数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Online編集部がおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「会社が変わる!日本が変わる!!」 田原総一朗著・牛島信著 徳間書店刊

「失われた30年」からいまだに抜け出せない日本。その処方箋はあるのか?  評論家でジャーナリストの田原総一朗氏、かたや弁護士で経済小説家の牛島信氏。当代きっての論客2氏が「日本再生」をテーマに存分に語り合う。

会社が変わる!日本が変わる!!

(画像=「M&A Online」より引用)

「失われた30年」とはバブル崩壊後の1990年代初頭から続く長期の経済停滞を指す。このまま手をこまぬいていれば、日本は「失われた40年」に向かうとも指摘される。

1990年代初め、世界のGDP(国内総生産)における日本のシェアは10%を超え、米国に次ぐ経済大国を誇っていた。しかし、その後の30年間、日本のGDPは10数%しか増えなかったが、米国は3倍以上、中国にいたっては50倍以上に膨れ上がった。2010年、日本は中国に追い抜かれ、3位に後退した。

現在、世界全体のGDPに占める割合は米国24%、中国18%であるのに対し、日本5%と往時の半分以下。日本企業が「稼ぐ力」を失い、平均賃金でも韓国に抜かれた。

田原、牛島の両氏はまず、「失われた30年」がそもそも起きた原因を解き明かすところから議論をスタートする。発端は米国の日本バッシング(叩き)にあったのだという。

1980年代、巨額の財政赤字と日本との貿易不均衡に苛立ちを募らせていた米国。経済大国に成長した日本の“安保ただ乗り”への批判が高まっていた。そんな中、米国の要求をのまざるを得なかった日本は挙句、バブルに向かった…。当時の中曾根康弘首相ら歴代政権を至近距離で見てきた田原氏がその内幕の一端を明かす。

タイトルにあるように、日本が変わるためには、会社が変わることしかない、という点で両氏の意見は一致する。なぜなら、社会の「富」は会社が生み出しているからだ。会社が伸びなければ、人々の職場が減り、国の財政が持たなくなる。

田原氏は日本的経営の抜本的な構造改革として、年功序列、終身雇用制を廃止するべきと主張。過去の成功体験にぶら下がった体制からの決別を求める。

牛島氏は「会社は経営者次第」としたうえで、ベストな人材を選ぶための仕組みとしてコーポレートガバナンス機能の重要性を指摘する。良い経営者を選任し、悪い経営者を解任することがコーポレートガバナンスの中核であるとする。社長交代時、これまでのような密室での後継者指名をやめ、独立社外取締役が指名委員会を通じて影響力を行使する形に改めるべきだと強調する。

世界情勢はもとより、ロボットやAI(人工知能)といった先端技術、教育、選挙制度、安保問題、憲法改正、アクティビスト(物言う株主)までさまざまな分野に議論が及ぶ。目下の日本のイシュー(論点)を知るうえで格好の1冊といえる。

 文:M&A Online