中部電力<9502>の林欣吾社長が日本経済新聞のインタビューで、再生可能エネルギー事業者の買収に取り組む方針を明らかにした。発電・変電・送電・配電を統合した電力系統(グリッド)の不安定化を招くとして、再生可能エネルギー事業者からの電力買い入れに慎重だった大手電力。なぜ、ここに来てM&Aで自社グループに取り込もうとしているのか?中部電は国も旗を振る脱炭素化の目標を達成するためとしているが、それだけではない。
再生可能エネルギーが「最も安い電源」に
最大の理由はコスト。原子力発電は安全対策の強化で追加費用がかかる。火力発電の燃料となる石炭や石油、LNGは二酸化炭素(CO₂)の排出もさることながら、中東情勢の不安定化などによる供給不安と円安で、輸入価格が高騰するリスクが高い。
一方、再生可能エネルギーは技術革新と設備の大量生産化でコスト削減が進んでいる。資源エネルギー庁の2021年12月時点の試算によると、2030年の発電コストは事業用太陽光が8.2〜11.8円/kWh、陸上風力が9.8〜17.2円/kWhと、最も安い原子力の11.7円/kWhからよりも安い。これは2年前の試算なので、現在は再生可能エネルギーの発電コストがさらに下がっている可能性が高そうだ。
しかも再生可能エネルギーは完全自給できるため、為替相場や海外の事情で火力発電の燃料のように調達コストが跳ね上がる可能性がない。長距離送電が可能となる高電圧直流送電(HVDC)技術を導入すれば、遠隔地から都市部に太陽光や風力で発電した電力を供給できる。中部電力が直流送電技術を持つ東芝に出資したのも、再生可能エネルギーの活用を念頭に置いたものだろう。
スマートグリッドによる再生可能エネルギー電力の地産地消が進めば、電力系統に負荷をかけるリスクも低下する。つまり再生可能エネルギーは、大手電力会社にとっても魅力的な電源になってきたわけだ。自社に取り込もうとするのも当然と言える。事情は他の電力会社でも同じ。今後は大手電力による再生可能エネルギー事業者のM&Aが活発化するだろう。
文:M&A Online