ID為替レポート
(画像=外為どっとコム マネ育チャンネル)

総括

FX「円高・利上げの悪影響が出てきた日本、失われた20年の学習効果は消えている」

「注目の米中ハイレベル経済貿易協議は率直で、綿密かつ建設的であり、重要な共通認識に達し、大きく進展したと評価した。双方は、米中経済貿易協議メカニズムを設立することで合意した。
 中国と米国は関連の詳細をできるだけ早く確定し、5月12日に会談に関する共同声明を発表する予定だ」

ドル円=143-148、ユーロ円=161-166、ユーロドル=1.10-1.15

通貨ごとの注目ポイント

*円「通貨3位(3位)、株価17位(18位)、円高・利上げの悪影響が出てきた日本」
(失われた20年の学習効果は無いようだ)
 通貨3強(スイス、ユーロ、円)グループには入っているが3位に後退、4位のメキシコに迫られてきた。米国関税不安で米国から資金が流れ欧州株価に流れているが、日本株はその好影響はない。
株価は19市場中17位で年初来5.99%安、少しは回復しているが、日本の伝統の円高株安にハマっている。日銀財務省はそれにもかかわるず円高・利上げ政策を継続している。失われた20年の学習効果は無いようだ。

(GDP、1-3月はマイナス成長か)
今週16日に1-3月期GDPが発表される。前期比0.2%減(前期比年率0.9%減)と4四半期ぶりのマイナス成長になったと推計される。
高水準の企業収益を背景に設備投資は前期比0.9%の増加となったが、物価高の影響で民間消費が同伸びず低迷したことから、国内需要は増加したものの外需の落ち込みをカバーするには至らなかった。

4-6月期は米国の関税引き上げに伴い輸出、国内生産が大きく下押しされることは不可避と考えられる。国内需要の回復が緩やかにとどまる中で輸出が減少することから、現時点では4-6月期は2四半期連続のマイナス成長になると予想している。

(主要企業に悪いニュース、円高・利上げ・トランプ関税で)
*日本製鉄の26年3月期は最終43%減益計画、トランプ関税「間接影響は甚大」
*パナHDが今期中に1万人削減、純利益15%減 米関税影響含めず
*日産が国内で早期退職募集へ、今期中にも数百人規模を削減

(日銀植田総裁 関税措置の影響で経済の成長ペースは鈍化)
日銀の植田総裁は1日の金融政策決定会合のあとの会見で、トランプ政権の関税措置の影響で経済の成長ペースは鈍化するとしたうえで、次の追加の利上げついては関税をめぐる状況の変化で先行きの見通しが変わる可能性があるとして、適切な時期を示すのは難しいという認識を示した。

(関税見直し求める日本の姿勢に変わりない)
赤沢亮正経済再生相は、米英が貿易協定で合意した内容をどう受け止めるかとの質問に対し、「一連の関税措置の見直しを求める日本のポジション変わりはない」と述べるにとどめた。

(貿易収支、外貨投信残高)
 引き続き、縮小しつつある貿易赤字や、減少している外貨投信残高にも注目したい。今週は4月外貨投信残高、来週は4月貿易統計の発表。

*米ドル「通貨11位(11位)、株価(NYダウ)14位(14位)、米英関税交渉合意、米中は交渉中。不確実性はまだ顕現せず」
(最悪期からはリスク選好)
幾分、改善したがドル安株安は続いている。米ドルは12通貨中11位、対円で年初来7.53%安。NYダウは3.04%安、ナスダックは7.16%安、S&Pは3.77%安。10年国債利回りは4.383%。年初の4.57%からは低下している。トランプ大統領がパウエルFRB議長を解任しないと発言(批判は続けている)したこと、米英関税交渉合意、米中関税交渉開始などで最悪期からはリスク選好となっている。

(経済指標は正常。関税の不確実性は今後現れるだろう)
 1QはマイナスGDPとなったが、2Qのアトランタ連銀GDPナウは2.3%増、CPIナウは2.34%、コアは2.76%、サプライチェーンインデックス(GSCPI)はマイナス0.29と数字からは問題はない。
まだ関税賦課の結果は出ていないからだ。パウエルFRB議長なども、依然「不確実性」を繰り返している。今週は4月消費者物価の発表がある。予想は前年比2.4%上昇。コアは2.8%上昇。

