この記事は2024年2月18日に「CAR and DRIVER」で公開された「【注目技術ガイド】やっぱりエンジン! 発電用エンジンが電動車に新たな魅力を与える」を一部編集し、転載したものです。
MX-30に試乗してロータリーの可能性を実感
MX-30・Rotary-EVに試乗しているとき、不思議な現象が起きた。エンジンがかかっているようにはまるで思えなかったのに、メーターパネル内の燃費計がそれまでの「—.—km/リッター」から「60.0km/リッター」に切り替わった後、コンスタントに低下していき、最終的には「22.0km/リッター」あたりで落ち着いたのである。
このとき私が選択していたのはノーマルモード。MX-30・Rotary-EVにはこれ以外にEVモードとチャージモードがある。ノーマルモードは一般的なPHEVのハイブリッドモードと考えられる。
エンジンがかかっていない(ように思えた)のに燃費データが低下していったのは、いかにも不思議。そこでマツダのエンジニアに尋ねたねたところ、こんな答えが返ってきた。
「MX-30・Rotary-EVに搭載されたエンジンの最高出力は53kWですが、モーター出力にはもっと余裕があって最高120kWを生み出せます。そこで、エンジンだけでは不足する約70kWの電力を必要に応じて車載の高圧バッテリーでカバーするのですが、バッテリーの最大出力はSOC(充電率)によっても変化します。MX-30・Rotary-EVの場合、SOCが46%のときにバッテリーの最高出力が70kWとなるので、ノーマルモードではSOC46%を維持するようにエンジンで充電しています」
この答えには心底、驚いた。私が気づかなかっただけで、試乗中にもエンジンはかかっていたのだ。
これに先立ち、エンジンがかかるとどんな振動やノイズが伝わってくるのかを確認するため、私はチャージモードを試していた。すると、「ルルルルルルッ!」となにかが勢いよく回転していることを感じさせるバイブレーションと音がかすかに認められた。ただし、ノーマルモードで走っているとき、これに類する振動やノイズは感じられなかった。だから私は「エンジンはかかっていない」と判断したのである。でも、実際にエンジンはかかっていた。なぜ、私は気づかなかったのか?
その答えは「ノーマルモードでは、エンジンの振動やノイズができるだけ小さくなる負荷領域でバッテリーを充電しているから」という。一方のチャージモードでは、設定されたSOCまで素早く充電するため、最高出力が得られる4300rpm付近でエンジンを回すという。つまり、使い方しだいでは、その存在をまったく感じないほど、8Cと呼ばれる発電用の新開発ロータリーは静粛性に優れているのである。エンジンがかかっていても純BEVのイメージで走れた。
日常はBEV。そして長距離でも電欠知らず。ロータリーが地球への優しさを実現
8Cはシングルローターであるにもかかわらず、エンジンがかかっていることをまるで気づかせないとはさすがだ。とはいえ、それでも問題は残る。燃費が決して良好とはいえないことだ。
先ほど燃費計は最終的に22km/リッターあたりで落ち着いたと記したが、これはバッテリー電力で走行した距離も含んだ平均燃費である。そこで表示された電費やSOCの変化分などから実質的な燃費を再計算すると、ロータリー単独の燃費は、約13km/リッターとの答えが得られた。この計算は必ずしも正確とはいいきれないが、カタログ記載の15.4km/リッターというハイブリッド燃費とのズレはさほど大きくない。いずれにせよ、発電用エンジンを積むMX-30・Rotary-EVの実質的な燃費は10km/リッター台半ばと考えられるだろう。
この効率の低さこそ、ロータリーエンジン最大のアキレス腱である。そして、この点だけを取り上げれば、CO₂削減が求められる現在、ロータリーエンジンが生き延びることは不可能ともいえる。
けれども、マツダの中井英二執行役員は、ロータリーエンジンの価値をこんな風に説明してくれた。「われわれの調査によると、お客さまの90%以上は平日の走行距離が100km未満で、週末にのみ最長600kmほどの遠出をします。つまり、MX-30・Rotary-EVであれば平日はピュアBEVとして、そして休日は遠距離走行が可能なハイブリッド車として使うことで、CO₂削減と使い勝手のよさを両立できるのです。しかも、ロータリーエンジンを用いずに、これと同じようなPHEVをコンパクトサイズでまとめ上げるのは、かなり難しいと思いますよ」
EVが走行時にCO₂を排出しないのは事実だ。けれども、大量のバッテリーを搭載したEVは生産時に大量のCO₂を発生する恐れがある。しかし、MX-30・Rotary-EVであれば、バッテリー容量を最小限に抑えつつ、いざというときの長距離ドライブにも対応できる。したがって、あまり遠出をしないユーザーにとっては、MX-30・Rotary-EVこそが「環境負荷がもっとも小さく、しかも使い勝手のいいクルマ」となり得るのだ。
マツダ・ロータリーEV早わかり
e-SKYACTIVE R-EVと名づけられたシステムは、排気量830ccの1ローター・ロータリー(8C型)で発電機を駆動するシリーズPHEV。R-EV技術は、MX-30を皮切りに車種を順次拡大予定。マツダの電動車技術の切り札だ。発電用にエンジンを使うので、燃費効率と発電効率のベストバランスでエンジンを使うことができるのが利点。新開発8C型ユニット自体も徹底した効率重視設計とされた。走行用モーター出力は125kW。走行モードはノーマル/EV/チャージの3タイプを設定。メーカーは「BEVのMX-30より総合的なパフォーマンスに優れる」と説明する。
日産e-POWER早わかり
日産e-Powerはシリーズハイブリッドの典型的システム。エンジンは発電機を回す原動機に徹し、車輪を駆動するのはモーターのみ。先代ノートに搭載された第1世代は、大負荷時にエンジンが始動すると大きなうなり音と振動を発し、質感が高いとはいえなかった。現行型ノート以降に採用された最新e-Powerは静かさとバイブレーション、そしてパフォーマンスの点でも大きく改善された。新型セレナには新開発1.4リッターの発電専用エンジンを投入、SUVのエクストレイルには圧縮比可変型1.5リッターターボを搭載するなど、エンジン自体の進化にも目を見張るものがある。
ホンダe:HEV早わかり
シリーズハイブリッドとしての基本形はe-Powerと同様だが、e:HEVは高速走行時にはエンジンの出力を直接、駆動輪に伝達する点が特徴。エンジン直結モードを設けた狙いは、高速回転させると効率が低下する電気モーターの弱点を補うこと。第1世代のe:HEVはエンジン騒音や振動が目立ったが、現行シビック以降の最新モデルはエンジン始動に気づかないほど静粛性が向上した。間もなく発売される次期型アコードは電気モーター用とエンジン用でそれぞれ個別の最終減速比を設定。走りのシャープさと熱効率をさらに高めたという。デビューが楽しみだ。
(提供:CAR and DRIVER)