不動産投資は個人事業主がお得?メリット・デメリットや法人化のタイミング
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丸山 優太郎
丸山 優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している。

不動産投資は個人で行う場合と法人で行う場合とでは、メリット・デメリットが異なります。本記事では、不動産投資を個人事業主として行うほうが得なのかを確認し、個人事業主として開業する場合に必要な書類や、法人化するタイミングなどについて解説します。

目次

  1. 1.不動産投資は個人事業主のほうが有利になる?
  2. 2.個人事業主として不動産投資をするメリット・デメリット
    1. 2-1.個人事業主として不動産投資をするメリット
    2. 2-2.個人事業主として不動産投資をするデメリット
  3. 3.法人として不動産投資をするメリット・デメリット
    1. 3-1.法人として不動産投資をするメリット
    2. 3-2.法人として不動産投資をするデメリット
  4. 4.個人事業主が不動産投資で融資を受けるポイント
    1. 4-1.収入や資産を証明できる資料を準備する
    2. 4-2.その他ローンの返済やクレジットカードの支払いを滞納しない
  5. 5.個人事業主は不動産投資で節税できる?
  6. 6.個人事業主が不動産投資の開業届を提出する際に必要な書類
    1. 6-1.個人事業の開業・廃業等届出書
    2. 6-2.マイナンバー確認書類・本人確認書類
    3. 6-3.事業開始等申告書
    4. 6-4.印鑑
  7. 7.開業届と同時に提出しておくべき書類
    1. 7-1.青色申告承認申請書
    2. 7-2.青色事業専従者給与に関する届出書
    3. 7-3.源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
  8. 8.不動産投資で個人事業主が法人化すべきタイミング
  9. 9.不動産投資の所得が基準を超えたら法人化を検討するのも選択肢

1.不動産投資は個人事業主のほうが有利になる?

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不動産投資を個人事業主として始める人は多いです。会社員であっても、開業届を提出すれば「不動産賃貸業」の個人事業主になれます。会社員は安定した給与収入があることから、金融機関からの信用が高く、融資審査でも有利になるといわれています。

したがって、会社を退職して個人事業主になるよりも、会社員を続けながら個人事業主になったほうが有利といえます。

2.個人事業主として不動産投資をするメリット・デメリット

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個人事業主として不動産投資をしようと考える場合、さまざまなメリット・デメリットがあるので、両方を比較検討して決断することが大事です。

2-1.個人事業主として不動産投資をするメリット

個人事業主として不動産投資を始めると、以下のようなメリットを受けられます。特に確定申告の方法を「青色申告」にすることによって、さまざまな税優遇を受けることができます。

2-1-1.青色申告特別控除が受けられる

青色申告を利用すると「青色申告特別控除」を受けられます。控除される金額は条件によって以下のように定められています。

・10万円控除
55万円控除と65万円控除を利用できない人が受けられる控除です。例えば、区分マンションを1戸所有している場合は、事業規模ではないので控除額は10万円となります。10万円控除を選択する場合は、単式簿記で記帳できるメリットがあります。忙しいため経理の負担を軽減したい人は、10万円控除が向いています。

・55万円控除
賃貸経営の規模が「5棟10室基準」を満たしていると、55万円控除を利用できます。基準の内容は、マンションやアパートで賃貸する戸数がおおむね10戸以上、一戸建ての場合はおおむね5棟以上となっています。55万円控除を利用するには、複式簿記で記帳し、確定申告期間中に貸借対照表や損益計算書を添付して確定申告書を提出する必要があります。

・65万円控除
65万円の控除を受けるには、55万円控除の条件を満たしたうえで、e-Taxで確定申告を行うか、電子帳簿保存を行うことが条件になります。e-Taxは国税庁のホームページ「確定申告書等作成コーナー」で作成した確定申告書を、インターネット上で提出・納税できる便利なシステムです。

2-1-2.家族への給与を所得控除できる

生活を一にする家族を青色専従者として雇用した場合、家賃収入などから専従者給与を控除することができます。その分所得が減るので節税になります。ただし、源泉徴収しなくて済む範囲に収めるには月8万8,000円未満に抑える必要があります。

白色申告の場合は、配偶者への給与は86万円、配偶者以外の専従者は50万円と所得から控除できる金額が決まっています。

2-1-3.経費にできる費用が多い

青色申告を利用すると経費にできる費用も多くなります。それまで個人で支払っていた不動産投資セミナーに参加する際の交通費や、不動産投資に関する書籍購入代、プリンターのインク代などさまざまな費用を経費として計上できます。

2-1-4.損失を3年繰り越して控除できる

青色申告を利用すると損失を3年繰り越せます。損失が出た年の翌年が黒字だった場合に、前年の赤字分を控除して不動産所得を減らすことができます。物件を購入した初年度は諸費用が多くかかり赤字になるケースが多いので、翌年黒字ならこの手法を使える可能性が高いです。

2-2.個人事業主として不動産投資をするデメリット

メリットが多い半面、個人事業主として不動産投資すると以下のようなデメリットもあります。

2-2-1.社会保険に加入できない

個人事業主は社会保険に加入することができません。会社員なら加入できる、健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険がないのは大きなデメリットです。そのため個人事業主は国民健康保険と国民年金に加入する必要があります。

