
動画解析AIが登場したことで、さまざまなビジネスの形態が変化しています。例えば、製造業では不良品を見つけるだけではなく、在庫管理や安全管理にもAIが活用されるようになりました。
動画解析AIを導入する場合は、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。本記事では、動画解析AIの導入プロセスや注意点に加えて、近年の活用例を紹介します。
また、以下の記事では動画解析の仕組みやメリット・デメリットを解説しているので、ぜひ併せてご覧ください。
>>動画解析の仕組みとは? 導入するメリット・デメリットを解説
動画解析AIは動画データから必要な情報を識別・抽出するシステム
動画解析AIとは、カメラなどで撮影した動画データをAIが分析し、使用者が求める情報を識別または抽出する技術です。
例えば、動画に映っている特定の対象物を識別したり、異常などの特徴的なパターンを抽出したりすることが可能で、すでに以下のような分野で活用されています。
<動画解析AIが活用されている分野>
・製造現場での不良品検知や在庫のカウント
・製造現場や建設現場での危険察知
・農作物の育成状況や異常の検知
・小売店顧客の属性や行動パターンの分析
・交通状況の分析
導入範囲や使用方法によっては業務効率化に加えて、人材や資源の最適な配置や、安全性の向上にもつながります。また、人が映った動画からは顧客属性(性別や年齢など)まで分析できるため、プロダクトの開発やマーケティング戦略にも活用できるでしょう。
近年では、動画解析AIの導入・運用を支援するサービスが登場しており、中小企業の導入事例も増えてきています。
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動画解析AIの導入プロセス
動画解析AIの導入プロセスは、以下の5つに大きく分けられます。
<動画解析AIの導入プロセス>
1.目的を明確化して要件を決める
2.ハードウェアとソフトウェアを準備する
3.学習用のデータを収集する
4.動画解析AIモデルを開発する
5.導入や運用の体制を整備する
ここからは各プロセスに分けて、具体的な手順やポイントを解説します。
1.目的を明確化して要件を決める
動画解析AIモデルの仕様や収集するデータなど、システムの実装要件を決める前に、導入目的を整理する必要があります。まずは、導入対象の業務や範囲、期待する成果をひとつずつ考えて、明確な目的を設定しましょう。
<目的の例>
・生産ラインの自動化による効率改善やコスト削減
・製品の異常検知による品質向上
・作物や野生動物などのモニタリング
・群衆の行動パターンの分析によるリスクの抑制
・顧客行動の分析による商品配置の改善 など
設定した目的に合わせて、次はシステムの実装要件を決めます。例としては、「どのようなオブジェクトを抽出したいのか」や「どれくらいの精度が必要になるか」が挙げられます。目的によっては、リアルタイムの分析機能や感情認識など難易度の高い要件も必要になります。
2.ハードウェアとソフトウェアを準備する
次のステップでは、AIモデルの開発・運用に必要なハードウェアやソフトウェアを準備します。
ハードウェアについては、カメラなど動画撮影用デバイスやデータ保存用のストレージ、リアルタイム解析用のエッジデバイスなどが必要です。また、動画解析では大量のデータ処理が必要になるため、GPU(画像処理用演算プロセッサ)を積んだ解析用コンピュータも必須になるでしょう。
ソフトウェアについても、機械学習や動画解析をするためのライブラリやフレームワーク、データの可視化や分析をするためのツールが必要になります。「どんなデータをどのように取得するか」「取得したデータをどのように分析するか」をイメージして、必要なものを過不足なく用意しましょう。
3.学習用のデータを収集する
動画解析を行うためには、AIモデルを学習させるための大量のデータが必要です。
人間の動作をAIに認識させる場合は、各動作を多角的に撮影したデータが必要です。目的にもよりますが、例えば、一般的な工場作業者の動作解析では数千から数万規模の学習用データが必要とされており、解析の対象が多いほど必要なデータも増えていきます。
また、学習用データは多いほど望ましいですが、データ量に応じて学習時間が増える点には注意しなければなりません。そのため、学習に費やせる時間やコストとのバランスを取りながら、学習用データを選別するような作業も生じます。
4.動画解析モデルを開発する
次は、プロセスの2で調達したハードウェアやソフトウェアを用いて、動画解析用のAIモデルを開発します。設定した要件に合わせて、使用するアルゴリズムなどを選び、収集したデータで学習させることでAIモデルを構築していきます。
なお、AIモデル開発では「機械学習」「ディープランニング(深層学習)」が用いられます。機械学習は学習データから、特定のパターンやルールを見つける解析技術です。ディープランニングは人間の脳を模した仕組みでデータの特徴そのものを自ら判断します。
膨大なデータから、AI自身に抽出すべき特徴などを判断させたい場合は、ディープランニングの実装が必要になります。将来的にAIモデルをアップデートすることも踏まえて、必要なアルゴリズムや技術を見極めましょう。
5.導入や運用の体制を整備する
動画解析AIの導入時には、高度な知識をもったIT人材が必要になります。運用時にも専門知識が求められるため、人材確保も含めた体制整備をしなければなりません。自力での体制づくりが難しい場合は、システム開発会社やコンサルティング会社などの導入サポートに頼ってもいいでしょう。
なお、プロジェクトの規模や導入範囲、予算によって適切なサービスは変わるため、外部に任せる場合でも情報収集はきちんと行いましょう。
動画解析AIの注意点
AIの導入にはリソースが必要であり、運用中も維持管理コストがかかります。使用する動画データによってはプライバシーやセキュリティに配慮する必要もあります。
ここからは、動画解析AIで注意したい3つのポイントを解説します。
<動画解析AIの注意点>