(FOMC政策金利維持、調整急がず)
FOMCは先週主要政策金利を据え置くことを決定した。据え置きは3会合連続。パウエルFRB議長は、金利調整を急いでいないとの姿勢を示し、関税がインフレ加速と失業増加につながる恐れがあると述べた。
声明では「景気見通しに関する不確実性は一段と増している」と指摘。「失業増加とインフレ加速のリスクは高まったと判断している」と記した。
ウエル議長は、「今は予防的になれる状況ではない。さらなるデータを目にするまで、どのような対応が正しいのか実際のところ分からないからだ」と語った。

(財政資金が8月に枯渇する可能性)
ベッセント米財務長官は、連邦政府の財政資金が8月に枯渇する可能性が高いとし、7月中旬までに、政府の借り入れを制限する債務上限を引き上げるか、停止するよう議会に求めた。
共和党のジョンソン下院議長に宛てた書簡で、債務上限の引き上げや停止がない場合は「米国の金融システムに大混乱が生じ、米国の安全保障と世界のリーダーとしての地位が弱まる」と警告した。
 2023年には債務不履行が懸念される状況に追い込まれ、米長期国債の格付けが引き下げられた。

(財政赤字を10%関税で穴埋めか)
トランプ米大統領は、貿易協定が締結された後も輸入品に対する10%の基本関税を維持すると述べた。同時に、各国が重要な貿易条件を提示した場合には例外措置が取られる可能性があるとも述べた。
向こう数週間で新たな貿易協定が締結できると期待しているとしながらも、「常に10%の関税をベースラインとして維持する」と語った。

(ロングビーチ港の貨物量は関税の影響で30%減少)
米国ロングビーチ港の貨物量は関税の影響で30%減少した。 カリフォルニア州ロングビーチ港のCEO、コルデロ氏は 「棚が空になる可能性があり、消費者はそれを感じるだろう」一部の専門家は、関税政策により多くの商品の販売価格が上昇し、より多くの一般アメリカ人が影響を受けるだろうとも述べている。

*ユーロ「通貨2位(2位)、株価2位(2位)DAX)、通貨も株価も強い。関税交渉は緊迫か」
(通貨も株価も強い)
 通貨も株価も強い。ユーロは年初来でスイスに次いで2位、独DAX株価指数も年初来18.03%高でギリシャ市場に次いで2位。米国の関税不安から欧州株に資金が移動している。

(1Qユーロ圏GDP)
ユーロ圏の1Q・GDPは前期比0.4%増で、予想の0.2%%を上回った。前年比では1.2%増と、昨年4Qと変わらずで、予想の1.1%増を上回った。
前期比0.6%増だったスペインがけん引した。

(マイナス圏だが改善)
 5月のユーロ圏投資家センチメント指数はマイナス8.1で、トランプ米大統領の関税政策によって大幅に悪化した4月のマイナス19.5から改善した。
5月の独消費者信頼感指数はマイナス20.6と、4月改定値のマイナス24.3から改善したが、依然としてマイナス圏にとどまった。

(今週は5月ZEW景況感調査など)
 今週は5月ZEW景況感調査、3月鉱工業生産、貿易収支の発表がある。

(ユーロ圏の大貿易黒字なので対米関税交渉は難航か)
 ドイツのメルツ首相は欧州と米国は「ゼロ」関税協定に達するべきだと発言した。前日にトランプ米大統領との電話会談で、トランプ政権に対し、貿易紛争を終結させ、最近の関税政策を撤回するよう求めたと述べた。
 EUは2023年で対米輸出が5023億ユーロ、輸入が3465億ユーロ。ユーロ圏の1558億ユーロの黒字。米国からは20%の相互関税を課されている。

