トランプ米大統領が今年11月の大統領選挙で共和党候補になることが確実になった。トランプ氏は日本製鉄<5401>による米USスチール買収に対して「私は直ちに阻止する、絶対にだ!」と反対を明言している。トランプ氏が当選すれば、日鉄のUSスチール買収は「幻」に終わってしまうのか?

トランプ氏が日鉄の買収を一転して認める可能性は…

民主・共和両党の動向に詳しいグレン・S・フクシマ米先端政策研究所上席研究員が、日本記者クラブ(東京都千代田区)の会見でM&A Onlineの質問に答えた。それによると、選挙戦で「第3の候補」として立候補している有力者がいずれもリベラル派であることから、現職バイデン大統領支持層の票を割る可能性が高いと指摘。刑事訴訟の行方もあるが、トランプ氏の大統領再選は十分にありうるとの見方を示した。

M&A Online

(画像=「トランプ氏が当選後に一転して買収を認める可能性はある」とみるフクシマ氏(日本記者クラブ)、「M&A Online」より引用)

フクシマ上席研究員は、トランプ氏が大統領に返り咲いた場合、日鉄のUSスチール買収について「(国家安全保障上)絶対に認めないと言っていても、条件によっては買収を認めるかもしれない」と指摘した。具体的には「トランプ氏はビジネスを重視する人物で、本当の意味での国家安全保障に対して、どこまで真剣に重視しているか分からない。(日鉄による買収が)米国やUSスチールにとって良いと判断すれば、許可する可能性も排除できない」とみている。

トランプ氏は大統領だった2018年10月にインディアナ州の農業団体集会で「日本が農産物で市場開放をしないのならば、日本車に20%の関税を課す」と明言しながら、2019年3月にトヨタ自動車が米国の5工場に7億5000万ドル(約1115億円)の追加投資を発表すると、「米自動車産業の労働者たちにとってビッグニュースだ!」と歓迎。農業団体に約束した日本車への20%課税を反故にしたこともある。

トランプ流の「ブラフ」かも…

フクシマ上席研究員は「トランプ氏は2016年の大統領選挙時に出した本で『相手が予想できない行動を取らなくてはダメだ。相手が自分のことを読めない状況を作ることによって、交渉を有利に運ぶ』と書いている。なので日鉄の買収阻止も、本心なのかそれとも交渉上のブラフなのか(今の段階では)誰にも分からない」と話す。

その上で「米国企業の買収に(本心から)肯定的でなかったとしても、トランプ大統領の1期目は外国企業による米国への投資については大歓迎だった。同盟国が米国に投資して、雇用を創出したり地元経済を刺激したりすることには賛成するだろう」と予測している。

グレン・S(シゲル)・フクシマ上席研究員は1984年に米通商代表部に入省。日本担当部長として、日米貿易摩擦で対日交渉に当たった。1988年には米国通商代表補代理に昇格し、半導体や機械機器、タバコ、牛肉、農産物などの通商交渉に臨んだ。1990年に日本AT&T副社長に就任したほか、大和証券グループ本社アドバイザリー・ボードやエアバス・ジャパン社長兼CEO(最高経営責任者)、みずほフィナンシャルグループ監査役など、日本でも経済人として活躍している。

文:M&A Online