またも「ジャニー喜多川氏による性被害事件」が「炎上」した。しかも「火元」は全くの別会社である。山下達郎さんや竹内まりやさんらが所属するスマイルカンパニー(東京都港区)がそれ。音楽プロデューサーの松尾潔氏が同事件について発言したのを受けて、同社がマネジメント契約を打ち切ったのだ。
「もらい事故」で事件が再燃したジャニーズ
これを松尾氏が公表したことで、一旦は沈静化してい事件がマスメディアやSNSで再びクローズアップされることになった。ジャニーズ事務所(同)が、この騒動に関わっていたかどうかは分からない。だが、スマイルカンパニーによる「忖度」の結果だとしたら、とんだ「もらい事故」である。
そもそも、なぜ山下達郎さんの芸能事務所がジャニーズ事務所に「忖度」する必要があるのか?そこには小杉周水スマイルカンパニー社長の実父で、前社長の小杉理宇造氏が関わっている。小杉前社長は元ミュージシャンで、渡米経験がある。
帰国後の1973年に音楽出版社の日音へ入社。1975年にRVC(現BMG JAPAN)へ移籍すると、山下達郎さんやジャニー喜多川氏と知己を得た。その後、ワーナーミュージック・ジャパン会長を経て、1984年にスマイルカンパニーの社長に就任する。
スマイルカンパニーは山下達郎・竹内まりや夫妻のマネジメントが基幹業務だが、小杉前社長とジャニー喜多川氏の人間関係もあり、山下達郎さんが近藤真彦さんやKinKi Kids、少年隊、嵐ら、ジャニーズ事務所所属のタレントに楽曲を提供するなどビジネス上のつながりも深まった。2003年には小杉前社長がジャニーズ・エンタテイメント社長を兼務している。
芸能界は所属タレントの共演などで「持ちつ持たれつ」の関係にあり、相互に批判をしない「暗黙の了解」がある。ましてや関係が深いジャニーズ事務所の不祥事ともなれば、スマイルカンパニーが松尾氏の発言に神経をとがらせたのも無理はない。
だが、こうした「暗黙の了解」は外部環境の変化で、あっという間に通用しなくなる。ジャニーズ問題は以前から知られていたが「芸能スキャンダル」扱いで、週刊誌を除いては大きく報道されることはなかった。
「忖度」された側が大打撃を受ける
昨年、M&A Online編集部もジャニーズ事件で英BBCの取材を受けたが、企画趣旨について「これは芸能スキャンダルではなく、児童に対する性的虐待という人権問題だ」との説明があった。事実、英BBCの番組が放送されると日本でもジャニーズ事件は「人権問題」に変わり、大手マスメディアも大きく報じている。
このように外部環境が大きく変わったにもかかわらず、スマイルカンパニーが従来の「暗黙の了解」に基づく「忖度」行動を取ったがゆえに、事件が再びクローズアップされることになったのだ。同社が問題視した松尾氏の発言は、すでに多くの識者がマスメディアで指摘している内容であり、新味はない。無視していれば、世間で注目されることもなかっただろう。
同社が過度の「忖度」により松尾氏との契約を解除したとすれば、ジャニーズ事務所には「大迷惑」以外の何物でもない。事件が再燃しただけでなく、世間に「ジャニーズ事務所がスマイルカンパニーに圧力をかけたのではないか」との疑念を与えかねないからだ。
同様の事態は一般企業でも起こりうる。例えば大手企業が不祥事を起こしたのを受けて、下請け企業が「SNSで取引先の不祥事に一切触れるな」と通達を出したことが外部に漏れれば、「大手企業が取引停止をちらつかせて、下請けに口止めを強いた」と受け取られるだろう。それがマスメディアやSNSで拡散すれば、最も深刻な打撃を受けるのは「忖度」された大手企業だ。企業不祥事の危機管理として、過度な「忖度」の防止を視野に入れる必要がある。
そのために最も重要なのは、取引先や関係者に「不祥事を隠したがっている」との印象を持たれないようにすることだ。ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長が動画で謝罪したのみで記者会見を開いていないのも、関係者には「不祥事を隠したがっている」と受け取られた可能性がある。
企業の不祥事対策は、「情報を積極的に開示し、問題点を徹底的に洗い出して、再発を防ぐ」のが鉄則だ。関係者による過度な「忖度」は、むしろ逆効果になりかねない。関係者にこうした「忖度」をさせないためにも、この鉄則を厳守すべきなのだ。
文:M&A Online