ルネサスエレクトロニクスの柴田英利社長兼CEO(最高経営責任者)は16日に開いた「2024 Capital Market Day」で、当面のM&Aについて「10億〜20億ドル(約1500億〜3000億円)程度の案件が中心になるだろう」との考えを示した。同社は2024年2月にプリント基板設計ソフトウエアを手がける米アルティウムを同社では最高額となる約8880億円で買収し、今後の動向が注目されている。

M&A、人材獲得でも大きな成果

ルネサスは2018年以降に6000億円超の超大型M&Aを3件実施し、業績を拡大してきた。柴田CEOは、これまでの買収について「コストシナジー(相乗効果)や収益面での貢献などで想定通りの成果をあげている。インフラパワー事業のように、大きな成果をあげた案件もある」と振り返った。

その上で「M&Aで最も大切なのは人材。買収によりあらゆるレイヤー(階層)で優秀な人材を招き入れている。今回のイベントで登壇している幹部6人中3人はM&Aで仲間になった。元の会社とルネサスの技術を組み合わせることで大きな成果を出し、企業カルチャーを進化させている」と、M&Aによるヒューマンリソース(人的資源)効果も強調している。

同社はアルティウムの価値創造フレームワークで同社買収に期待する収益化のスケジュールを明らかにした。それによると近くコスト削減シナジー(相乗効果)を発揮し始め、3年以内に収益シナジーを実現。6年以内に事業プラットフォームとして機能する見通しだ。これは過去のM&Aよりも、やや時間がかかる想定だ。

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(画像=アルティウムの価値創造フレームワーク(ルネサス報道資料より)、「M&A Online」より引用)

小口を含め、M&Aは積極的に推進

アルティウムの年間売上高は約400億円。この5年間で2倍に成長したが、9000億円近い投資を回収するには同社の売上高以外のシナジーが必要になる。同社は3万社を超えるアルティウムのユーザーに接触し、ルネサスの顧客を爆発的に増やすという。

発表に同席した新開崇平執行役員CFO(最高財務責任者)はアルティウムからの投資回収についての定義について「3年間で買収金額の8%に相当する税引き後で4億8000万ドル(約740億円)を超えるリターンを持続的に上げられるようになれば投資回収に入ったと言える」との判断を示した。

同社は今後3年以内に買収のデレバレッジ(レバレッジ解消)を目指すとしており、そのために「当面は大きなマルチビリオンドル(数十億ドル)の買収はやらないが、1〜2ビリオンドル(10〜20億ドル)前後の案件は考えている」(柴田CEO)と語った。これはアルティウム買収発表時に表明した方針と変わらない。

小規模な事業を買収して自社部門と合併させるタックインや、既存のビジネスモデルを補完するボルトオンといった小口M&Aも引き続き積極的に進める方針だ。

文:M&A Online