益(フリーキャッシュフロー)を得るか計算し、将来の不確定性やリスクを「割引率」として考慮したうえで計算式から企業価値を求めるDCF(ディスカウントキャッシュフロー)法などの算定基準がある。


株主が納得する価格には程遠い?

ただ、一般株主にとってはTOB応募を左右するのは公募価格であることは間違いない。JIPが2022年11月に提示した価格は5200円だったが、東芝が業績見通しを下方修正したことを受け、2023年2月には4710円に引き下げた。同月に東芝は見通しをさらに下方修正したことから、最終的には4620円と1割以上も値下がりしている。

JIPが「あらゆる算定法で見て、企業価値を正しく反映した公募価格である」と主張したところで、大半の一般株主が「安すぎる」と判断すればTOBは成立しない。とりわけ「物言う株主」と呼ばれるアクティビストの動向が注目される。

米ファラロン・キャピタル・マネジメント(持ち株比率約5%)と米エリオット・マネジメント(同5%弱)など東芝に社外取締役を送り込んでいるアクティビストは、取締役会で提案受け入れを決議していることからTOBに応じるだろう。

しかし、共にシンガポールに拠点を置く旧村上ファンド系のエフィッシモ・キャピタル・マネジメント(同約10%)や3Dインベストメント・パートナーズ(同約7%)など、その他のアクティビストがTOBに応募するかどうかは不透明だ。

2021年4月に英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズが提案した東芝のTOBでは、第三者割当増資に応募して1株2600円前後で東芝株を入手した香港系投資ファンドのオアシス・マネジメントですら「公正価格の6200円超を大きく下回っている」と反発している。

TOBのプレミアムが低い場合、公募価格の引き上げを期待して「買い」が入り、株価が上昇するケースも珍しくない。事実、24日の東芝株は前日終値よりも270円高い4483円で取り引きが始まった。プレミアムは3.05%まで縮小している。

東芝の株価が4620円を超えれば、公募価格を引き上げない限り成立は絶望的だ。とはいえ公募価格を引き上げれば買収額は跳ね上がり、TOBによる東芝再建スキームは崩壊する。今回のTOB公募価格は「微妙な価格」と言わざるを得ない。先行きは極めて不透明だ。

文:M&A Online編集部