ただし、労災保険については、特別加入制度を利用すれば加入できますが、支払った保険料は経費にできません。

2-2-2.経費が全て自分持ちになる

個人事業では経費は全て自分で支払う必要があります。法人のように支払った費用を会社に請求することはできません。さらに、確定申告を行うために、支払った金額の領収書はすべて保管しておかなければ

ならず、手間がかかるのもデメリットです。

不動産所得は「家賃等の収入-必要経費」で計算するので、経費が多いほど所得を少なくできます。領収書を紛失しないようにすることが大事です。

2-2-3.法人より信用度が低い

個人事業主は法人に比べると信用度が低いことは否めません。賃貸経営そのものに大きな違いはないとしても、金融機関から融資を受ける際は個人事業主のほうが審査は厳しいと考えられます。

個人事業主が融資を受けるには、しっかりした事業計画を策定し、財務状況を把握して、金融機関との面談に臨む必要があります。

2-2-4.税優遇制度が法人より少ない

税制面では中小企業であれば、「法人税率の軽減」「欠損金の繰越控除」「少額減価償却資産の特例」「欠損金の繰戻還付」「交際費課税の特例」などの税優遇策を受けられます。一方、個人事業主は青色申告制度の税優遇策はありますが、白色申告ではほとんど税優遇は受けられません。

3.法人として不動産投資をするメリット・デメリット

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個人事業主ではなく、法人として不動産投資を行う方法もあります。法人として不動産投資を行う場合も、やはりメリット・デメリットがあるので、個人で行った場合と比較して法人化を考える必要があります。

3-1.法人として不動産投資をするメリット

法人として不動産投資を行うと、以下のようなメリットがあります。

3-1-1.赤字を10年繰り越せる

法人化すると赤字を10年繰り越せるという大きなメリットがあります。上場企業でも累積赤字を抱えている会社は存在します。赤字を繰り越すことによって、将来発生する利益と相殺して税金を安くできます。

繰り越せる期間は、2018年4月1日以前開始事業年度に発生した欠損金は9年、2018年4月1日以後開始事業年度に発生した欠損金は10年です。

3-1-2.税制面の優遇が大きい

先に述べたように、個人事業主から法人化することによって中小企業になるため、税制面での優遇が大きくなります。

所得税率 法人税率(普通法人の場合)
課税される所得金額 税率 課税される所得金額 税率
1,000円から1,949,000円まで 5% 資本金1億円以下の法人など 年800万円以下の部分 下記以外の法人 15%
1,950,000円から3,299,000円まで 10% 適用除外事業者 19%
3,300,000円から6,949,000円まで 20%  
6,950,000円から8,999,000円まで 23% 年800万円超の部分 23.20%
9,000,000円から17,999,000円まで 33% 上記以外の普通法人 23.20%
18,000,000円から39,999,000円まで 40%  
40,000,000円以上 45%

特に大きいのが税率の優遇です。法人税率は、大企業が一律23.20%に対し、資本金1億円以下の中小企業は年収800万円以下の部分が15%に軽減されます。

また、個人事業主の場合は所得税が最高45%まで課税されますが、法人化するとどんなに稼いでも23.20%以上は課税されません。

税制面では明らかに法人化したほうが有利といえるでしょう。

3-1-3.事業に失敗しても責任が個人に及ばない

個人事業主の場合、事業に失敗すれば負債を全て個人が背負うことになります。株式会社や有限会社なら出資したお金を失うだけで、倒産した責任を個人が負うことはありません。有限責任という点では法人のほうが安心です。

3-1-4.個人より社会的信用が高い

法人化すると個人事業主のときよりも、社会的信用が高くなるメリットがあります。次のデメリットで紹介するように、法人設立にはコストと手間がかかるので、個人事業主よりも事業に対する取り組み方が真剣になると評価されます。

また、法人になると登記簿謄本から会社の所在地・役員名・資本金など重要事項を確認できるので、金融機関からの信用も高くなります。

3-2.法人として不動産投資をするデメリット

法人として不動産投資を行うと、以下のようなデメリットもあるので、十分に吟味することが大事です。

3-2-1.赤字でも課税される

法人は赤字でも課税されるのがデメリットです。事業の収支が赤字であっても法人住民税の均等割は支払う義務があります。金額は資本金1,000万円以下、従業員50人以下の場合で7万円程度です。資本金1億円以上の大企業は外形標準課税の適用法人となるため、赤字でも事業税が課税されます。

3-2-2.社会保険加入で経費が増える

法人化すると社会保険(健康保険と厚生年金)への加入を義務付けられるので、従業員の社会保険料の半分を負担することになります。従業員が増えるに従って社会保険料も増えるので、経費の増加を招きます。

3-2-3.法人設立にコストがかかる

法人化するには設立コストがかかります。株式会社を設立する場合のコストは、定款用印紙代4万円、定款の認証手数料5万円、定款の謄本手数料1,500円(1ページ250円で6枚の場合)、登録免許税:払込資本金の0.7%(最低15万円)、株式払込事務取扱手数料:払込資本金の約0.25%です。

