生前贈与はなるべく早くはじめよう!生前贈与の非課税枠の使い方
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生前贈与は相続税を節税するための基本的な方法です。

早いうちに次の世代に財産を引き継ぐことは財産の有効活用としてメリットが大きいです。

本記事では、生前贈与の非課税対策である「暦年課税(暦年贈与)」と「相続時精算課税制度」について詳しく解説します。

また、それぞれのメリット・デメリットや、生前贈与でよくあるトラブルとその解決策も解説します。

この記事でわかること
  • 生前贈与は財産の早期移転による相続税対策に有効。
  • 暦年課税と相続時精算課税の制度があり、選択が重要。
  • 2024年の改正により非課税枠が変更され利用しやすくなった。

目次

  1. 相続と生前贈与の違い
  2. 暦年課税(暦年贈与)
  3. 暦年課税のメリット
  4. 暦年課税のデメリット
  5. 相続時精算課税制度
  6. 相続時精算課税のメリット
  7. 相続時精算課税のデメリット
  8. 不動産も生前贈与は可能
  9. 不動産を生前贈与するメリット
  10. 不動産を生前贈与するデメリット
  11. 生前贈与のよくあるトラブルと注意点
  12. まとめ

相続と生前贈与の違い

生前贈与とは?非課税枠のメリット・デメリットとよくあるトラブルを解説
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自分(被相続人)の財産を他者に引き継ぐ方法には、大きく分けて「相続」と「生前贈与」があります。

これらは財産の移転時期、課税される税金の種類、手続きなどに大きな違いがあります。

生前贈与とは、存命中に自分の財産を他者に贈与することです。

すなわち、自分が生きている間に財産を他者に無償で与えることになります。

「相続」は、自分が亡くなったあとに自分の財産が相続人へ引き継がれることです。

「相続」と「生前贈与」の主な違いは以下のとおりです。

項目 相続 生前贈与
財産の移転時期 被相続人(財産を残す人)の死亡後に発生 被相続人が生存している間に任意のタイミングでおこなう
対象となる税 相続税 贈与税(場合により相続税にも影響)
基礎控除額 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数) 年間110万円(暦年課税の場合)または累計2,500万円(相続時精算課税の場合)
税率の仕組み 累進課税(10%~55%) 累進課税(暦年課税:10%~55%、相続時精算課税:一律20%)
税の負担 一定の条件下では配偶者や未成年者などへの軽減措置あり 贈与額や方法によって税負担が変わり、高額な贈与では贈与税の負担が大きくなる
財産の評価時期 被相続人の死亡時点 贈与時点
特例の活用 小規模宅地の評価減や配偶者控除などの特例が利用可能 教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与、住宅取得資金などの非課税特例を利用可能
メリット ・高額な基礎控除額で税負担が軽減される
・遺産分割協議で公平な配分が可能
・遺産分割のトラブル回避
・財産の早期移転で相続税対策や資金の有効活用が可能
デメリット ・遺産分割協議が必要
・範囲や手続きに制約がある
・基礎控除額以上の贈与では贈与税が発生
・手続きや計画が不十分だと税負担が増えるリスクがある

生きているうちに財産を引き継ぐ生前贈与にはさまざまなメリットがあります。

次章では、生前贈与の非課税対策である「暦年課税(暦年贈与)」と「相続時精算課税」の概要と、それぞれのメリット・デメリットについて詳しく解説します。

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暦年課税(暦年贈与)

生前贈与とは?非課税枠のメリット・デメリットとよくあるトラブルを解説
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暦年課税は、毎年1月1日から12月31日までの1年間で贈与を受けた財産の合計額に対して贈与税が課税される方法です。

