特集「令和IPO企業トップに聞く 〜 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。
1979年3月、京都大学法学部卒業後、4月に大和証券株式会社(現株式会社大和証券グループ本社)入社。その後コスモ証券株式会社(現岩井コスモ証券株式会社)、エイチ・エス証券株式会社(現Jトラストグローバル証券株式会社)と一貫して引受(公開引受)業務に従事。 2019年4月、山田孝会長(現相談役)の求めに応じて当社入社、2020年4月、代表取締役社長に就任(現任)。
目次
創業から上場までの事業変遷について
――創業からの事業の変遷についてお聞かせください
株式会社オービーシステム代表取締役・豊田利雄氏(以下、社名・氏名略):
当社は1972年に設立しました。設立の経緯としては、当社の創業者である現相談役の山田が、株式会社オービックの野田会長の前職での後輩であったことから、野田会長の呼びかけで山田6:野田会長4の出資割合でオービック社へソフトウェアを供給する会社を立ち上げました。
その後1976年に日立製作所の関西進出時にビジネスパートナーとして金融機関系の大規模システム開発の一端を担い、また三菱電機グループやNTTデータなど大手Sierとも長く取引を継続し、拡大しています。
一方でオービック社はシステムを自社開発にシフトしたことから、現在は取引関係はありません。3割弱の出資による持分法適用関係会社であることと、社外監査役を1名派遣していただいている関係となっています。
当社は2023年6月に東京証券取引所スタンダード市場に上場しましたが、売上構成は、日立製作所グループで7割弱、三菱電機グループ1割、他大手Sier1割、エンドユーザーとの直接取引1割という割合で、大きな変動なく続いています。
――上場記者会見で人材開発の重要性に触れていましたが、具体的に教えてください。
豊田:「2025年の崖」としてIT技術者人材が大きく不足している状況でもあり、私たちの業界では、適切な人材がいれば仕事は十分以上にあります。
システム開発は業務知識のある人材が不可欠で、単にシステムを構築するだけでは実際には上手く機能しません。当社は、日立製作所グループや三菱電機グループといった企業と長年にわたる取引があり、その中で積み重ねてきた業務知識とシステムスキルが高く評価されてきました。ただ、事業拡大のための人材確保は急にはできません。こちらも積み重ねが重要で、採用も即戦力となるキャリア採用もありますが、主に新卒中心でOJTを通じて育てています。
エクイティを活用しようと思った背景や思い
――設立から50年以上経って上場したのはなぜですか
豊田:創業時から「社会に貢献できる会社」という企業理念があり、上場がその選択肢でした。過去に創業者が再三上場にチャレンジしましたが、バブル崩壊、リーマンショックと市場環境の悪化により業績が低迷し上場を断念しました。
私は山田と血縁があり、また証券会社で長年引受(公開引受)業務に従事していたため、山田から上場の相談を受けサポートしていましたが、社内で旗を振ってほしいとの要請があり、社長として4年かけて上場準備を行い、上場を果たしました。
――上場の目的は何ですか?
豊田:先に述べた通り創業者の上場への意欲があり、社是として社会貢献のための意識もあったことから、上場を目指しました。上場により資金調達だけでなく、知名度が上がり今後の成長のための投資や、人材拡充のための採用活動なども格段にやりやすくなるなど、効果が表れています。
わが国においてDX化は喫緊の課題であり、クラウド対応できる技術者の確保などまだ課題を抱えています。これらの課題に対応するため、調達資金を使っての人材教育の拡充やスピード確保のためのM&Aなど、上場により選択肢が増えています。
今後の事業戦略や展望について
――今後の事業戦略についてはどのようにお考えですか
豊田:現在、地方銀行をはじめとする金融機関からの仕事を多くいただいており、日立製作所グループからの信頼も厚いため、その業務を継続していくことは変わりません。しかし、成長分野としてDX、つまりデジタルトランスフォーメーションやクラウド系の仕事が重要であると考えています。当社はその分野でのノウハウを持つ人材を育てるため、アジャイル型の開発やクラウドを使ったシステム開発に注力し、専門性を高めていくつもりです。
また、自社販売の拡大も視野にいれています。システム業界は変化が激しく、大手に追随するだけではなく、直接取引の拡大も重要と考えています。自社での開発力を高め、アジャイルな開発体制を整えることで、市場の変化に対応していきたいと考えています。
――DX関連事業を今後は伸ばしていかれるとのことですが詳細について教えてください
豊田:私が社長に就任してから3年半が経ちます。その1年前からずっと言い続けていることではありますが、日本のDXの遅れが顕著だと考えています。
