海外資本を有効活用した20社を実名で紹介

経済産業省は4月19日、国内企業向けに対日M&Aの効果・意義などを発信する初の事例集を取りまとめた。対日M&Aの概況やメリット、留意点、パターンを整理し、海外資本を有効活用して経営課題の解決や企業成長を実現した20社の事例を実名で紹介。企業ごとの課題、希望するメリットに応じたケーススタディーの手引きとして活用されそうだ。

対日M&Aとは外国企業又は海外プライベート・エクイティ・ファンド(PE)による日本企業へのM&Aを指す。

対日M&Aは増加傾向に

日本経済を成長させるイノベーション創出や海外経済の活力の取り込みを狙う政府は2021年6月に「対日直接投資戦略」を閣議決定し、対日直接投資のひとつである対日M&Aの活発化も促進。近年の対日M&Aは増加傾向にあり、日本貿易振興機構(ジェトロ)が調査した2021年の対日M&A件数は前年比22.6%増の168件に上った。一方で、他の先進国と比較すると対日直接投資に占める対日M&Aの割合は小さいことがわかった。

海外資本のグローバルネットワークやノウハウなどを生かして経営の高度化や人材の強化・育成、海外販路の拡大を果たすケースが増えている中、経産省は2022年9月に「対日M&A課題と活用事例に関する研究会」を設置。経済安全保障などの観点も含めた事例集の作製に向け、対日M&Aの対象企業が直面した課題や得られた効果などを調査・分析した。

対日M&Aのパターンを4つに分類

事例集では、対日M&Aのパターンを「子会社売却・事業譲渡(カーブアウト)」「大企業本体の売却・資本の受け入れ」「オーナー企業の売却・資本の受け入れ(事業承継など)」「スタートアップ企業の売却・資本の受け入れ」の4つ(A~D)に分類。パターン別の具体例を交えながら、それぞれの定義・特徴、スキームイメージなども明示した。

対日M&Aの留意点としては、企業文化の違いの理解や外国為替及び外国貿易法(外為法)の手続きなどを挙げている。メリットに関しては経営基盤面や従業員面、事業展開面の6つの項目を解説。これらは国内企業の多くがすでに取り組んでいる内容であるものの、各事例を紐解くと海外資本によって推進力や実現スピードが上がる効果も見られたとしている。

また、外国事業会社と海外プライベートエクイティ(PE)ファンドのどちらが買い手となるかで生じやすい違いも説明。主なM&A目的や株式保有期間、対象会社のメリットなどの傾向を示していることで、自社にとって望ましい売却先を選択しやすくなっている。

中堅中小企業やスタートアップの事例も

事例集では大企業ばかりではなく、地域の中堅・中小企業やスタートアップのケースも紹介。課題解決の取り組みや成長過程をめぐる従業員の生の声も掲載し、対日M&Aの成果を得るまでの苦労も読み取れる。課題別やメリット別の索引で事例を探せるのも便利で、一覧には外国企業(買い手)の種別や出資比率、取引金額が記載されている。

経産省は5月17日午後0時15分から、事例集の説明・報告会をオンラインで開催する。独立行政法人経済産業研究所(RIETI)と共に、対日M&Aに関する講演や海外PEファンドによる事例紹介などを行う。参加申し込みはRIETIの公式サイト(RIETI - 対日投資の新時代へ-「対日M&A活用に関する事例集」と海外PEファンドによる投資事例の紹介)で受け付けている。

文:M&A Online