国の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策が5類相当に引き下げられるなど、「脱コロナ」に向けた動きが本格化している。コロナ禍で辛酸(しんさん)をなめた外食産業も、かつての賑わいを取り戻しつつある。が、新たな難問が立ちふさがってきた。深刻な「人手不足」である。その処方箋は?
「コロナ前」の活況を取り戻した外食産業
一般社団法人日本フードサービス協会によると、国内飲食業界の業績は2023年3月時点ですでに「コロナ以前」の水準を上回っている。業界全体(223社・3万6589店舗)では売上高が前年同月比で18.8%増、コロナ前の2019年同月比で1.5%増、ファーストフード(55社・2万1190店舗)では売上高が前年同月比で10.9%増、2019年同月比では13.2%増と、回復基調がくっきり。
一方、ファミリーレストラン(66社・1万460店舗)では前年同月比26.2%増、2019年同月比6.7%減。パブ・居酒屋(34社・1854店舗)では89.4%増、2019年同月比35.5%減だった。いずれもコロナ前の水準には達していないものの、売上高は大幅に伸びている。
客数も前年同月比で全体が8.0%増、ファーストフードが4.2%増、ファミリーレストランが14.2%増、パブ・居酒屋が66.2%増と大幅に増えた。これはコロナ禍の影響で、外食産業の店舗数が減少したため。少ない器(店舗)に利用客が押しかけ、売り上げが増加したようだ。
「需要と供給の法則」に従えば、需要(利用者)が増えて供給(店舗)が減れば価格は上がる。事実、客単価も前年同月比で全体が10.0%、ファーストフードが6.4%、ファミリーレストランが10.5%、パブ・居酒屋が13.9%と、それぞれ伸びている。
注目される「人を買う」M&A
コロナ禍の不振を一気に取り戻す絶好の機会に水を差すのが深刻な人手不足だ。厚生労働省が2023年4月28日に公表した同3月の有効求人倍率は1.32倍だが、「飲食物調理」は2.92倍「接客・給仕」は3.29倍と大幅に高い。
一般に有効求人倍率が1.5倍を上回ると企業の人手不足感が深刻になると言われており、およそ3倍の外食業界では「募集をかけても全く人が集まらない」状況と言えるだろう。
コロナ禍で大量解雇した外食企業も多く、業界全体で働き手に不信感を持たれている影響は大きい。そのため給与を引き上げても、新規採用の増加は期待できない状況にある。「接客・給仕」の担い手である学生アルバイトも、少子化で細る一方だ。
外食産業が人手不足を解消する対策として注目されているのがM&A。同業者を買収することで働き手を確保する「人を買うM&A」と言える。買収した店舗を全て閉鎖し、近隣の自社店舗に店長とアルバイトをそっくり移す事例もあるという。
上場企業による国内外食産業の買収件数は5月半ばで8件に達し、年間だと21件となるハイペース。2021年1−12月の8件、2022年1-12月の10件を大きく上回る勢いだ。いずれも事業多角化や業容拡大を狙いとしているが、企業規模が大きくなれば人材の融通が利き、求人募集も増える。人手不足に苦しむ飲食業界で「人を買うM&A」が活発化するのは間違いなさそうだ。
文:M&A Online