この記事は2024年2月13日に「CAR and DRIVER」で公開された「【必読レポート】池田直渡が語る「電動化時代のスポーツカー像」」を一部編集し、転載したものです。


【必読レポート】池田直渡が語る「電動化時代のスポーツカー像」
JMS2023に出展されたICONIC SPはロータリーを使ったEV技術の発展性を示したコンセプトモデル。「純粋に楽しいクルマがほしい」というユーザーの声に応えたスポーツカーである。マツダの歴代スポーツのエッセンスが香るスタイリングは、次世代RX-7といったイメージ。現行ロードスターの発展版という雰囲気も漂う

ロータリーEVは、今後マツダの独自性を鮮明にする技術として発展する

マツダは中期経営計画の中で、「商品/技術のビルデングブロック構想」を打ち出している。技術は個別バラバラではなく、順列組み合わせで、3つの群で展開が可能になるビジョンだ。

今回MX-30・Rotary-EVに搭載されたロータリーレンジエクステンダーもそのビルディングブロック構想の一部となっている。MX-30は3つの群の内、スモール群に分類される車両で、パワートレインは横置きかつモーターと同軸にしたワンローターユニットからなる。システム構成としてみればシリーズハイブリッドであり、17.8kWhのバッテリーと組み合わせることで、WLTCモードで107kmのEV航続距離と15.4km/リッターのハイブリッド燃費を達成している。

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シリーズハイブリッドシステムでありながら、運用上、日々の使用はBEVとしてゼロエミッションを達成。長距離が求められるケースに限り、ロータリーユニットで発電しながらモーターで走る。ここで重要なのは、車両の生涯走行距離のほとんどはBEVとして運用されるという点である。世の中にはもっとハイブリッド燃費のいいユニットも存在するが、エンジンの出番が決して多くないことを前提にすれば、コンパクトさと価格の安さこそが重視されるべき。大きく複雑でコストの高いユニットをマレな使用機会のために温存するのはエンジニアリングとしてスマートではない。そういう意味では、R-EVは当面レンジエクステンダーの決定版となり得る素質がある。

さらに2023年10月末に開催されたジャパンモビリティショー(JMS2023)では、このロータリーレンジエクステンダーを2ローター化して搭載したコンセプトモデル、ICONIC SPが出品されて注目を集めた。

ICONIC SPは電動化時代の新スポーツカー像を提示。ロータリー直接駆動も夢ではない

ICONIC SPでは、2ローターユニットは縦置きに搭載された。ユニットはアルミのXバックボーンフレームに深い位置でフロントミッドシップに搭載される。システム構成上、トランスミッションを持たないので、ロードスター以上にユニットを後ろに寄せて搭載できる。システム出力は370ps、パワーウェイトレシオ3.9kg/ps、前後重量配分50対50というから、常識的に考えてRX-7後継の本格的ミドルスポーツとして企画されていることがわかる。

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つまりロータリー発電ユニットは、2ローター化によって、電動化時代のスポーツカーを誕生させたともいえる。このユニットがあれば、各国の環境規制を満たすスポーツカーを生産することができるというわけだ。ちなみにマツダの資料には燃料について、カーボンニュートラル燃料(CNF)と書かれている。

ロータリー・ファンの方々は、ICONIC SPがかつてのRX-7のように、直接後輪を駆動して走る姿に期待を寄せるだろう。システムとしてはそれも可能だ。ポイントは縦置き搭載である。インテリアを見てもセンタートンネルはかなり高い。普通に考えてエキセントリックシャフトからプロペラシャフトを回して、後輪を駆動することが想定されているメカニカルパッケージである。
ラージ群のトランスミッションをこれに組み合わせれば、本当の意味でRX-7復活という可能性もあるかもしれない。エンジン出力の向上やマウント位置の工夫など、課題はそれなりにあるが、少なくともエンジン駆動が不可能にならないように細心の注意を払った設計がなされている。

