数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Onlineがおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

・・・・・

M&Aを失敗させない企業買収先「選定」の実務 田中大貴著、中央経済社刊

M&Aは一般に戦略策定、ディール(取引)、PMI(M&A実行後の統合プロセス)という3つの工程に大別される。最上流工程に位置する戦略策定の核心は次の一点に集約されると言って差し支えない。「どのような理由で、どの企業を買うのか」。

タイトルが示すように、対象企業の選定方法にフォーカスしたのが本書。M&Aはしばしば結婚にたとえられるが、「どうすれば結婚を成功させられるか」ではなく、「そもそも誰と結婚するべきか」をテーマに据えている。

M&A Online

(画像=「M&A Online」より引用)

自社の経営課題に対して解決の方向性は自力解決と他力解決の二通りがある。他力解決を選んだ場合にM&Aの出番。その際、最も重要とされるのが買収目的を明確にできるかどうか。つまり、買収によって何を獲得するのかということ。対象企業に求める要件を設定するためには、まず買収目的を明確にする必要があると強調する。

本書は戦略の方向性の検討から買収目的を明確にするまでの手順を解説する。企業の成長戦略策定に使われる「アンゾフのマトリックス」や、マーケティング環境の分析に有効な3C(顧客・自社・競合)などの手法をベースに、当該企業における買収目的を明らかにする。

買収目的が定まった後は、対象企業に求める要件を定める。要件が決まっていないと、対象企業をやみくもに探すことになりかねない。いくつかの条件のうち、これだけは必須というのが要件だ。この要件には買収予算、買収後に対象企業を自社に吸収するのか、それとも子会社としてぶら下げるのか、といった買収側のスタンスも含まれる。

要件が設定できれば、次は候補企業のピックアップと選定だ。要件に合致した企業を一通りリストアップするロングリスト作成では「せめて100社」を目標として示す。さらに絞りんだショートリストは10社程度、実際に接触するコンタクトリストは3社程度が目安という。

選定にあたってはM&A仲介会社などから紹介される「持ち込み型」と、自らアプローチする「口説き型」の2パターンがあり、それぞれの勘所を押さえた。

著者はM&A戦略コンサルティング会社、MAVIS PARTNERS(東京都港区)の代表を務める。ベイカレント・コンサルティングのM&A戦略部門長などを経て2019年に独立した。著書はほかに、「ポストM&A成功の44の鉄則」(日経BP社)がある。(2023年9月発売)

文:M&A Online