特集『Hidden Unicorn~隠れユニコーン企業の野望~』では、新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業のトップにインタビューを実施。何を思い事業を運営し、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。これまでの変遷を踏まえ、その経営戦略についてさまざまな角度からメスを入れる。
株式会社ギフトモールは、ギフト専門のマーケットプレイス「Giftmall」をはじめとする、新たなギフト体験を創造するテクノロジー企業だ。2014年の創業以来、現在は日本とシンガポールに拠点を持ち、アジアやインドでも事業を展開している。本稿では、代表取締役 CEOの藤田 真裕氏に今日までの変遷や事業の特長、将来の展望などについて伺った。
(取材・執筆・構成=大正谷成晴)
- Giftmall(ギフトモール)公式サイト:https://giftmall.co.jp/
- Anny(アニー)公式サイト:https://anny.gift/
- Annyお祝い体験(アニーおいわいたいけん)公式サイト:https://oiwai.anny.gift
ギフト・お祝いに特化したマーケットプレイスを提供
―― 最初に、株式会社ギフトモールの事業内容や特長をお聞かせください。
ギフトモール代表取締役 CEO・藤田真裕氏(以下、社名・氏名略):私たちはプレゼントを集めたギフト専門のマーケットプレイス「Giftmall(ギフトモール)」など、プレゼント・ギフト領域に特化したテクノロジープラットフォームを運営しています。また、弊社を親会社とし、国内に2社、シンガポールに1社、計4社の「LUCHE GROUP」としてもお祝い・感動体験のドメインにフォーカスして事業を展開しています。創業当初からグローバル展開を志向していて、2013年11月にシンガポールにLUCHE HOLDINGS PTE.LTD.を、翌年8月に日本法人の株式会社ギフトモールを設立し、2021年3月に海外旅行者向けローカルガイドサービスを展開する「MagicalTrip」の運営を行うMagicalTrip株式会社がグループ入りをしました。M&Aを積極的に進め、現在もインドネシアやベトナムなどへのグローバル展開や、組織の拡大を図っています。
▼ギフトモールのサービスラインナップ
弊社は「MAKE MORE SMILES」のパーパスを掲げ、弊社が提供するギフト体験を通じて、より多くの笑顔を世界に広げたいと考えています。サービスはいくつかありまして、先に挙げたお祝いに特化した購買体験ができる「Giftmall」は、約67万点の商材を取り扱う国内最大級のギフト専門のマーケットプレイスです。名入れなどによる世界で1つだけのパーソナライズドギフトを朝11時までに注文すると翌日届けることが可能であり、住所を知らない相手にもソーシャルギフトとして贈れるようにしています。(※詳細の提供サービスは出店店舗によって異なります。)
「Giftmall」が幅広い方にお使いいただくことを想定しているのに対し、「Anny(アニー)」は特別なギフト体験を得たい方向けのプラットフォームで、ここでは専属のバイヤーが厳選したギフトのみを扱っています。もともとトレンダーズ株式会社の子会社である株式会社BLTが運営していましたが、2020年3月にM&Aによって我々のグループに入っていただきました。
また、ギフトデータを収集・分析・整理し、横断的にギフトを探すことができるギフトデータプラットフォーム「Best Present(ベストプレゼント)」も運営しています。これは、例えば交際相手の誕生日など、誰に対してどんなシーンで、どの商品カテゴリを見て、どの価格帯の何を閲覧し、最終的に何を購買したかといったデータを集めたプラットフォームです。分析したギフトデータをもとに、ギフトに関するノウハウをテーマや商品カテゴリ別に提供するギフトトレンドメディア「Best Present Guide」も、日本のみならずインドネシアやインド・ベトナムでも提供しています。