この制度では、年間110万円の基礎控除額が設けられており、贈与額が110万円以下であれば贈与税は発生しません。

そのため、毎年少額ずつ贈与を繰り返すことで、相続財産を徐々に減らし、将来発生する相続税の負担を軽減することが可能です。

ただし、贈与者が亡くなる前7年以内におこなわれた贈与は、相続財産に加算されて相続税の対象となるため、注意が必要です。

※令和5年度税制改正により、相続開始前3年以内の贈与に加え、3年超7年以内の贈与のうち100万円を超える部分が加算されることになりました。

暦年課税のメリット

暦年課税の主なメリットは以下の5つになります。

詳しくは以下で解説します。

1.相続税が軽減される

暦年課税では、毎年110万円の基礎控除を利用して財産を贈与することで、相続時の財産総額を減らし、相続税を軽減できます

たとえば、複数年にわたり少額ずつ贈与を繰り返すと、基礎控除分が非課税扱いとなり、結果として相続財産が減少します。

これにより、高い税率が適用される財産の一括相続を避け、税負担を分散できるのが大きなメリットです。

適切な贈与計画を立てることで、相続人間の争いを防ぐ効果も期待できます。

2.計画的に多額の財産を移転できる

暦年課税では、毎年の基礎控除額110万円を非課税枠として利用できるため、長期間にわたり累積的に贈与をおこなえます。

たとえば、10年間にわたり毎年110万円ずつ贈与すると、総額1,100万円の財産を非課税で移転可能です。

この仕組みを活用することで、計画的に多額の財産を移転し、相続財産を圧縮できます。

特に、高齢の親世代から次世代へ資産を少額ずつ移転する際に効果的な方法です。

3.特定の人に特定の財産を贈与できる

暦年課税では、贈与者が財産を渡す相手や種類を自由に選べます。

これにより、家族構成や財産状況に応じて、特定の相続人や親族、さらには第三者へ特定の財産(現金、不動産、株式など)を計画的に贈与可能です。

事業承継に向けて特定の子に株式を贈与する場合や、孫に教育資金を提供する場合など、個別のニーズに応じた財産移転が実現できます。

4.好きな贈与時期を選べる

暦年課税では、贈与者が任意のタイミングで贈与を実行できます。

これにより、贈与者の資金状況や受贈者のニーズに応じた柔軟な資産移転が可能です。

たとえば、子どもの進学や結婚、住宅購入などのタイミングに合わせて贈与をおこなうことで、受贈者が必要な時期に財産を活用できます。

また、経済状況や市場動向に応じて財産価値が高まる前に贈与することで、評価額を抑えることもできます。

5.税制改正リスクを回避できる

暦年課税では、毎年贈与をおこなうことで、将来の税制改正のリスクを分散できます。

たとえば、相続税や贈与税の基礎控除額が減額される、または税率が引き上げられる場合、事前に少額ずつ財産を移転しておくことで改正後の不利な影響を軽減できます。

税制改正は予測困難なため、早めに贈与を進めることで将来のリスクを回避し、税負担を最小限に抑える戦略が有効です。

暦年課税のデメリット

暦年課税の主なデメリットは以下の3つになります。

詳しくは以下のとおりです。

1.高額贈与の税負担が大きい

暦年課税では、基礎控除額110万円を超える部分に累進税率(10%~55%)が適用されます。

特に高額な贈与では税負担が急増し、結果として贈与税の総額が大きくなるリスクがあります。

たとえば、1,500万円以上の贈与では最高税率55%が適用されるため、大きな財産移転には不向きです。

高額贈与を計画する際は、相続時精算課税などの利用を検討する必要があります。

2.相続税との調整が必要

贈与者が亡くなる前の7年間におこなわれた贈与は、相続財産に加算されるため、生前贈与が必ずしも相続税対策に直結しない場合があります(2024年から段階的に7年加算へ移行)。

これにより、計画的に贈与を行わなかった場合、贈与税と相続税の二重課税となるリスクが生じる可能性があります。

贈与額やタイミングを慎重に検討することが必要です。

3.長期間の計画が必要

暦年課税は毎年の基礎控除を利用して少額ずつ贈与をおこなう仕組みのため、大きな財産を短期間で移転するには不向きです。

贈与者が高齢の場合や、急な資金需要がある場合には柔軟性に欠ける点がデメリットとなります。

また、長期間にわたる計画には、定期的な手続きや税務申告が必要で、管理の手間が増える可能性があります。

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相続時精算課税制度

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相続時精算課税制度は、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子または孫への贈与に適用される制度です。

