不二家<2211>は10月16日、電子商取引(EC)の新チャネル「FUJIYA Sweets.com」を開設した。同社のECサイトには公式ネットショップ「ファミリータウン」があるが、品揃えで差別化を図る。菓子業界ではEC化の流れが加速しており、今後のトレンドになりそうだ。

老舗の不二家、新興のBAKEがそろってEC強化へ

「FUJIYA Sweets.com」オープン初日の商品は、菓子に加えてレトロなペコちゃんソフビ人形とオリジナルトートバッグ、不二家デザインの楽天ポイントカードなどの「不二家の創業祭 アニバーサリーセット」(3900円、別途送料1100円)や、同社初の犬猫用クリスマスケーキ(1540円、店頭受け取りのみ)といった特別商品が中心。いわば「アンテナショップ」的なECサイトだ。

受発注システムには、スマートフォンから簡単にオーダーできるネットスターズ<5590>の「StarPay-Order」を採用。ECサイトにありがちな「煩雑で使いにくい」ユーザーインタフェース(UI)の改善を試みている。不二家洋菓子店が展開していない地域での受注拡大に結びつける方針だ。

菓子業界では、BAKE(東京都港区)のECシフトが注目されている。同社は国内67店舗、海外19店舗の86店舗を展開する菓子販売スタートアップ。2017年に投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループに買収され、年間1000万個以上を販売する「PRESS BUTTER SAND(プレスバターサンド)」などのヒット商品に恵まれ年商百数十億円台にまで成長し、新規上場(IPO)に向けた準備も進んでいた。

しかし、コロナ禍で店頭販売が激減。IPOも一時断念せざるを得なくなる。そこで事業を立て直すために、自宅からでも注文できるECサイトの整備に乗り出した。

2020年6月にオンラインストアを開設。実店舗では「PRESS BUTTER SAND」や「BAKE CHEESE TART(ベイクチーズタルト)」「ZAKUZAKU(ザクザク)」といったブランド別の専門店を展開していた。オンラインストアでは全ブランドをまとめて販売する方式に転換するなど、ワンストップショッピングで使い勝手を重視した戦略転換も断行している。


菓子業界全体でもECシフトが加速

10月10日にはECを中心とする新ブランド「しろいし洋菓子店」を立ち上げた。現在、BAKEの売上高に占めるEC化率は7%と業界平均よりもかなり高いが、これを今年度中に10%、向こう3カ年で15%に高める方針だ。コロナ禍が解消しても、実店舗での販売は人手不足による運営スタッフ不足や人件費高騰などの問題が山積している。

同社では2022年7月から現在までに国内5店舗を閉店したが、ECシフトなどの戦略転換で2023年6月期の売上高は、コロナ禍前(2019年6月期)の約8割まで回復しているという。こうした課題の解決に加えて、ネット会員などの顧客基盤を構築することにより、販売やマーケティングのビッグデータを収集できるメリットもある。

矢野経済研究所の「和洋菓子・デザート類市場に関する調査」によると、同市場の2021年度市場でECを含む通信販売は、まだ5.2%程度。だが、足元の変化は起こっている。GMOのECサイト構築SaaS(Software as a Service=クラウド上にあるソフトウェアを必要な分だけインターネット経由で利用できるサービス)「MakeShop byGMO」の2022年調査によると、同社が提供するECサイト構築サービスでは「フード・菓子」が最も多く、全受注の18.1%を占めた。

コロナ禍前の2019年との比較で、顧客からの注文数シェアは「ファッション・ブランド」が17.2%から17.9%の微増だったのに対して、「フード・菓子」は13.4%から17.6%に急増。トップが入れ替わる勢いだ。

不二家の新ECチャネル「FUJIYA Sweets.com」は商品数も現時点で4品目と少なく、方向性は明確ではない。しかし、既存「ファミリータウン」とは別のチャネルを立ち上げた以上、何らかの戦略転換はありそうだ。人手不足や原材料の値上げで、コスト削減や商品の高付加価値化は急務。その有力な手段の一つとして、菓子業界はEC化に注目している。今後、菓子各社のECシフトが加速するのは間違いなさそうだ。

文:M&A Online