(EU、950億ユーロ規模の報復措置提案)
 欧州委員会は、トランプ米政権による関税措置が交渉で撤回されなかった場合に備え、最大950億ユーロの米輸入品を対象にした対抗措置を提案した。
対象品には米国産のワイン、バーボンなど蒸留酒、水産物、航空機、自動車や部品、化学製品、電気機器、健康製品、機械などが含まれる。
フォンデアライエン委員長は声明で、米国との交渉に全力を尽くすとする一方、「同時にあらゆる可能性に備えて準備を続けている」と述べた。

*ポンド「通貨5位(6位)、株価8位(9位)、英米関税交渉で合意。市場は落ち着いたが、ウィンウィンでもない。ボリバン上限に注意」
(ポンドは年初来5位、FT株価指数は4.67%高と悪くはない2025年の展開)
 ポンドは年初来5位、FT株価指数は4.67%高と悪くはない2025年の展開だ。ユーロ同様、自国経済の強さではなく、関税問題による米国不安でのドル安、米国資金が一部流れてきているなど他力本願的要因だ

(英米の関税交渉合意)
 英米は関税措置をめぐる交渉で英国と合意した。トランプ政権が輸入される自動車に25%の追加関税を課す中、英国で生産された自動車については年間10万台までは関税を10%に引き下げるとした。今回の合意では米国の農家や畜産農家などにとって50億ドル分の新たな輸出機会の創出につながるほか、米国の輸出品に対するイギリスの税関手続きが簡素化されるなどとしている。
さらに英国の鉄鋼製品とアルミニウム輸出については、関税は0%に引き下げられる。
これとは別に、米国がほかの多くの品目に一律で10%の関税を課している措置については維持される。
スターマー英首相は、「歴史的な取り引きの基本部分についての合意を発表でき、大変うれしい。企業と数千の雇用を守るものだ」と成果を強調した。

(しかし米英企業はともに不満、ウィンウィンではないようだ)
*英米企業団体は、自動車を含む多くの製品に米国の10%関税が維持され、英国の輸出業者のコストが上昇することに失望を表明した。今回の協定がデジタル経済を含むより深い米英貿易統合のスタートになることを期待していると述べた。

*米国自動車政策協議会は、合意した貿易協定について、米自動車産業に悪影響を与えると批判した。英国からの輸入車に課せられる米国の関税は10%となり、カナダとメキシコからの輸入に課せられる25%の関税よりも低くなると述べた。メキシコやカナダから輸入する3大自動車メーカーの自動車に不利な状況をもたらすようなモデルになることを望んでいないと述べた。

(重要指標が続く)
今週は重要だ。3月雇用賃金、1Q・GDPの発表がある。来週は4月消費者物価。金融政策に大きく影響する。

(英中銀、予想通り0.25%利下げ)
 英中銀は8日、政策金利を0.25%引き下げ4.25%とした。引き下げは2会合ぶり。
米国による関税引き上げについて、英国の経済成長を一定程度圧迫しインフレ率を押し下げるとの見方を示したが、見通しが依然不透明であることを強調した。

*豪ドル「通貨8位(7位)、株価12位(12位)、貿易、豪米関係より、米中関係が豪ドルの運命を握る」
(貿易、豪米関係より、米中関係が豪ドルの運命を握る)
豪ドルは8位、豪全普通株指数は12位。やや弱い。米中貿易関税交渉を待つ。豪の対米輸出は2023年で輸出215億豪ドル、輸入477億豪ドルと豪の貿易赤字。貿易構成比では中国への輸出の36.6%、輸入の25.3%と比べれば輸出が3.8%、輸入が11.5%と小さい。米豪貿易関係は問題ない。むしろ米中貿易交渉が豪に与える影響が大きい。

(今週の指標)
5月ウエストパック消費者信頼感、4月NAB企業景況感指数、1Q賃金指数、4月雇用統計と続く

(政策金利は0.25%引き下げか)
  3月の小売売上高は小幅な増加にとどまり、1Qは横ばいだった。いずれも予想を下回り、個人消費の経済成長への寄与が限定的になることを示唆した。トランプ関税、米景気後退懸念で経済見通しが一段と不透明になっており、RBAが今月利下げするとの見方が一段と強まった。 3月の小売売上高は前月比0.3%増加。借り入れコストの低下やインフレ鈍化が消費を下支えし、2月(0.2%増)からやや加速したが、予想(0.4%増)は下回った。 1Qの小売売上高は前期比横ばい。予想の0.3%増を下回った。