弊社はモノを販売するだけでなく、体験をどう提供・デザインするのかにもこだわっていて、レストラン・ホテルなどの予約サービス「Annyお祝い体験」では単に席をご予約いただけるだけでなく、記念日やプロポーズなどあらゆるお祝いシーンに対してプラン自体を提供しています。ローンチから2年弱ですが好評で、「東京 プロポーズ」で検索すると上位に表示されるくらいです。
「Magical Trip」は訪日旅行者向けの体験予約プラットフォームで、新型コロナの時期にM&Aを行ったサービスです。通常のツアーではなく、日本ローカル文化を体験したい旅行者に対して相撲部屋の朝稽古や秋葉原のアニメ・ゲームツアーなど、その土地の人や文化を感じられるようなプランを提供しています。その場でしか出会うことができない、感動できる体験を届けています。
これらが私たちの手がけるプラットフォーム・メディアですが、累計訪問者数は順調に伸びていて、グループ全体で月間3,600万人にのぼります。グループ全体の年間流通額は180億円を突破しました。
モノの販売だけでなく「感動体験」をデザイン
―― プレゼント・お祝いに特化しているとのことですが、競合はいますか。
少し特殊なので、アメリカを含めてあまり見当たりません。よくある「タイムマシン経営」ではなく、我々は自分たちで新しい市場を創出することにこだわっています。もちろん、データプラットフォームでいえばSEOで集客するので関連記事で競合することがありますし、ギフト特化のマーケットプレイスも「Giftmall」だけではありません。お祝い体験のレストラン予約では競合する部分があるサービスはありますが、ギフト体験や感動体験を突き詰めたプロダクトはあまり見られません。
―― 御社の強みの源泉を挙げるとしたら、何でしょうか。
3つあります。1つ目はデータの多さです。月間3,600万の訪問があり、国内でお祝いに関するデータの保有量は圧倒的です。他のECサイトは「自分が買うためのデータ」は豊富にあっても、「誰に対してどのシーンで何を買っているか」はわかりません。弊社のサービスは「プレゼントを贈りたい人」が訪問するので、得られるデータをもとにマッチングの精度を高めていくことができます。あるいはシーンやカテゴリ、価格帯などのデータを参考にして、商品を作ることや人気ギフトを提供できる会社のM&Aを進めることもできるでしょう。
2つ目は「Giftization(ギフタイゼーション)」という特徴的な考え方です。これは、世の中のプロダクトやサービスを自分で使うためではなく、大切な人に贈るためのギフトの用途として再編集して付加価値を高めることです。先ほどのお祝い体験サービスのように単なるレストラン予約ではなく、体験価値を高めることを常に考えているのが特徴です。最終的には、必ず喜ばれる感動体験が簡単に届く世界の実現を目指しています。例えばレストランでお祝いをするにしても、予約者自身がメッセージカードや写真、花束を用意してレストランに届けるのは大変です。プラットフォーム上でメッセージを書いて画像をアップロードすれば完成し、それがレストランに届くサービスを提供しているプレイヤーはおそらく弊社だけでしょう。感動体験をデザインしていることは、大きなポイントです。
▼「Giftization(ギフタイゼーション)」の考えのもとサービスを提供
3つ目は優秀なメンバーにこだわり、働きやすい環境を実現していることです。例えば、我々のグループではコロナ前からフルリモートワークであり、国境を気にすることなく優秀な人材を採用しています。拠点は日本とシンガポールにあり、メンバーは自分の生活スタイルに合わせて働くことができ、役割の違いはあっても上下関係はありません。社員自身が幸せであることによって、より良いバリューを引き出す会社であってほしいと考え、あえて自由な働き方にしました。
―― ギフトモールが狙う市場は年々拡大しているのですか。
国内に限ると、ギフト領域の市場はアパレルと同じく約10兆円で推移しています。その内訳はお歳暮などのフォーマルギフトとプライベートなカジュアルギフトに分かれますが、前者は減少傾向ですが、我々がターゲットにしている後者は増加しています。加えてオンライン化率も上がっており、全体としてマーケットは上向きと見ています。