銀行で言えばシステムのオープン化、公共で言うとクラウドのデータ連携システム、産業技術で言えばコネクテッドカー関連の開発など、閉じたシステムからどんどんオープンなものに変えていくことが不可欠と考えており、この潮流は暫く続くものと予想しています。
そこで、弊社ではこのDX関連事業の伸長とそれに対応できる人材育成に何よりも力を入れています。
――日立製作所グループとの関係や銀行系との強い繋がりがあるようですが、顧客基盤の拡大についてどのように考えていますか
豊田:かつては都市銀行系システムの開発に強みを持っていましたが、地方銀行を含む幅広い顧客基盤へと拡大しています。現在は更に守備範囲を拡大し金融では生損保、産業流通分野では家電量販店販売管理システム、臨床検査システムのパッケージ、社会公共分野では電力系システム、官公庁・自治体の共通基盤開発など広範な分野での開発を行っています。
――直接取引の拡大に注力するのか、今後の方向性について教えてください
豊田:システム業界は変化が激しく、大手に追随するだけではなく、直接取引の拡大も重要です。自社での開発力を高め、アジャイル等最新の開発技術にも対応し、市場の幅広いニーズに応えていきたいと考えています。
直接取引のクライアントを増やすことにも積極的に取り組んでいますが、システムの仕事は単に営業を行うだけではなかなか契約に至らないことが多いのが現実です。成約案件の多くは既に関係のあるクライアントからの紹介や、過去に当社が関わった案件の担当者が転職して新たな取引を生むケースが多いです。それでも直接取引は利幅が良いため、可能な限りその方向での発展を目指しています。
当社のベースは固まっていますが、成長分野であるDX関連人材を増やすことも大きなテーマです。新しい仕事を増やすことはリスクでもあり、得意分野を拡大するかたちでDXのスキル、経験を伸ばしていくのが良いと思っています。体制を整え、バランスを取りながら成長する土壌を育てていく必要があります。我々の強みを活かし、人材の確保と育成に努め、直接取引やDX系の新しい技術にチャレンジして仕事を増やしていくことが重要だと考えています。
――御社の強みを教えてください
豊田:当社は日立製作所グループや三菱電機グループといった日本を代表する企業と長く取引を続けており、日立製作所グループであれば金融系、産業流通系、三菱電機グループであれば社会公共系など幅広い分野で実績を積んで知見を有しており、30年、40年と取引を継続できていることは仕事が確かで信頼されていることを示していると考えています。
この金融/経済市場においてのファイナンスにおける課題や重点テーマについて
――今後の投資計画について詳しく教えてください
豊田:先に申し上げた通り、システム業界においては人材の確保が重要な課題となっています。当社も同様ですが、当社は人材を育成する方向で考えています。一方でスピード感も大事です。そのためM&Aを活用して成長を加速させることも考えています。システム業界は70年代、80年代に創業した規模の小さい会社も多く、事業継承などの問題を抱えています。場合によりこのような会社もグループに取り込んで連結経営での成長を図ることも考えています。
DX関連でオープン化、クラウド化、AI、ビッグデータなど需要は旺盛にあり、M&Aで開発体制の一層の充実を図りこれらの仕事をこなすことで着実に成長できると思っています。
――人材の確保や育成についてはどのような戦略をお持ちですか?
豊田:人材の確保と育成は最大の課題です。確保できる人材がいれば、それに応じた仕事量は確保できるのですが、新しい業態に対応するためには、既存の強みを活かしつつ、必要な人材を増やしていく必要があります。具体的には、銀行システムや流通量販店、商社システム、電力系システムなど、当社が強みを持つ分野での人材育成に注力し、成長を目指しています。
――海外展開/オフショアの人材はどうですか
豊田:海外展開として過去に中国でのオフショア開発事業に取り組みましたが、十分な効果を発揮するに至らず、現在は国内での開発を基本に考えています。
ZuuOnlineのユーザーに一言
――投資家の皆様に向けて、今後の展望について一言お願いします
豊田:上場してから数ヶ月が経ち、投資家の期待に応えるために業績を伸ばすことが最優先事項です。今期は当初見込みを上回る成果を達成しており、成長戦略としては人材育成とDX関連の技術ニーズに応えることが重要です。国策に沿った形で、これらの分野をさらに発展させていきたいと考えています。 当社はまだまだ成長の余地が十分にあります。短い期間ではなく、長い目で見守っていただけると、安定的に成長を続けられる自信があります。株主の皆様には、増配を中心にした還元を考えており、業績動向を見極めながら適切な対応をしていきたいと思います。
- 氏名
- 豊田利雄(とよだとしお)
- 社名
- 株式会社オービーシステム
- 役職
- 代表取締役