RBAは4月に政策金利を据え置いた。弱い小売り統計は、インフレ鈍化、減税、2月の利下げによって個人消費がより強く伸びるとの中銀の懸念を緩和するとみられる。市場は5月20日の理事会での0.25%利下げすると予想している。関税措置の発表を受けた不確実性の高まり、消費者信頼感の落ち込みで今後数カ月、支出が控えられる。ただ国内の雇用情勢がなお堅調で家計を取り巻く状況は良好とも指摘し「利下げや(豪総選挙の)選挙公約を通じた政府の支援拡大が消費支出の一定の勢いを支える」と予想されている。

(首相が続投するのは20年ぶり、豪総選挙、反トランプの波に乗る)
 総選挙は与党・労働党が勝利した。 労働党は一時は保守連合にリードを許したが、有権者の反トランプの波に乗り、選挙戦終盤に劇的な逆転劇を演じた。 同国の首相が続投するのは20年ぶり。
アルバニージー首相は「われわれはどこかの国に物乞いしたり、借りたり、真似したりする必要はない。われわれの価値観と国民の中にこそ、インスピレーションを見出すことができる」と語った。
保守連合のダットン氏が掲げた政策を巡っては、トランプ氏と実業家イーロン・マスク氏の「政府効率化省(DOGE)」を模倣したものが含まれているとの指摘が多く、支持率低迷の一因となっていた。

*NZドル「通貨6位(6位)、株価15位(15位)、5月は追加利下げか、失業率が高い」
(NZドルは年間6位、米中関税交渉待ち)
 トランプ関税のリスク回避で円が依然強い通貨の1つだが、米英貿易合意もあり、5月はリスク選好へ少し傾きNZドル円も79円台から85円台まで戻している。NZドルは年間6位、株価は弱く年初来15位の3.86%安。対米貿易はNZの貿易赤字なので大きな問題はない。貿易構成比が大きい中国と米国の関税交渉の方がNZ経済に与える影響が大きい。

(1Q失業率、5.1%で横ばい、追加利下げ観測あり)
1Qの失業率は5.1%と、昨年4Qと同じで約4年半ぶり高水準にとどまった。雇用は前期比0.1%増加した。2023年までは失業率は3%台であった
賃金インフレも鈍化し、追加利下げ観測が強まった。昨年末に景気後退から脱したが、内需低迷と世界貿易戦争による外部リスクの高まりが依然として経済成長の足かせとなっている。
労働市場に十分な余剰があり、インフレ圧力が当面弱まり続けることを示唆しているので5月28日の政策金利決定では3.25%への引き下げ予想に変わりはないだろう。
1Qのインフレ率は2.5%で予想を若干上回ったものの、3四半期連続で目標である1-3%に十分収まっている。

(仏ラクタリスのフォンテラ資産買収計画、明治も候補)
豪政府はフランスの乳業大手ラクタリスが検討しているNZ乳業大手フォンテラの資産買収について非公式な審査を開始した。
フォンテラが売却を検討しているグローバルコンシューマー事業、オセアニア事業、スリランカ事業について、明治やラクタリスなどが応札を検討していると報じられている。

(NZ中銀総裁、トランプ関税、世界の供給網通じてNZ経済に悪影響)
ホークスビーNZ中銀総裁は議会証言で、トランプ米政権が打ち出した関税措置が世界のサプライチェーンに与える悪影響が、NZ経済にも波及する恐れがあると警告した。
ホークスビー氏は「われわれはコロナ禍の経験を通じて、供給サイドの影響は相当大きく長期間続き、さまざまな試練を生み出す可能性があると分かっている」と語った。
一方で世界経済の構造的な枠組みがどのように変わっていくかについては、不透明な部分がなお大きいとの見方を示した。
NZ製品に適用される米国の関税率10%の打撃は、NZドル安によって多少緩和されるものの、貿易相手国の経済が弱体化することが逆風に働くだろうという。