―― 創業までの経緯をさらに掘り下げたいと思います。
弊社を設立する前の2009年頃、私が社会人になって数年が過ぎ、金銭や気持ちに余裕が生まれたので、これまでの感謝の気持ちを込めて親にプレゼントをしようと考えました。なかなか手に入らない高級肉を贈ったらすごく喜んでくれて、その時「プレゼントは人を喜ばせるマーケットだ」と思いました。しかしながら、当時はギフトを探せるサービスはあまり存在せず、そこに行き着くまではなかなか大変で、「もっと簡単にギフトを見つけて贈れるサービスがあれば」と考えました。私はリクルート出身で、同社では「不がある」と表現しますが、マーケットに対する不便・不満はビジネスチャンスです。ギフト選びに関しても、「不を解決するプロダクトを作れば支持される」と思ったのが起業のきっかけです。
創業時からコーポレートストラテジーは描いていて、最初にデータプラットフォームを作り、データを集めた上でマーケットプレイスを作り、購買まで追いかけ、蓄積した詳細データを使って商品を開発、そして体験のプラットフォームを展開するという流れでした。2014年からなので時間はかかりましたが、ギフト探しからレストラン予約まで実現できています。「Magical Trip」との縁もあり、体験の提供・アップデートの良い機会になったと思います。
お祝いの領域におけるリーディングカンパニーとして業界をけん引
―― さらなる成長のため今後の目標や5年後、10年後に目指すべき姿についてお聞かせください。
ギフト商品のみならず、お祝いの領域におけるリーディングカンパニーとして、感動体験を創出し業界をけん引する存在になりたいですし、それによってギフトの機会を増やしたいと考えています。バレンタインデーも製菓メーカーがチョコレートの需要を喚起し、この日に大切な人に愛を伝えるといった幸せな世界を醸成しました。これに倣い、11月22日の「いい夫婦の日」にはパートナーや両親にプレゼントを贈る習慣を作るなど、、文化自体を生み出す施策を世の中に提案し笑顔を増やすのが私たちの願いです。ギフトを贈る、プロポーズする、結婚記念日を祝うなど、体験自体をアップデートしたいと思います。
数字で言うと、直近の流通総額は約180億円ですが、ミニマムでも5年後に500億円、10年後に1,000億円を達成したいと考えています。これは既存事業だけの話であり、ギフタイゼーションの観点からグループ化したメーカーの商品をギフトにして売上増につなげるなど、今後もM&Aを進めながら成長を継続したい考えです。これまでに4事業3社をグループ化しましたが、M&Aで規模を拡大するのは弊社の強みでもありますから、さらに強化したいと思います。2022年12月にはCMAO(最高買収責任者)を置き、新卒マッキンゼーで、ベインキャピタルなどで企業投資やM&Aに従事した元スマートニュースの田中秀樹がCMAO兼CIOに就任しました。また、IPOも検討していて、資本市場から資金を調達しながら、世の中に価値を創出できる会社にしたいです。
今はインドネシアやベトナムでもプラットフォーム展開していますが、グローバルへのチャレンジも引き続き行います。モノや価格帯は違ってもプレゼントを贈る行為は世界共通ですから、データをもとにマーケットを開拓したいと思います。インドネシアのデータプラットフォームには月間100万ほどアクセスがありますが、これを500万、1,000万にするにはUXの作り方などが変わるはずです。グローバルに共通するプラットフォームを日本から生み出したいと考えているので、そのためにも人材の採用・育成を積極的に進め、パーパスやバリューを浸透させ、社内のカルチャーを強化する必要があります。
―― 最後に、ZUU onlineの読者にメッセージをお願いします。
弊社はギフタイゼーションを進め、体験価値を上げるというユニークな取り組みを行っています。体験自体をデザインすることや、世の中にない体験を生み出すことは面白く、また重要なアプローチだと考えていますので、今後もそれらがより簡単に届く世界を目指します。皆さんにも、ぜひご支援をいただきたいと思います。