プロバスケットリーグが大きな変革期を迎えようとしている。バスケットボール男子の「Bリーグ」が競技をさらに発展させるため、リーグ最上位の「B1」を2026年から「Bリーグプレミア」に変更するのだ。変わるのは名称だけではない。現在はチーム成績で下位リーグとの昇格・降格があるが、この制度を廃止。競技の成績ではなく、施設や経営内容で所属するリーグが決まるようになる。
チームの経営力が問われるプロバスケットリーグで、経営コンサルタントの識学<7049>が親会社の福島ファイヤーボンズはどう取り組んでいるのか。同チームを運営する福島スポーツエンタテインメント(福島県郡山市)の西田創社長に聞いた。
2026年6月期に親会社の支援なしでの黒字目指す
-福島ファイヤーボンズの業績はいかがでしょう?
西田 2023年6月期は営業赤字だった。ドル建てで支払う外国人選手の報酬など、円安の影響による支出増も大きい。2024年6月期には営業黒字になる見通しだが、親会社である識学の協賛金を見込んでのこと。2026年6月期には親会社からの協賛金なしで黒字になるよう取り組んでいる。
-具体的には?
西田 先ずは現在のB2リーグからB1リーグへ昇格すること。福島県にB1チームが誕生することで、地元のバスケットボール人気を盛り上げたい。B1に昇格すれば集客数が増え、入場チケット料や広告スポンサー単価の上昇も期待できる。
行政との連携強化も重要だ。郡山市とは、ふるさと納税の「こおりやま応援寄附金」でファイヤーボンズを応援する取り組みを進めている。市や福島県の協力もあり、年間1億円規模の寄付が寄せられた。
さらにホームアリーナの郡山総合体育館が近く大規模改修され、2024年9月には収容能力が3000人から、「Bリーグプレミア」の昇格基準をクリアする5000人に増え、音響や照明などの館内設備も大幅に改善する。
アリーナや陸上競技場、野球場などを備える「開成山地区体育施設」のリニューアルと運営を手掛けるPFI(行政が民間に施設の整備と公共サービスの提供を委託する)受託者である「開成山クロスフィールド郡山」にも出資した。バスケットボールの試合で稼働しない期間に、アリーナなどへのイベント誘致で収益を上げるなど、新たなビジネスチャンスもある。
プレミアか?それともワンか?
-チームを買収した際に、「識学」の手法を用いることでスポーツチームを成長させる方針を掲げていました。3年運営してみて、この方針に変化はありませんか?
西田 実際にチームを運営してみて、ビジネスと同様にスポーツでも「識学」の原理原則は変わらず有効だと確信した。唯一の違いはスポーツでは勝ち負けがはっきりしており、必ず勝者と敗者に分かれること。ビジネスのような「Win-Win」の関係はない。ビジネスよりもシビアな結果が求められるのだ。スポーツチームの運営で得られた新たな知見を、ファイヤーボンズから識学へフィードバックしている。
-2026年にプロバスケットのトップリーグは、現在のB1から「Bリーグプレミア」へ移行します。プレミアへの昇格については、どのようにお考えですか?
西田 もちろんプレミア昇格も視野に入っているが、ファイヤーボンズにとってベストかどうかを検討する必要はあると思う。
-と、言いますと…。
西田 プレミアは外国人選手枠も広がり、日本代表を強化するために「世界を追いかけるリーグ」という性格が強まる。一方、現在のB2が移行する「Bリーグワン」は地域対抗で、選手と観客が一丸となって盛り上がるリーグになるだろう。
そうなると、地域密着型のチームとして育ってきたファイヤーボンズにとって、国内バスケットボール競技のレベルアップのためにプレミアに昇格するのが良いのか、それとも福島を元気にするためにワンで地域密着型の活動をするのが良いのかを熟慮しなくてはならない。とはいえ、B1への昇格は目指す。その上でプレミアかワンかを選択する。
-福島は処理水問題で揺れています。こうした地域の危機にスポーツが果たす役割は大きいですね。
西田 ファイヤーボンズは原発事故被災地でのプレシーズンマッチを多数実施しており、毎回満員御礼の状態だ。懸念される風評被害に対しては、福島に安全でおいしい農水産物がたくさんあることを、チームから全国にへPRしたい。
同時にB1へ昇格して福島県内でプロスポーツのトップリーグに所属する最初のチームとなり、地域を元気にできればと考えている。地元で様々な行事に「参加してくれないか」と声がかかる機会も増えており、引き続き地域活性化に貢献していきたい。
-運営会社の福島スポーツエンタテインメントとして、バスケットボール以外のスポーツでプロチームの買収は検討していますか?
西田 将来どうなるかは分からないが、現時点では新たなスポーツチームの買収は全く考えていない。
文・聞き手:M&A Online 糸永正行編集委員