ガザ地区を実効支配する武装勢力ハマスとイスラエルとの戦闘はエスカレートするばかりだが、これにより懸念されていた石油価格の上昇は起こっていない。過去には1973年10月の第四次中東戦争を受けて石油価格が約4倍の11.65ドルに跳ね上がったのを皮切りに、イラン革命やイラン・イラク戦争、湾岸戦争など、中東で紛争が勃発するたびに石油価格は高騰を続けてきた。なぜ、今回の戦闘で石油価格は上昇していないのか?

戦闘前よりも値下がりした石油価格

国際石油価格の指標となるブレント原油の価格は9日の終値で1バレル=80.01ドルと、戦闘が始まる前日に当たる10月6日の終値同84.58ドルを下回っている。これは現時点で戦闘がガザ地区と周辺の石油を産出しない地域に限定されており、産油国へ拡大する懸念がないという地政学的リスクの低さがある。

ただ、石油は巨大な取引市場を持つ投機商品であり、現実に石油採掘・精製施設の破壊や輸送ルートの封鎖などが起こらなくとも、その可能性がわずかでもあれば価格は高騰するものだ。そうした動きが見えない背景には、石油供給に多少の地政学的リスクがあったとしても経済活動への影響が少ないとのコンセンサスがある。


値上がり続く日本の石油価格、脱炭素化が急務

米エネルギー情報局が7日に発表した「短期エネルギー見通し」によると、米国のガソリン消費量は2024年に1% 減少し、国民1人当たりのガソリン消費量は過去20年間で最低となると予測。リモートワークの増加で自動車による移動回数が減るのに加えて、米国で販売される自動車の燃費向上などが理由だ。

電気自動車(EV)の普及が進めばガソリン消費はさらに減少し、石油価格の引き下げ圧力になるだろう。もちろん戦火が拡大してイランが参戦し、石油輸送の大動脈であるホルムズ海峡を封鎖するなどの事態になれば、石油価格は高騰する。そのリスクはゼロではない。

一方、日本の石油価格は国際価格の安定とは裏腹に、円高により政府による補助金がなければ1リットル=204円台と高値が続く。原産国の地政学的リスクと為替に大きく左右される石油への依存を引き下げるため、日本も再生可能エネルギーの供給拡大策やEVシフトといった「脱炭素化」を急ぐ必要がありそうだ。

文:M&A Online