この記事は2024年6月14日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「米国大統領選挙は現時点でトランプ氏がやや優位に」を一部編集し、転載したものです。
(米労働統計局「移民労働力人口」ほか)
11月5日の米国大統領選挙まで残り5カ月を切った。大統領選は事実上、2020年に次いで共和党のトランプ前大統領と民主党のバイデン大統領が対決する構図となっている。
政治ニュースサイトのリアルクリアポリティクスによると、6月4日時点の支持率はバイデン氏が45.8%であるのに対して、トランプ氏が46.3%とバイデン氏を0.5ポイント上回る。トランプ氏は、選挙のカギを握る七つの激戦州すべてでバイデン氏を上回り、仮にいま大統領選が実施された場合には、トランプ氏が再選する可能性が高い。トランプ氏は5月30日に、不倫口止め料の支払いを巡る業務記録改竄の罪で有罪評決を受けたが、現時点で支持率に与える影響は限定的である。
ただし、トランプ氏は他に3件の刑事訴追を抱えており、裁判の行方次第で無党派層が離反する可能性がある。しかも過去には、本選挙投票の1カ月前ごろに、選挙戦に大きな影響を与える出来事(オクトーバーサプライズ)がしばしば発生している。現時点で再選が確実とまでは断定できない。
他方、再選による米国経済への影響に目を向けると、不況下でインフレが上昇する「スタグフレーションリスク」が高まる可能性がある。トランプ氏は選挙公約として、通商政策で大幅な関税の引き上げや、移民政策で数百万人単位での不法移民の強制送還などを掲げている。
関税の引き上げは実質的な増税と変わらず、消費者負担の増加に加え、輸入物価の上昇を通じて国内物価の押上げ要因となる。また、労働力不足が続くなか、移民労働者の減少は労働需給の逼迫から賃金上昇を通じてインフレを加速させる。移民労働者の減少に伴う国内消費の減少が景気を下押しすることも見込まれよう。
米労働統計局(BLS)が発表する移民労働力人口(外国生まれの労働力人口)は、移民に厳格なトランプ政権下で減少したものの、移民に寛容なバイデン政権が発足した21年以降に420万人増加した(図表)。また、労働供給を示す労働参加率は25~54歳の働き盛り層(プライムエイジ)で移民労働者の増加に伴って上昇し、24年4月が83.5%と02年以来の水準に回復した。このため、トランプ氏による移民労働者の削減で、労働供給が悪化することは避けられないだろう。
トランプ氏は企業や家計の減税方針も示しており、これが実現すれば、ある程度の景気押上げ効果が期待できる。だが、政策実現には議会で法案を可決する必要がある。大統領選と同時に実施される連邦議会選挙で、共和党が上下院共に多数党とならない限り、減税の実現は難しそうだ。
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員/窪谷 浩
週刊金融財政事情 2024年6月18日号