この記事は2024年2月3日に「CAR and DRIVER」で公開された「EU市場で中国製BEVが急拡大。中国 vs EU首脳それぞれの思惑」を一部編集し、転載したものです。
EU市場で中国製BEVが急拡大。中国 vs EU首脳それぞれの思惑
2023年12月7日、中国の習近平国家主席、李強首相は北京の釣魚台国賓館でEU(欧州連合)のミシェル大統領、フォン・デア・ライエン欧州委員長、ボレル外交安全保障上級代表らと会談した。EUと中国の首脳が対面で会談するのは、4年ぶりである。
EUは中国との貿易で約4000億ユーロ(約62兆4000億円)の赤字に陥っている。EUとしては「中国による不公平な競争」は容認できないという意思を示したが、習主席は「お互いは良好な強化と発展を見せている。中国とEUで制度の違いがあるからといってライバル視するのはよくない、競争しているからといって、協力を惜しんでならない」という趣旨の発言をした。
この発言で注目を集めたのが「競争しているからといって、協力を惜しんではならない」という部分だ。中国製BEVが欧州市場で急拡大している現状を受け、EUは「中国政府の援助を受けて、本来の価格よりも安い価格で欧州市場で販売されているのではないか」という疑念を抱いている。フォン・デア・ライエン欧州委員長は2023年9月に「巨額の補助金で販売価格を抑え、欧州マーケットを歪めている」と中国製BEVを批判した。そして補助金に関する調査を開始し、2024年11月までに最終措置を取るのか、調査終了で完結するのかを決定する方針を打ち出している。ここでいう最終措置とは相殺関税の賦課である。
相殺関税とは、輸出国側が補助金を設定している輸入品に対しては、国内産業を保護することを目的として、補助金額の範囲内で割増関税を賦課する制度。これはWTO(世界貿易機構)の協定でも認められている。参考までにEUの輸入自動車に対する関税は10%、中国は15%、米国は2.5%、日本はゼロである。
実際、欧州マーケットで中国製BEVは急伸している。日本貿易振興機構(JETRO、ジェトロ)が2023年14日発表したレポートによれば、中国製BEVの欧州販売は2023年1〜9月111万2192台と、前年同期比55.2%増。前年は1年間で112万3778台の販売だったから、2023年が前年実績を大きく上回るのは確実。欧州における中国製BEVシェアは15%に迫る勢いだ。 VWは2033年以降は欧州用モデルは100%BEVとし、アウディは2026年以降の新型車は100%BEVとするなど、各社そろってBEV色を鮮明にしている。そこに市場シェア15%をうかがうプレイヤーが突如進出してきたのである。これは脅威である。
フランスのマクロン大統領は2023年、BEVの製造・搬送過程で排出されるCO2量を考慮して、EV購入補助金を設定するように制度を変更した。火力発電を使った中国の工場で生産され、輸送船で運ばれてきたBEVに対する牽制ともいえる。 強力なバッテリー供給力と価格競争力でEUに進出する中国製BEVは、欧州メーカーのBEV価格を引き下げる要因になる可能性はあるのか。欧州メーカーの対応にも注目だ。
(提供:CAR and DRIVER)