政府の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版案」が示された。M&Aに対する期待が高まる一方で、課題も提示されている。中小企業の事業承継で実績をあげているM&Aに、政府は何を期待し、どのような課題解決をしようとしているのか。

国内経済の成長エンジンとなるM&A

政府が開いた「第28回新しい資本主義実現会議」で、同案についての議論が交わされた。中でも企業の参入・退出の円滑化について、「スタートアップ育成5か年計画」の強化とともに、中小企業の事業承継やM&A、グループ化を進めることを明記。M&A仲介事業者の手数料開示や経営者保証を見直す枠組みを導入する方針を盛り込んだ。

同案によると、事業承継税制を初めとした予算・税制措置を最大限に活用することで、中小企業の事業承継や M&A・グループ化による成長と生産性向上を一層促進する。

具体的には中小企業が事業譲渡やM&A を実施する際の専門家への手数料支援を強化するほか、事業承継・引継ぎ補助金などの支援策についても使い勝手の改善が盛り込まれた。

M&A の買い手・売り手双方とも残したくない個人保証についても、メインバンクなどが事業再構築やM&Aを仲介・支援する段階で見直す枠組みを検討する。

不適切な仲介事業者の排除と業界規律の確立が急務

一方、M&Aの課題として「買収する金額に応じて売り手・買い手の双方から手数料を集め、かつ最低手数料を高額としているケースも多い」と指摘。M&Aを加速するために仲介報酬体系の検討や、売り手・買い手が納得しやすい手数料水準を実現していくべきだとしている。

一部のM&A仲介事業者が不適切な営業活動や不誠実な対応を取っていることが社会的な問題になっていることから、中小企業が安心して M&A を実施できるよう M&A支援機関データベースで手数料体系や報酬基準額などに関する情報開示を充実。これにより信頼できるM&A仲介事業者を可視化できるようにする。

M&Aが企業の成長や生産性向上に寄与し、仲介市場も成長してきた。その結果、「成長の歪み」も顕在化しており、業界のコンプライアンス遵守や規律の確立が社会から強く求められている。同案でもM&A仲介業界に業務の正常化を強く求める内容が盛り込まれた。

M&A仲介協会の荒井邦彦代表理事(ストライク社長)は「業務品質の向上と信頼性確保のために、安全で安心なサービスを提供する体制づくりが必要」と危機感を強めている。同協会ではM&Aコンサルタント向け研修の充実や契約書雛形の共有、自主規制ルールの遵守、将来的な資格制度導入などの取り組みを急ぐ方針だ。

文:M&A Online