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ロータリー発電機とその発展系システムがあれば、FFベースのBEV+レンジエクステンダーモデルも、FRベースのEVミドルピュアスポーツも、CNFを使う内燃機関FRスポーツも作れるという話になる。

そのうえロータリーエンジンは燃料の「雑食性」が特徴であり、いろいろな燃料で走れる。地域のエネルギー事情によるニーズがあれば低炭素の天然ガスや液化ガスにも、カーボンニュートラルのバイオガスや水素やe-FUEL、バイオエタノールにも対応できる。CNFの普及はまだこれからで、どれが主流になるかはいまのところ誰にもわからない。だが、どれであったとしても困らないところがロータリーのメリットのひとつである。

もうひとつ、縦置きにも対応が可能となれば、ラージ商品群との組み合わせも考えられなくはない。マツダには世界で唯一、トヨタのTHS-Ⅱを脅かす燃費を叩き出すSKYACTIV-D 3.3のマイルドハイブリッドシステムがあるが、環境規制の先行きによっては、ディーゼル系が厳しくなる可能性もないとはいえない。もちろんSKYACTIV-DのCNF化も開発は進んでおり、すでにバイオフューエルは実用化を終えているのだが、選択肢が多くて困ることはない。

モリゾウ氏も大いに興味を持ったR-EV。トヨタとの協業で新たな可能性が広がる

MX-30・Rotary-EVの発展性を考えたとき、最も大きいのはマツダ発のこの技術がアライアンスパートナーに供給されることだと思う。ハイブリッドの王者として君臨してきたトヨタだが、このR-EVには敵わない局面が出てきた。

トヨタのTHS-Ⅱは、極めて高性能なユニットだが、それが高性能なのはHEVとしての話である。高熱効率のダイナミックフォースエンジンと回生能力の高いハイブリッドシステムの組み合わせは他社の追随を許さない。ただしPHEVに仕立てようとすると、冒頭に書いたとおり、エンジン性能が過剰になる。優秀であるがゆえのネガティブ面である。滅多に使わないエンジンならば、いたずらに高性能であることよりも、コンパクトさと低コストのほうが優先される。

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それを実感した事件があった。JMS2023のプレスデイの夕刻、突然マツダのブースを訪れたのは自工会の豊田章男会長だった。多くの記者に囲まれて登場した豊田会長を少し離れたところから遠慮がちにマツダの毛籠勝弘社長が眺めているので、筆者は思わず出しゃばって毛籠社長の背中を押して、豊田会長のところへ行った。

豊田会長はすっかりモリゾウの貌になって、興味津々にICONIC SPの周りをぐるぐると歩き回った。筆者は引き合わせた役得で2人の背後について聞き耳を立てていたのだが、ちょっと聞いてみたくなったのでモリゾウ氏に「このロータリー発電機ほしくないですか?」と声をかけた。豊田会長は間髪入れずに、それはもう満面の笑みで「ほしい」とひと言。

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トヨタは、スバルとの協業で、すでにGR86/BRZやbZ4X/ソルテラを製品化されている。マツダとも同じような動きが期待できるかもしれない。とくに2ローターの高出力システムはトヨタにとっても大いに魅力的に映るはずだ。次期RX-7と目されるICONIC SPと兄弟車になる可能性のトヨタ車と考えれば、セリカかMR2だろう。トヨタの様子を見ていると、セリカはすでに動き始めているもようで、ICONIC SPのシステムをいまから投入するのは苦しそうだ。

むしろICONIC SPのフレームを前後逆に使ったらどうなるだろうか。2ローターユニットのミッドシップ。システム出力370ps、パワーウェイトレシオ3.9kg/ps、前後重量配分50対50。電動化時代のMR2として出てきたらすごい展開になる。マツダとしてもICONIC SPを単独で出すのは少々リスクが高い。現行ロードスターをアバルト(ステランティス)と協業したような形で、パートナーがほしいはず。 そういう意味では協業先としてトヨタは申し分ないだろう。

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Writer:池田直渡、Photo:MAZDA


(提供:CAR and DRIVER