コロナ禍で大打撃を受けた旅行業界が正常化に向けて大きく動き出した。KNT-CTホールディングス<9726>傘下の近畿日本ツーリストが、2023年のゴールデンウィーク(4月28日-5月8日)期間中の国内旅行動向を調べたところ、同社の販売高が前年同期比2.5倍に急増していることが分かった。

最大手のJTB(東京都品川区)は、ゴールデンウィーク(4月25日-5月5日)期間中の国内旅行者数が前年同期比1.5倍となり、海外旅行者数は同4倍に達すると予測する。

さらにこうした状況の中、エイチ・アイ・エス(HIS)<9603>では新たな形の社員旅行「シン・社員旅行」を提案するなど、旅行需要の取り込みに力を注ぐ。

新型コロナウイルスの扱いが5月8日に感染力が2番目に強い「2類相当」から最も低い「5類」に移行することや、マスクの着用が個人の判断に任せられるようになったことなどから旅行需要が増加しており、今年のゴールデンウィークは4年ぶりにごった返す観光地の光景を目の当たりにすることができるかも知れない。

大阪府は7.7倍、東京都は5.1倍に

近畿日本ツーリストは4月3日にゴールデンウィークの旅行販売高を調べたところ、東京ディズニーリゾートのある千葉県(伸び率は2.7倍)がトップとなり、自然が魅力の北海道(同2.2倍)が2位、定番の沖縄県(同2倍)が3位に入った。

また伸び率で見ると、地方居住者の都市部への旅行が急増しており、大阪府が7.7倍に、東京都が5.1倍に跳ね上がった。このほか九州を代表する人気地の福岡県は4倍に、鎌倉や箱根などがある神奈川県は3.5倍になった。

コロナ禍前の2019年越えに

JTBは各種の経済指標や交通機関各社の動き、宿泊施設の予約状況、各種定点意識調査などをもとに今年のゴールデンウィークの旅行者の予測を算出した。それによると、国内旅行者数は2450万人で、前年のゴールデンウィークの1.5倍に達し、コロナ禍の影響のなかった2019年の102.0%まで回復する。

海外旅行者数についても20万人と、前年同期の4倍を見込む。ただ、コロナ禍前の海外旅行者は50万-60万人と見られており、これと比べると30%程度の回復にとどまっているという。

アラワイ運河のヘドロを除去

こうした旅行需要の回復を踏まえてHISが提案している、新しい形の社員旅行「シン・社員旅行」は、サスティナブル(環境の持続可能性)な観光体験や訪問先の活性化などを旅行の目的に掲げるもので、具体的な事例として、ハワイにある人口水路「アラワイ運河」で、ヘドロを除去する作用のある泥団子を作り、実際にアラワイ運河に投入するプログラムを含む社員旅行を上げている。

JTBの2023年3月期の営業損益は前年度の48億8000万円の赤字から63億円の黒字に転換する見通し。KNT-CTホールディングスの2023年3月期も前年度の76億8600万円の赤字から80億円の黒字に転換する見込みで、両社の業績は回復基調にある。ゴールデンウィークの状況によっては次期の業績が一段と好転する可能性は高そう。

HISは2023年10月期の業績については、新型コロナウイルスの影響を判断するのが難しとして数字を公表していない。ゴールデンウィークの状況がどのように影響するのか、こちらも関心は高そうだ。

文:M&A Online