この制度を選択した場合、2,500万円の特別控除額が適用され、この金額までの贈与は贈与税が非課税となります。

ただし、この制度を選択すると、その贈与者からの贈与は全て相続時精算課税制度の対象となり、暦年課税に戻すことはできません。

贈与時には贈与税を納めるものの、相続発生時に相続財産と贈与財産を合算して相続税を計算し、既に納めた贈与税額を控除する仕組みとなっています。

令和5年度の税制改正により、相続時精算課税制度を選択した場合でも、毎年110万円までの贈与であれば贈与税がかからなくなりました。

相続時精算課税のメリット

続いては相続時精算課税のメリットを見ていきましょう。

相続時精算課税主なメリットは以下の3つです。

1.あるまとまった資金を任意のタイミングで贈与ができる

暦年課税を利用すると、進学、結婚、住宅購入など特定の目的に応じて、必要な金額を贈与できます。

贈与時期も自由に決められるため、受贈者が財産を必要とするタイミングで適切に資金を移転可能です。

また、贈与者の資金計画や意向を反映しやすく、家族間で財産の有効活用がしやすいのが特徴です。

たとえば、子どもが大学進学する際の学費や、住宅購入資金を贈与することで、生活支援や目標達成に役立てられます。

2.2,500万円を超えても一律20%課税が適用される

相続時精算課税では、2,500万円を超える贈与額に対して一律20%の課税が適用されます。

この税率は暦年課税の累進税率(最大55%)と比較して低いため、高額な贈与をおこなう際に税負担を抑えやすいです。

また、納めた贈与税は相続時に精算されるため、結果的に税負担を軽減できます。

この制度を活用することで、大きな資産を早期に移転しつつ、相続税対策をおこなうことが可能です。

3.110万円の基礎控除額が設定される

相続時精算課税制度は、税制改正により2024年以降は年間110万円の基礎控除額が設定され、今までより節税効果が高まりました。

相続時に戻す金額は贈与した総額から基礎控除を引いた額です。

たとえば5年間で5,000万円贈与したとします。

基礎控除が550万円で2,500万円を超える部分に課税されるので、課税対象の贈与額は1,950万円になります。

課税額は一律20%なので390万円が贈与税です。

相続時には、課税対象となった1,950万円の部分を相続財産に戻します。

もともと5,000万円分は相続財産から贈与したのに、戻すのは1,950万円なので、その差額分は減税効果が発揮されます。

基礎控除額内の贈与であれば申告不要で、贈与税および相続税は一切かかりません。

基礎控除を超える場合は贈与を受けた人(受贈者)が税務署への申告をする必要があります。

相続時精算課税のデメリット

相続時精算課税制度は、生前贈与を活性化させるための制度ですが、利用にあたってはいくつかのデメリットも存在します。

ここでは、特に重要な3つのデメリットを挙げ説明します。

1.暦年課税に戻れない

相続時精算課税制度を一度選択すると、贈与者と受贈者の間では、その後の贈与について暦年課税(年110万円までの贈与が非課税となる制度)を選択することができなくなります。

つまり、少額の贈与を毎年非課税でおこなうという方法が取れなくなるため、将来にわたる贈与の計画を慎重に検討する必要があります。

特に、贈与額が少額の場合や、将来的に贈与をおこなうかどうかが不確定な場合は、この点が大きなデメリットとなる可能性があります。

2.小規模宅地等の特例が適用できない場合がある

相続時精算課税で贈与された宅地は、相続時に小規模宅地等の特例(宅地の評価額を最大80%減額できる特例)の適用を受けられない場合があります。

この特例は、相続税の負担を大幅に軽減する効果があるため、適用を受けられないことは大きなデメリットとなります。

特に、自宅の敷地など、評価額の高い宅地を生前贈与する場合は、相続時の税負担が増加する可能性があるため、注意が必要です。

3.相続税の申告が必要になる場合がある

相続時精算課税制度を利用して贈与を行った場合でも、贈与者が亡くなった際には、贈与時の財産の価額が相続財産に加算されて相続税が計算されます。

つまり、贈与時に贈与税を納めたとしても、相続時に相続税が課税される可能性があるということです。

また、贈与時の価額で相続税が計算されるため、相続時に財産の価値が下がっていたとしても、税負担が軽減されるわけではありません。

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不動産も生前贈与は可能

生前贈与とは?非課税枠のメリット・デメリットとよくあるトラブルを解説
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不動産も生前贈与の対象とすることが可能です。

不動産の贈与は、現金や預貯金の贈与と同様に贈与税の課税対象となりますが、相続時に財産総額を減らし、相続税を軽減する手段として利用されます。

不動産贈与には固定資産税評価額や路線価を基にした評価が必要です。

また、贈与時には不動産取得税や登録免許税が発生し、名義変更の手続きが必要です。

さらに、相続時精算課税制度を利用すれば、2,500万円まで非課税で不動産を移転可能です。

不動産の贈与は、計画的な実施と専門家の助言が重要です。

不動産を生前贈与するメリット

不動産を生前贈与することのメリットを解説します。

主なメリットは以下の4つです。

1.相続税の節税効果が高い

相続税は、遺産総額に応じて課税されるため、不動産の評価額が高いと相続税額も高くなります。

生前贈与することで、相続財産自体を減らすことができ、結果として相続税を節税することが可能です。

特に、将来値上がりが予想される不動産を生前贈与することで、将来の相続時に値上がり分も含めた財産が相続税の課税対象となるのを避けることができます。

ただし、贈与時には贈与税が課税されますが、暦年贈与の基礎控除(年間110万円)を活用したり、相続時精算課税制度を利用するなど、贈与税を抑える方法もあります。

また、贈与後3年以内(令和5年度税制改正により、相続開始前3年以内の贈与に加え、3年超7年以内の贈与のうち100万円を超える部分が加算されることになりました)に贈与者が亡くなった場合、贈与された不動産は相続財産に加算されるため、注意が必要です。

