独立系のプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)であるWMパートナーズ(東京都千代田区)が運用する「WMグロース5号投資事業有限責任組合」に中小企業基盤整備機構(中小機構)が30億円を出資することになった。
PEファンドは投資家から集めた資金で、非上場企業の株式を取得し、価値を高めた後に株式を売却して利益を上げるファンドで、WMパートナーズは「成長を目指す設立10年以上の中小企業」を対象に投資する方針を掲げている。
一方、中小機構は同ファンドを通じて中小企業の事業承継や事業再編などを支援するとしている。両者の目的を達成するためにはどのようなファンド運営になるのか。WMパートナーズの徳永康雄社長にお聞きした。
経営体制強化や成長の後押しにより将来の事業承継問題を解決
-投資対象とされている成長を目指す設立10年以上の中小企業と、事業承継を必要とする企業は必ずしも一致しないように思えます。
我々はもともと創業間もないスタートアップ企業を投資対象にするベンチャーキャピタルと、成熟し安定した企業を投資対象とするバイアウトファンドの中間に位置する設立10年から20年ほどの企業を投資の対象にしてきた。我々のファンドは新株発行の引き受け(増資)、既存株式の譲受など各社のニーズに合わせてバイアウト投資とマイノリティ投資の両方に対応できることが特徴である。
こうした企業の中には特徴ある製品やサービスを持ち確かな事業基盤を築いているものの、さらに成長するためにはどうしたらいいのか悩んでいる企業が少なくなく、相談できるファンドも少ないのが現状だ。我々はこうした企業に人材や資金、経営のノウハウ、DX支援などを提供し、成長に向けての支援を行っている。
確かに設立10年から20年の企業においては、「世代交代」という意味での事業承継は喫緊の課題ではないものの、将来必ず直面する問題である。それまでの間にファンドからの支援を受け経営体制強化や既存事業拡大、新規事業立ち上げを行うことで、事業承継が円滑に進むものと確信している。
また、副次的な効果ではあるが、バイアウト投資におけるロールアップ戦略(多数の企業を買収し規模を拡大する戦略)においては後継者問題を抱えている企業を買収する場面もあり、その面でも事業承継問題解決に寄与していると考えている。
-中小機構の出資にはどのような影響がありますか。
中堅・中小企業、また地方銀行さんの中には、ファンドに対して警戒心を持っている方たちがまだまだ多い。中小機構さんが出資しているファンドということであれば経営者の方はもちろん従業員の方の安心感や信頼感につながるし、地方銀行さんにも安心して出資などを行ってもらえるようになる。
-最近は地方銀行がファンドを組成する動きもありますね。
出資いただいている地方銀行さんからも、我々と共同で案件を作っていきたいという要望や、我々に投資ノウハウを教えてほしいという話もいただいている。実際に我々のファンドへの出資などを経て自身で投資専門子会社を作られた地方銀行さんもある。これは競合ではなく、むしろ仲間だと考えており、こういう地方銀行さんが増えればいいと思っている。
事業モデルの転換を支援
-投資はどのような基準で判断されるのでしょうか。
事業やキャッシュフローの安定性や収益性は当然に精査するが、総論としては現状維持、安定性よりも、いかに成長できるかが基準になる。事業の特徴、競争優位性がどこにあるのかといった成長ポテンシャルをしっかり評価して判断していく。
さらにファンドが社会的認知を得てきたこともあり、この数年、二つの動きが出てきた。一つは自分で一定規模までやってきたが、この先どうやったら成長できるのか分からない、0→1は得意だが1→10にするため様々な仕組みを作り組織を拡大していくことは不得手なので、ファンドに手伝ってほしい、ファンドに伴走してほしいという経営者が増えてきていること。
もう一つはコロナ禍をチャンスと捉えて、既存事業とは別の事業を立ち上げて、そちらで伸ばしていこうと考えている経営者も増えていることだ。こうしたところも投資対象にしており、すでに今回の5号ファンドでもコロナ禍で事業モデルを転換し、そこを支援してほしいという企業に投資させていただいている。
-ところで御社は投資先企業を大人ベンチャーと呼ばれています。
ベンチャーであるが、設立して10年、20年経っているので、大人ベンチャーと呼んでいる。こうした企業は事業基盤もあり、利益を出しながら成長しているし、業界で何年もやっているので会社は知られており、ただの中小企業ではないという意味合いを含ませている。
人間でもそうだし、ワインなどもそうだが、熟した方がいいということがある。設立から一定の年月が経過していてもチャレンジをしたいだとか、会社の規模を大きくしたいだとか、こういったことを志向している企業を総称して大人ベンチャーと呼んでいる。
-人員増強や他社との連携などWMパートナーズ自体の成長戦略をお教え下さい。
人員は増員していく。企業の成長や経営課題にコミット(結果を約束する)して自分も投資先企業の皆さんと一緒に汗をかく気概のある人を今後も採用していく方針だ。成長支援は、その投資先ごとにテーマが異なるため、「新しいことへの探求心」や「チャレンジ精神」を持ち、最新の情報に関してアンテナを高く張っている人材が望ましく比較的若い人を採用していく。数年以内に現在の15人から20人を超える体制にしたい。
また他社との連携については現在出資いただている10を超える地方銀行さんとの関係を深めていく。我々は成長をテーマにしており、各地域から中核となるような成長企業を生み出していくことに取り組みたい。
ある地方銀行さんは若手経営者クラブを運営しており、こうした中から地方銀行さんと一緒に支援先を探し、我々の支援によって成長してもらうことで、他の経営者の方にもモデルケースを示せればいいと考えている。
【徳永康雄氏】
2003年、日本アジア投資(JAIC)入社。投資先のハンズオン・回収に従事
2009年、社長室に参画しJAICグループの新規事業などを担当
2013年、WMパートナーズを設立し、取締役社長に就任
2018年、WMパートナーズ代表取締役社長に就任(現任)
文:M&A Online