1.画質によって解析精度が変わる
2.導入コストと維持管理コストがかかる
3.プライバシーやセキュリティ面のリスクがある
1.画質によって解析精度が変わる
学習データの動画の画質は、AIモデルの解析精度に大きく影響します。例えば、光量や画角の影響でオブジェクトの検出ができない場合は、いくら学習データを増やしても解析精度が上がりません。
したがって、画質に影響するカメラの種類、設置場所の環境条件は慎重に検討する必要があります。動画の撮影やカメラの設置を外部に任せる場合は、画質要件を明確にしたうえで入念に打ち合わせをしましょう。
2.導入コストと維持管理コストがかかる
動画解析AIの導入時には、ハードウェアやソフトウェアの購入費やAIモデルの開発費、データサイエンティストやシステムエンジニアなど高度人材の人件費が必要です。また、運用時にも維持管理コストがかかります。
大きなコストをかけると、動画解析AIプロジェクトは遂行できても投資回収ができず、プロジェクトは赤字になってしまうかもしれません。そのため、プロジェクトがもたらす見込み利益(見込み削減コスト)と、プロジェクトを導入しなかった場合の機会損失、必要になる投資額を比較して、慎重に投資回収計画を立てることが重要です。
3.プライバシーやセキュリティ面のリスクがある
動画解析AIでは膨大なデータを取り扱うため、プライバシーやセキュリティには細心の注意を払う必要があります。
特に人が解析対象になる動画データの扱いや解析結果についてはプライバシーへの配慮が欠かせません。技術の進歩により、現在は口の動きから会話内容を予測することまでもが可能になっています。また、複数の人が映り込む動画データでは、ひとつの動画から多数の人に関するさまざまな情報を解析できます。思いがけずプライバシーを侵害することがないよう、データの取得・保存・利用・廃棄などに関する配慮が必要になります。
人に限らず、人以外を解析対象とする動画データや解析結果でも、その流出は、想定外の悪用につながるリスクがあります。その点を理解し、十分なセキュリティ体制を整えておくことも必要です。
動画解析AIの活用例
動画解析AIはすでに実用化されており、国内でもさまざまな分野に活用されています。技術は急速に進歩しており、導入される業種や業務の幅が広がってきました。
どのような進歩を遂げているのか、ここからは動画解析AIの3つの活用例を紹介します。
<動画解析AIの活用例>
1.イベント会場の混雑状況や来場者属性を解析
2.フォークリフトと人間の接触事故を防止
3.資材や在庫の数をリアルタイムで自動カウント
1.イベント会場の混雑状況や来場者属性を解析
2023年10月に岩手県で開催された「三陸花火競技大会」では、来場者や駐車場の状況を可視化する目的でAIシステムが使用されました。
2ヵ所の入場ゲートにカメラを設置することで、来場者の数や属性をデータとして抽出。また、駐車場に向かう道路にもカメラを設置し、滞留時間から混雑状況を予測するような実証実験が行われています。
また、同年9月に開催された「Japan マーケティング Week」でも、来場者のデータを可視化するシステムが導入されました。本取り組みは、翌年以降の会場レイアウトを最適化することが目的であり、来場者の年代や性別、行動パターンなどの解析データが抽出されています。
2.フォークリフトと人間の接触事故を防止
食品の低温物流に取り組むニチレイロジグループは、フォークリフトの周辺に立ち入る作業員をAIで検知し、現場の安全性を高める実証実験を行っています。
本実験ではフォークリフトに搭載したドライブレコーダーを使用し、数百時間に及ぶ映像データが収集されました。この映像データをAIに解析させた結果、運転者以外の作業員を高精度で検知することに成功しています。
このようなAIシステムを導入することで、危険なシーンが生じた場合にアラートを鳴らしたり、管理者にすぐさま知らせたりすることが可能になります。管理者の負担軽減にもつながり、安全性向上と業務効率化を両立できる取り組みです。
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3.資材や在庫の数を自動カウント


株式会社シーエーシーの提供する『OCTOps』はAI実行・運用プラットフォームです。MLOpsのための機能が提供されており、エッジデバイスに適用するAIモデルの選択、AI推論時のパラメータ調整、AI推論結果の映像による可視化、AIの再学習による継続的な精度向上などを遠隔操作で実現できます。
このプラットフォームに載せるAIモデルとして資材や在庫を認識し、数を自動カウントするものがあります。カメラを置くだけで「どこに何がどれくらいあるのか」を自動的にカウントし、資材・在庫を一元管理できるため、必要なパレットや保管スペースをリアルタイムで把握できます。
『OCTOps』では資材・在庫の数の自動カウントの他、生産ラインの作業時間予測、外観検査など異常検出などのAIモデルも用意されています。また、お客さま独自のAIモデルを『OCTOps』に載せることも可能です。導入にあたって既存の防犯カメラやWebカメラを使用でき、初期コストが抑えやすいのも特徴です。
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動画解析AIの早期導入を検討しよう
動画解析AIはすでに新しいものではなく、さまざまな分野で実用化されています。AIスタートアップ、システム開発会社やコンサルティング会社などから導入支援サービスも登場しているため、中小企業でも導入が当たり前になる時代がくるかもしれません。
早期導入すると、競合他社に対して優位性を築けるだけではなく、より多くの学習用データを集めてAIモデルの精度を高められるので優位性の持続も期待できます。
技術的な成熟、導入支援サービスの登場など動画解析AIを導入できる環境は整いつつあります。これを機に早期導入を検討されてみてはいかがでしょうか。
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