特集『Hidden Unicorn~隠れユニコーン企業の野望~』では、新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業の経営トップにインタビューを実施。何を思い事業を運営し、どこにビジネスチャンスを見出しているのかなど、これまでの変遷を踏まえ、その経営戦略にさまざまな角度からメスを入れる。

今回はマーケティングオートメーション(MA)にいち早く着目し、Engagement Data Platform「aimstar(エイムスター)」の開発・提供やマーケティングDX支援を手がけるスプリームシステム株式会社代表 渡部 知博氏にお話を伺った。

(取材・執筆・構成=杉野 遥)

スプリームシステム株式会社
渡部 知博
スプリームシステム株式会社 代表取締役社長兼CEO
福岡教育大学大学院修了、教育学修士。2008年株式会社JSOL入社、SEを経て金融・公共領域の営業を担当。2012年から10年間、外資系SaaS企業(Salesforce、Yext)にて国内マーケット拡大業務に従事。2022年当社入社、執行役員CROを経て同年10月より代表取締役社長兼CEOに就任。
スプリームシステム株式会社
「Client Growth First」をミッションに、CDPやMA機能を持つEngagement Data Platform「aimstar(エイムスター)」の開発・販売を主に手がける。2001年から「aimstar」の開発に着手し、株式会社QVCジャパンや、三菱地所株式会社、イトキン株式会社など、日本を代表する大手企業をはじめ、さまざまなBtoC事業者様における顧客とのエンゲージメントをテクノロジーとプロフェッショナルの2軸のサービスで向上し、グロースをバックアップしている。

目次

  1. BtoC事業のLTVを最大化するEngagement Data Platform「aimstar(エイムスター)」を提供
  2. AI技術と人=プロフェッショナルでクライアントを徹底的にサポート
  3. マーケティングDXにおけるChat GPTの可能性
  4. 真のマーケティングオートメーションの実現を目指して

BtoC事業のLTVを最大化するEngagement Data Platform「aimstar(エイムスター)」を提供

―― 御社の事業内容について、お聞かせください。

スプリームシステム株式会社代表 渡部 知博氏(以下、社名・氏名略)
当社は「Client Growth First」をミッションとして、自社開発のプロダクトによりクライアント企業のマーケティング支援を行っています。メインプロダクトである「aimstar」は、クライアント企業とその先の顧客のエンゲージメントを強化し、LTV向上に資するEngagement Data Platform(EDP)です。
「aimstar」は膨大なデータの統合や分析、マーケティングオートメション(MA)までをワンストップで行える高機能なプラットフォームです。
大量の顧客情報基盤を持つBtoCを中心とした事業者様からご支持をいただき、クライアントにはTV通販のジュピターショップチャンネル様や、三越伊勢丹グループのエムアイカード様、海外ファッションの「BUYMA(バイマ)」を展開するエニグモ様などがいらっしゃいます。

近年、クライアント企業が頭を悩ませているのが新規顧客獲得単価です。デジタル広告をはじめとした各規制や広告単価の高騰により、年々新規顧客の獲得難易度が上がっています。このような状況の中、既存顧客とのエンゲージメントを強化し、LTV向上を目指すことが求められるようになりました。
当社のプロダクトはクライアント企業が保有する顧客情報や購買情報をはじめとしたデータを有効活用し、マーケティング活動を最適化することで、クライアント企業と顧客との関係性を深め、最終的にLTV向上を実現します。

当社は2000年4月に設立し、翌年2001年に「aimstar」の開発に着手、2004年にリリースをしました。デジタルテクノロジーの黎明期ともいえる時代から20年以上にわたってデジタルマーケティングの高度化に取り組み、クライアント企業からのフィードバックと最新トレンドを中心に「aimstar」の精度を高めてきたことは大きな強みであり、クライアント企業からも高い評価をいただいている点です。

▼「aimstar」概要

スプリームシステム株式会社
(画像=スプリームシステム株式会社)

―― 2022年10月、渡部様が代表取締役兼CEOに就任されました。第二創業期として変革を進められているとのことですが、具体的にどのようなことに取り組まれているのでしょうか。

私は2022年1月よりスプリームシステム株式会社の一員となりましたが、この2022年は大きな意思決定を行った年でした。それは「プロダクトのSaaS化」です。従来はパッケージ版として提供しており、クライアントは大手企業が中心でした。一方で中小規模の事業者様からも「aimstarを使いたい」という声があり、より多くの事業者様を支援したいという想いから、2022年4月にSaaS版をリリースしました。また、SaaS版であればバージョンアップし続ける「aimstar」の価値をすべてのクライアント企業に提供できる、と考えたことも理由の1つです。
SaaS版をリリースしてからクライアント層のすそ野が広がり、DtoCと呼ばれる単品通販業をはじめとした中小企業のクライアントも増えています。

AI技術と人=プロフェッショナルでクライアントを徹底的にサポート

――御社の強みについて、お聞かせください。

当社の強みは長年にわたって培ってきたプロダクト開発力と、徹底的にクライアント企業に伴走するカスタマーサクセスの力だと自負しています。

繰り返しになりますが、当社は2000年の創業よりマーケティングDXを手がけ、「aimstar」のプロダクト開発を行ってまいりました。クライアント企業からいただくリクエストやマーケティングのトレンドに合わせて多彩な機能を開発してきたノウハウと技術力は、現在のSaaS版においても活かされています。
今後企業が保有するデータは、量はもちろん、種類も爆発的に増えていくことが予想されます。顧客エンゲージメント強化実現に向けて求められるのは、ストレスなく大量のデータを統合し、マーケティング施策を行える環境です。このような現状の中では、機能制限が多い柔軟性が不足したツールでクライアント企業の成長を実現することは難しくなると考えています。だからこそ、私たちが培ってきた開発力は大きな強みだといえます。