2.特定の人に確実に財産を渡せる

相続の場合、遺言書がない場合は法定相続分に従って財産が分割されます。

遺言書があっても、遺留分※という制度があるため、相続人全員の合意がないと遺言通りに分割できない場合があります。

しかし、生前贈与であれば、自分の意思で特定の相手(たとえば、お世話になった子や孫など)に確実に不動産を渡すことができます。

これにより、相続発生後の遺産分割協議における親族間の争いを避ける効果も期待できます。

事業を承継させたい子に事業用の不動産を生前贈与することで、事業承継をスムーズに進めることができます。

※遺留分とは、被相続人が遺言や生前贈与で財産を自由に処分した場合でも、一定の相続人が法律で保障される最低限の相続権。主に配偶者、子、直系尊属(親)に適用され、その割合は相続財産の一定割合で決まる。

3.早期に財産を活用できる

生前贈与を受けた人は、贈与後すぐにその不動産を活用することができます。

たとえば、贈与を受けた子どもがその不動産に住んだり、賃貸に出したりすることで、贈与後すぐに利益を得ることが可能です。

相続の場合は、遺産分割協議が完了するまで財産の処分や活用が制限されることが多いため、早期に財産を活用できるという点は生前贈与の大きなメリットといえます。

また、不動産の老朽化が進んでいる場合、生前贈与を受けて早めに改修することで、不動産の価値を維持することもできます。

4.相続手続きの簡略化が可能

相続が発生すると、相続人は遺産分割協議や相続税の申告など、煩雑な手続きをおこなう必要があります。

しかし、生前贈与によって既に財産が移転していれば、相続時の手続きを簡略化することができます。

特に、不動産は名義変更の手続きが煩雑なため、生前に贈与しておくことで、相続人の負担を軽減することができます。

不動産を生前贈与するデメリット

当然、メリットだけでなくデメリットも存在します。

不動産を生前贈与する主なデメリットは以下の3つです。

1.不動産取得税・登録免許税などの諸費用が発生する

不動産を生前贈与する場合、贈与税以外にもさまざまな費用が発生します。

まず、不動産を取得した人に不動産取得税が課税されます。

また、不動産の名義変更をおこなうための登録免許税や司法書士への報酬なども発生します。

これらの費用は、不動産の評価額や手続きの内容によって異なりますが、決して無視できない金額となる場合があります。

そのため、贈与税だけでなく、これらの諸費用も考慮に入れて、生前贈与をおこなうかどうかを判断する必要があります。

2.贈与後のトラブルの可能性がある

生前贈与は、贈与者と受贈者の合意に基づいておこなわれますが、贈与後に思わぬトラブルが発生する可能性もあります。

たとえば、贈与後に贈与者が経済的に困窮した場合、贈与した不動産を取り戻すことは原則としてできません。

また、他の相続人から不公平だと不満が出るなど、親族間の関係が悪化する可能性もあります。

そのため、生前贈与をおこなう際には、家族全員でよく話し合い、合意を得たうえでおこなうことが重要です。

3.相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される

贈与者が亡くなる前7年以内に行った贈与は、相続財産に加算されて相続税の対象となります。

これは、相続税を不当に回避することを防ぐための措置です。

そのため、相続税対策として生前贈与をおこなう場合は、早めに計画的におこなうことが重要です。

亡くなる直前の贈与は、相続税の節税効果が薄れてしまう可能性があります。

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生前贈与のよくあるトラブルと注意点

生前贈与とは?非課税枠のメリット・デメリットとよくあるトラブルを解説
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生前贈与は相続税対策として有効な手段の一つですが、準備不足や認識の誤りによってさまざまなトラブルに発展する可能性があります。

