国内の菓子・パン業界が過去最高の好況感に沸いている。帝国データバンクの景況調査によると、50を上回ると「景気が良い」、逆に下回ると「景気が悪い」とする景気DIで、同業界のDIが全産業平均を13カ月連続で上回り、2023年7月には50.3と過去最高を記録した。原材料費やエネルギー費の高騰に苦しめられている同業界が、なぜ活況を呈しているのか?

コロナ禍の収束で販売は好調、しかしコスト高が…

円安の進行により、菓子・パン業界のコストは引き続き高い状態にある。政府による輸入小麦の売り渡し価格こそ10月に 1トン当たり6万8240円に引き下げられたが、2021年4月期の5万1930円に比べると、まだ3割も高い。さらにバターの卸値が4年ぶりに上昇し、「エッグショック」で鶏卵も値上がりするなど、原材料の値上がりは深刻だ。

それにも関わらず景況感が好転しているのは、新型コロナウイルス感染症が5類に移行して行動制限が事実上全廃され、外食や観光土産、贈答品などの購入機会が高まったことが挙げられる。

コロナ禍では行動制限に伴い外食用や学校給食向けパンの需要が激減。観光地でのお土産やインバウンドに需要も失ったことで、2020年4月には DIが19.3まで下落した。その後はコロナワクチン接種の開始や感染予防策の徹底により外出制限の緩和が進み、DIは改善していた。


順調にコスト転嫁が進み、好況感が高まる

一方で、急激な円安と原材料・エネルギーの値上げでコストが急増。利益の低下やインフレ懸念での販売不振が懸念される。しかし、現時点では大きなマイナス材料にはなっていないようだ。理由は値上げによるコストの価格転嫁が進んでいること。

同業界のコスト上昇分に対する販売価格への転嫁度合いを示す「価格転嫁率」は、2022年12月時点の43.6%から、2023年7月には54.0%に上昇している。コストが100円上昇した場合に54.0円を販売価格に上乗せできたことになり、1年足らずで10.4円ほど価格転嫁が進んだことになる。これは全産業の43.6%に比べても高い。

もう一つ懸念された値上がりによる消費の減退だが、総務省の家計調査によると、1世帯当たり(2人以上世帯)の2023年1~9月期の菓子・パンの支出金額は「菓子」が前年同期比5.8%増、「パン」が同 3.4%増と増加しており、値上がりによる買い控えは起こっていない。

帝国データバンクでは原材料の値上げラッシュが徐々に落ち着きつつあることから、菓子・パン業界の景況感は堅調に推移するとみている。今後は円安で急増するインバウンド需要の取り込みや、国内消費者の健康志向、プチ贅沢志向の高まり、出社率が回復したオフィス需要などへの対応が業績向上にカギになると指摘している。

文:M&A Online