この記事は2023年4月21日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「多額の赤字と評価損を抱えるFRB」を一部編集し、転載したものです。


多額の赤字と評価損を抱えるFRB
(画像=corlaffra/stock.adobe.com)

(FRB「The Federal Reserve's balance sheet」ほか)

米連邦準備制度理事会(FRB)は、毎週水曜日時点のバランスシートの状況を公表している。その負債サイドに「財務省へ納付する収益」という項目がある。その日までの1週間のFRBの利益がここにいったん計上され、1週間後に同額が財務省に送金される。

図表1のとおり、2022年8月末までFRBは黒字だったが、9月1週目から赤字に転落している。赤字になった場合、FRBは財務省に収益を納付できず、「財務省へ納付する収益」の項目には、毎週の赤字額が累積されていく(繰り延べ資産とみなされ、黒字で相殺されるまで残る)。今年4月12日時点での累積赤字額は483億ドル(約6.4兆円)だった。

コロナ危機下にFRBは、当時低利回りだった米国債やモーゲージ担保証券(MBS)を大規模に購入した。その後、インフレ率が高騰したため、FRBは昨春から大慌てでフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を引き上げ始めた。

実際にFF金利を目標内に誘導するには、準備預金に対する付利を引き上げなければならない。それにより、FRBの市中金融機関に対する利払い費は増大する。この利払い費が、FRBが保有する米国債やMBSからの利息収入を上回り、逆ザヤ状態となった。これが昨年9月から赤字が続く主因だ。当面、赤字の累積は一層拡大していく可能性が高い。

またFRBは、四半期末の保有証券の評価損益も公表している(図表2)。21年までは評価益だったが、22年以降は評価損に転じた。22年末の評価損は1兆ドル超に上る。

こうした状況はFRBの金融政策に影響を与えるだろうか。ニューヨークの有力Fedウォッチャーによれば、赤字や評価損を恐れてFRBが金融引き締めを控えることはない。しかし議会、特に共和党主導の下院が、これを問題視する可能性は十分にある。彼らが「行き過ぎた金融緩和がこうした問題を招いた」とFRBを攻撃すれば、次の危機時にFRBは大胆なアクションを取れなくなる恐れがあるとの声も上がる。

FRBに限らず、現在赤字に陥っている中央銀行は世界に多数存在している。それが通貨の信認に与え得る影響については、別の回で論じたい。

多額の赤字と評価損を抱えるFRB
(画像=きんざいOnline)

東短リサーチ 社長 兼 チーフエコノミスト/加藤 出
週刊金融財政事情 2023年4月25日号