ここでは、生前贈与でよくあるトラブルを5つ挙げ、注意点を解説します。

1.名義預金とみなされる

親が子や孫の名義で預金口座を開設し、資金を拠出している場合、税務署から「名義預金」と判断されることがあります。

名義預金とみなされると、贈与ではなく親の財産とみなされ、相続税の課税対象となります。

贈与として認められるためには、贈与契約書の作成、受贈者(子や孫)への贈与の意思表示と受諾、受贈者による財産の管理・運用など、贈与の事実を明確に示す証拠が必要です。

単に名義を借りただけでは贈与とは認められません。

・注意点

贈与契約書を必ず作成し、贈与者(親)と受贈者(子や孫)双方の署名捺印をおこないましょう。

贈与の事実を明確にするため、贈与の都度、銀行振込を利用し、通帳に「贈与」と明記します。

受贈者本人が口座を管理・運用し、印鑑や通帳も受贈者が保管します。

少額の贈与でも同様の手続きをおこない、贈与の事実を客観的に証明できるようにしておくことが重要です。

2.贈与税の申告漏れ・計算間違い

贈与税は、贈与を受けた人が申告・納税する税金です。

贈与を受けたことを知らなかったり、贈与税がかからないと思い込んで申告をしなかったりすると、後で税務署から指摘を受け、追徴課税されることがあります。

また、贈与税の計算を間違えて過少申告した場合も同様です。

・注意点

贈与を受けた場合は、税理士などの専門家に相談し、贈与税の申告が必要かどうかを確認します。

申告が必要な場合は、税理士に依頼するか、税務署の窓口で相談しながら、期限内に正確に申告・納税をおこないましょう。

3.相続開始前3年以内の贈与は相続財産に加算される

相続税法では、相続開始前3年以内におこなわれた贈与は、相続財産に加算して相続税を計算することになっています。

これは、相続税を回避するために亡くなる直前に集中的に贈与をおこなうことを防ぐための規定です。

そのため、相続税対策として生前贈与をおこなう場合は、できるだけ早い時期から計画的におこなうことが重要です。

ただし、令和5年度の税制改正により、相続開始前7年以内の贈与が相続財産に加算されることとなりました。

・注意点

相続税対策として生前贈与をおこなう場合は、できるだけ早くから計画的におこなうことが重要です。

贈与時期が相続開始直前にならないように、余裕を持って贈与を開始します。

また、贈与をおこなう際には、贈与税の申告をきちんとおこない、贈与の事実を明確にしておくことが大切です。

4.遺留分侵害によるトラブル

特定の相続人に偏った生前贈与をおこなうと、他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。

遺留分を侵害された相続人は、贈与を受けた人に対して遺留分侵害額請求をおこなうことができます。

これにより、相続人間で争いが起こる原因となります。

・注意点

生前贈与をおこなう前に、相続人全員で話し合い、贈与の内容について合意を得ておくことが望ましいです。

遺留分を考慮したうえで贈与額を決定し、遺留分を侵害する可能性がある場合は、遺留分放棄の手続きをおこなうなどの対策を検討します。

弁護士などの専門家に相談し、遺留分に関する適切なアドバイスを受けることも有効です。

5.贈与後の財産管理を巡るトラブル

不動産などを贈与した場合、贈与後に誰が管理・維持していくのか、固定資産税などの費用は誰が負担するのかといった問題が生じることがあります。

これらの点を事前に明確にしておかないと、後々トラブルに発展する可能性があります。

・注意点

不動産などを贈与する場合は、贈与契約書に、贈与後の管理・維持方法、固定資産税などの費用負担について明確に記載します。

管理方法や費用負担について、相続人間で合意した内容を文書に残しておくことで、後々のトラブルを防ぐことができます。

必要に応じて、管理委託契約などを締結することも検討します。

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まとめ

生前贈与とは?非課税枠のメリット・デメリットとよくあるトラブルを解説
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生前贈与は、相続税対策や財産の有効活用を目的として活用される重要な手段です。

暦年課税では年間110万円の基礎控除を活用し、計画的な少額贈与が可能です。

一方、相続時精算課税は多額の財産を非課税で移転できる制度ですが、相続時に再計算が必要です。

また、2024年の改正により、相続時精算課税でも110万円の基礎控除が追加され、柔軟な活用が可能となりました。

それぞれの制度の特性を理解し、専門家の助言を得ながら、目的や状況に合った最適な方法を選択することが重要です。

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平田和生
平田和生(著者)
証券界、主に外資系で30年の経験。日本株、海外株、デリバティブ、投信、債券まで、幅広い範囲での実績を誇る。得意とするのは、小型株、米国株の分析。現在は「この経験を若い投資家に伝えるため」外資系証券仲間とともに投資情報発信中。

(提供:ACNコラム