また、AI(機械学習)を軸とした付加価値の提供も当社の強みです。私たちはクライアント企業のビジネスモデルに合わせたAIモデルを自動で構築し、MA施策の精度を高めています。実際に「aimstarを使うことでコスト削減やDMの費用対効果を200%向上した」といった声もいただいています。
私の調べた限り、現状ではAIモデルを簡単に設定できる仕組みを提供しているプロダクトは当社のプロダクト以外にはありません。当社はプロダクト開発をすべて自社内で行っている分、クライアント企業のコスト負担を抑えることができる点と、複雑な作業を必要としないAI機能を提供できる点が強みとなっています。

カスタマーサクセスへの取り組みですが、当社は全従業員の3分の1にあたる人数をカスタマーサクセス担当者として配置し、細やかなクライアント支援にこだわっています。
私がマーケティングテクノロジー業界に入って10年以上経ちますが、その経験から結論付けたのは「テクノロジーだけを提供しても不十分、コンサルティングだけをしても不十分」ということです。特にCRMやMAといった領域のツールは、導入から施策のPDCAを回し続けることが本質的に求められ、利用するクライアント企業によって、顧客ターゲットやマーケティング手法、顧客獲得チャネルは変わります。インストールすれば使いこなせるというものではありませんから、クライアント企業のビジネスモデルに合わせて伴走し、支援する「人」が不可欠なのです。
当社ではカスタマーサクセス担当者を「プロフェッショナル」と呼び、彼らは伴走者としてクライアントを徹底的にサポートします。テクノロジーとプロフェッショナルの力を融合させる独自の伴走力で、クライアントの成長を後押しているのです。

▼国内MAベンダー初、ユーザー完結可能なAIによる顧客抽出・商品レコメンド機能

スプリームシステム株式会社
(画像=スプリームシステム株式会社)

マーケティングDXにおけるChat GPTの可能性

――AI技術の進歩は目覚ましいですが、今後マーケティングDXをどのように変えていくと思われますか。

今話題の「Chat GPT」は私も関心を寄せていますが、テクノロジーの進歩は今までの常識、つまり既成世界にパラダイムシフトを起こす可能性を持っている点が非常に魅力的です。
私が小学生の時にWindows95が発売され、その後インターネットが普及し、大学時代はウェブサイトを自作していましたが、その経験が今につながっています。過去を振り返ると、テクノロジーによって世界は目まぐるしく変化してきました。モノはリアル店舗へ行って購入するものでしたが、ECサイトというチャネルが増えましたし、ポケベルからPHS、ガラケー、そしてスマートフォンへと情報収集やコミュニケーション手段も大きく変わりました。「Chat GPT」が進歩すれば、「検索すらしない世界」になるかもしれませんね。

Chat GPTをはじめとした生成系AIは、当社のようなマーケティングDX関連のプロダクトに活かせる可能性が高いといえます。例えば、情報を抽出する時間は劇的に短くなるかもしれませんし、クリエイティブ領域まで含めると可能性は無限大です。今は人が抽出条件を考え、それをツール上で設定して抽出していますが、いずれは「クーポンに反応しやすい人を1,000人抽出して」と口頭で指示するだけでAIが判断し、的確な情報を抽出してくれるようになるでしょう。

真のマーケティングオートメーションの実現を目指して

――最後に、御社の未来構想を教えてください。

先ほどの話とつながりますが、AIを活用し、より高度で作業の自動化を実現するプロダクト開発に注力します。日本では2015年がMA元年だといわれて8年以上経ちますが、本質的なテクノロジーという観点では世の中のMAはほとんど進歩していないと見ています。つまり、人の頭で考え判断し、人の手で設定したものが自動で実行されるという点では変化がありません。今のMAは、本当の意味での自動化とはいえないと思います。

多くの企業は限られたリソースや予算の中で、日々マーケティング活動に取り組んでいます。リソースがないという大きな課題を解決するためにも、自動化は有効だと考えています。
本来、マーケターの皆さんがリソースを割くべきなのは細かい設定作業ではなく、エンドユーザーに喜んでもらえる体験の企画や、ブランド価値を向上させるための活動ではないでしょうか。

当社が目指しているのは、データを格納するだけでAIがすべて判断して実行・改善まで行ってくれるという完全な自動化です。夢物語のようですが当社では企画を進めており、近い未来に実現できるのではないかと考えています。
2023年2月には、AIによる「顧客抽出機能」と「レコメンド商品の最適化機能」をアップデートしました。これは、クライアント企業(ユーザー)自身が設定画面から容易にAI機能を使えることができるようにしたもので、国内MAベンダーとしては初の取り組みです。

データ活用、AI、マーケティング自動化という3つの領域で国内のナンバーワンになることが、当社の目標です。これを3年以内の中期目標として掲げており、自他ともにトップランナーと呼ばれるよう邁進していきます。「Client Growth First」というミッションを第一に考え、将来は新規事業の創出など、多角展開も構想しております。

当社はスタートアップなので、投資家の方にご協力いただく機会もあります。AIやマーケティングという領域は多くのプレイヤーがいるため、聞き飽きている方もいるかもしれませんが、成果を出せる会社はまれです。私たちはプロダクトを徹底的に磨き抜くことで成果を出し、投資家の皆様に利益として還元できるよう努めてまいりますので、応援していただけましたら幸いです。