この記事は2023年6月6日に「CAR and DRIVER」で公開された「【エンジン車よ永遠なれ!】レクサスのV10(1LR-GEU)は、すべてに最高を目指したLFAに特別な輝きを与えた!」を一部編集し、転載したものです。
LEXUS LFA/1LR-GEU
種類:V型10気筒DOHC40V
総排気量:4805cc
ボア×ストローク:88×79mm
圧縮比:12.0:1
最高出力:412kW(560ps)/8700rpm
最大トルク:480Nm(48.9kgm)/6800rpm
レクサスLFAに搭載された4.8リッター・V10、1LR-GEUを単体で見ると、これが市販ロードカー用エンジンなのかと思わず唸ってしまう。すべてに隙間なくコンパクトに凝縮された本体は、高価なマテリアルの生み出す独特の風合いと相まって、レーシングカー用にしか見えないからだ。
「最高速度や加速数値、ラップタイムといった性能スペックにこだわらない。真のスポーツカー好きが運転を楽しむクルマ」をコンセプトに誕生したLFAにとって、ヤマハと共同で開発したV10エンジンこそがすべての源だったといっていい。
2000年代。トヨタはF1に参戦していた。当時の主流はV10エンジン。そのイメージをロードカーに持ち込んだ例としては、BMWやポルシェの高性能モデルがあった。開発が始まったごく当初の頃、レクサスのエンジニアには、数値のみならず「設計や素材までレーシングスペック」を誇る完全新規のV10エンジンを開発するつもりなど毛頭なかったらしい。たとえば量産のV8あたりを改良してハイスペックなエンジンを作ればいい、そう考えていたという。確かにそれは大メーカーにおける高性能モデルの定番手法であった。
だが、「せっかく新たに高性能スポーツカーを開発するのだから、もっと大きな夢を持って取り組め。小さくまとまらず理想をでっかく掲げてみよ」、上層部からのそんな一喝で開発部門は覚醒した。
いまから20年前。すでに(儲からない)スポーツカーの新規開発は、とても貴重な機会となっていた。エンジンまで新たに起こすとなると相当な覚悟が必要で、それが部長クラス以下の現場から生まれること自体、期待薄というものだろう。レクサスのイメージリーダー、LFAの開発に際しCFRPボディ構造なども含めた究極のハイスペックは、上層部の英断と後押しなしではあり得なかった。
LFAのV10は、まるで日本刀のような切れ味を持っていた!
2009年、東京モーターショーでLFAはデビュー。搭載されたV10エンジンは「日本刀のような切れ味」を持ち、発表後もモータースポーツシーンにおいて鍛え続けることで、未来におけるまさに「伝家の宝刀」となった。もし仮にレクサスがこの一連の高性能モデル開発の手法をその後も続けていたならば、スーパーカーブランドに伍する存在となったことだろう。もちろんそんなことをすればブランドの存続自体が危ぶまれてしまうのだけれど。
高回転型V10エンジン(560ps/480Nm)、完全フロントミッドシップレイアウト、CFRPボディ、トランスアクスル後輪駆動。結果的にすべてが現代にも通じるスーパースポーツスペックである。 中でもそのエンジンサウンドは今なおクルマ好きを魅了してやまない。ひとたびステアリングホイールを握れば、音と動きでドライバーの大脳を刺激する。操作に対する大脳へのフィードバックが恍惚を生む。国産車史上、LFAは最も官能的なスポーツカーとして未来に語り継がれることだろう。
(提供:CAR and DRIVER)