このほか、司法書士に手続きを依頼した場合は司法書士報酬がかかります。

4.個人事業主が不動産投資で融資を受けるポイント

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個人事業主が不動産投資で融資を受けるには、返済能力があると判断してもらう必要があります。基本的には資産の有無や勤務先の会社規模、勤続年数などによって判断されますが、以下のようなポイントに注意することで、融資審査に通る可能性を高めることができます。

4-1.収入や資産を証明できる資料を準備する

金融機関から融資を受けるには、ローンを確実に支払える収入や資産があることを証明する資料が必要です。会社員であれば源泉徴収票、個人事業主であれば確定申告書が収入の証明資料になります。資産の証明については銀行や証券会社から残高証明書を発行してもらうことで証明できます。

4-2.その他ローンの返済やクレジットカードの支払いを滞納しない

不動産投資ローンの融資を受けるには、その他のローンやクレジットカードの支払いで滞納していないことが重要です。住宅ローンの返済やクレジットカード支払いの滞納があると、新たに組んだ不動産投資ローンでも滞納する可能性があると判断され、融資審査には不利になります。

5.個人事業主は不動産投資で節税できる?

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個人事業主は不動産投資を行うことで節税できる方法がいくつかあります。代表的な方法が以下の4つです。

・青色申告特別控除を受ける
・家族を青色事業専従者にするなど経費にできるものを増やす
・各種の所得控除・税額控除を受ける
・給与所得から不動産所得の赤字分を差し引ける「損益通算」を利用する

6.個人事業主が不動産投資の開業届を提出する際に必要な書類

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不動産投資を事業として始める場合は、開業届が必要です。個人事業主が開業届を提出する際は、以下のような書類を用意する必要があります。

6-1.個人事業の開業・廃業等届出書

個人事業主として不動産投資を始めるときは、「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。提出期間は事業を開始してから1ヵ月以内です。事務所を新設・増設・移設・移転・廃止する場合も届出が必要になります。

6-2.マイナンバー確認書類・本人確認書類

「個人事業の開業・廃業等届出書」にはマイナンバーを記入する欄があるため、マイナンバーや個人番号通知カード、マイナンバーが記載された住民票などを用意します。マイナンバーカードは顔写真付きのため、なりすましに遭う心配がないので、本人確認書類として最適です。

6-3.事業開始等申告書

「事業開始等申告書」は、個人事業税に関して必要な書類で、都道府県税事務所や市町村に提出します。各自治体によって、書類の名称や手続き方法、提出期限などが異なる場合があるので注意が必要です。

6-4.印鑑

書類に間違いがあり訂正箇所に訂正印を押す必要が生じる場合があります。窓口に持参して提出する場合は、訂正に対応できるように、あらかじめ用意しておいたほうが無難です。

7.開業届と同時に提出しておくべき書類

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開業届と同時に提出しておいたほうがよい書類として、以下の3つが挙げられます。

7-1.青色申告承認申請書

開業に際し、確定申告の方法で青色申告を選択する場合は、「青色申告承認申請書」の提出が必要です。可能であれば、開業届と同時に提出すれば忘れることがなく、二度手間になりません。同時に提出できない場合は、青色申告を行う年の3月15日(税務署が休業の場合は翌営業日)までに提出します。

7-2.青色事業専従者給与に関する届出書

青色事業専従者に給与を支払う場合は、「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出する必要があります。こちらも提出期限は「青色申告承認申請書」と同じですが、できれば開業届と同時に提出することが望ましいでしょう。

7-3.源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

源泉所得税は納期が決まっています。従業員から徴収した源泉所得税の納付方法を変更する場合は「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出します。通常翌月10日が納付期限ですが、書類を提出すると年2回の納付で済むので便利です。

8.不動産投資で個人事業主が法人化すべきタイミング

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個人事業主として不動産投資を始めた人が、法人化したほうがよいタイミングがあります。不動産投資で個人事業主と法人のどちらが得かは所得水準によって異なります。

具体的には、所得が900万円を超えると法人化したほうが有利といわれています。例えば、所得が890万円の場合、所得税率は23%で、法人税も800万円を超える部分は23.2%と大差がありません。

ところが、所得が900万円になると所得税の税率区分が一気に33%に上がります。法人税は23.2%以上は上がらないので、法人化したほうが税金面では有利になるのです。

9.不動産投資の所得が基準を超えたら法人化を検討するのも選択肢

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ここまで、個人事業主と法人の違いについてさまざまな観点から見てきました。不動産投資においては、どちらか一方に固執する必要はありません。適切なタイミングで法人化を選択することで、より有利に運営を進めることが可能です。

個人事業主と法人にはそれぞれにメリット・デメリットがあるため、まずは個人事業主として不動産投資を始め、事業が軌道に乗って所得が増加した際に法人化を検討するのも有効な戦略の一つです。

※本記事は2024年11月19日現在の情報を基に作成しています。各種税制は年度が変わると変更になる場合があります。確定申告の際は最新情報をご確認ください。

(提供:Dear Reicious Online



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