この記事は2024年7月16日に「CAR and DRIVER」で公開された「F・アロンソ選手の依頼から誕生したアストンマーティンの特別なV12エンジン搭載車「ヴァリアント」が登場」を一部編集し、転載したものです。
アストンマーティンがアストンマーティン・アラムコF1チームのドライバーであるフェルディナンド・アロンソ選手から要請を受けて開発した特別仕様車の「ヴァリアント」を発表。ビスポーク部門のQ by Aston Martinが手がけたスペシャルモデルは、軽量化と空力特性を追求したボディワークに、マルチマチックASVダンパーと専用セッティングの電子制御機構を採用したシャシー、745ps/753Nmを発生する5.2リットルV12ツインターボエンジンに6速MTを組み合わせたパワートレインなどを採用してパフォーマンスを向上。生産台数は38台の限定
英国アストンマーティンは2024年6月26日(現地時間)、アストンマーティン・アラムコF1チームのドライバーであるフェルディナンド・アロンソ選手から依頼されて開発したスペシャルモデルの「ヴァリアント(Valiant)」を発表した。
ヴァリアントは前述のアロンソ選手から「ヴァラー(VALOUR。2023年7月に発表されたアストンマーティンの創立110周年を記念したスペシャルモデル)をベースに、よりサーキットにフォーカスしながらオンロードでのスリリングなドライブを提供する、過激でレースカーにインスパイアされたバージョンを造りたい」というリクエストを受け、ビスポーク部門のQ by Aston Martinが手がけた特別仕様車に位置する。開発に際しては、アロンソ選手も参画。生産台数は限定38台で、ユーザーへの納車開始は本年第4四半期を予定する。なお、ヴァリアントは究極のハイパーカーであるヴァルキリー(Valkyrie)、ブランドで最もフォーカスされたスポーツカーのヴァンテージ(Vantage)とその兄弟車であるヴァンテージGT3(Vantage GT3)、そして近日発売予定のミッドシップエンジンスーパーカーのヴァルハラ(Valhalla)など、オンロードとサーキットの両方で真のドライビングインテンシティを提供するアストンマーティンの強力な系譜を受け継いでいるそうだ。
注目のパワーユニットには、5.2リットルV型12気筒DOHC48Vツインターボエンジンをフロントミッドに搭載。最高出力はヴァラー比で30psアップの745ps、最大トルクは753Nmを発生する。排気系にはクワッド出しのチタン製エキゾーストシステムを配備した。一方、トランスミッションには6速MTを組み合わせ、同時に専用のキャリブレーションを施して、あらゆるギアと回転域で圧倒的なパワーを発揮する。また、機械式リミテッドスリップディファレンシャルやエレクトロニックトラクション&スタビリティコントロールシステムを組み込んで高出力化に対応。さらに、スロットルレスポンスやトルク特性、サウンドキャラクター、足回りなどを最適化するSport/Sport+/Trackという3種類のドライビングモードを設定した。
一方、ボディ構造では徹底した軽量化を実施。3Dプリントによって製造したリアサブフレームの採用により、剛性を損なうことなく3kgの軽量化を実現し、合わせてマグネシウム製トルクチューブを配備して、車両中心点の質量を8.6kg削減する。また、足もとには軽量21インチマグネシウムホイールに前275/35R21/325/30R21サイズのタイヤを組み合わせ、ステアリングレスポンスとホイールコントロールを向上させるとともにバネ下重量を14kg低減。制動機構には前Φ410mm×厚38mm/後Φ360mm×厚32mmのカーボンセラミックブレーキディスクを装備する。さらに、モータースポーツ仕様のリチウムイオンバッテリーを組み込んで11.5kgの軽量化を果たした。
シャシー面に関しては、マルチマチックASV(アダプティブ・スプール・バルブ)ダンパーおよび専用セッティングの電子制御機構を採用したことがトピック。6ミリ秒未満で32種類の個別のダンパーカーブを同時に調整することを可能とし、モータースポーツレベルのダンピングコントロールと、これまでモータースポーツの最高峰でしか実現できなかったオペレーティングコントロールの帯域幅を提供する。
エクステリアについては、ボディワークに軽量カーボンファイバー材をふんだんに採用したことが訴求点だ。フロント部には新造形の全幅カーボンファイバーグリルや深いカーボインファイバーフロントスプリッター、多層カーボンファイバーエンドプレーンなどを採用。一方でサイドビューには、重厚なスカラップ仕上げのフェンダーやマグネシウムホイールに装着したカーボンファイバー製エアロディスク、後輪の前方に設けた幅広サイドシル、アップスイープしたボルテックスジェネレーターなどを配備する。そしてリアセクションには、シャープなカムテールと上向きにスイープされたデッキリッド、大型のリアスポイラー、専用デザインのディフューザーなどを組み込んで、軽量化と空力特性の向上を実現した。
内包するインテリアは、2名乗車のキャビン空間を基本に、カーボンファイバー材や丹念に作り込んだ専用パーツなどを配備して、スポーティかつ個性あふれるコクピットに仕立てる。ステアリングホイールは新タイプで、リムを細めに設定するとともに丸みを帯びたデザインとし、同時にスイッチ類などを省いて直感的でスムースな操舵を実現。また、メカニカルな機能を強調するためにあえてトランスアクスルの後方に走るギアリンケージを露出させたビレットアルミニウムのシフト基部を配し、ここに新しい特注の球形ギアノブを組み込む。一方、シートには側面と肩を確実にサポートし、かつパッシブ胸部ベンチレーションを備えたパッドを配する専用のトリム付きレカロポディウムシートを装着。後部には4点式レースハーネスを車に取り付けるためのアンカーポイントを配したスチール製のハーフケージを装備した。トリムについては、アルカンターラまたはセミアニリンレザーの選択が可能。ドアパネルにはメッシュインサートパネルと軽量ファブリックのドアリリースプルを備えた軽量タイプを採用した。
なお、7月11日に英国で開催されたグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード2024ではアロンソ選手がステアリングを握って、1977年に登場したV8ヴァンテージや1980年に登場したヴァンテージ・ベースのル・マン・レースカーであるRHAM/1“通称マンチャー(Muncher)”をオマージュしたカラーリングを施すヴァリアントの実車を披露している。
(提供:CAR and DRIVER)