人材サービス大手の間で、株式を非公開化する動きがじわり広がっている。昨年、製造系派遣トップのアウトソーシング(現BREXA Holdings)がMBO(経営陣による買収)で株式市場から「退出」した。これに触発されるかのように、今年は医療福祉系人材派遣のトライト、技術者派遣大手のテクノプロ・ホールディングス(HD)が非公開化を決断した。何が背中を押しているのか。

テクノプロの非公開化、業界内で最大案件に

テクノプロHDは8月初め、米投資ファンドのブラックストーンによるTOB(株式公開買い付け)を受け入れて、株式を非公開化すると発表した。

国内技術者市場の需給ひっ迫や、AI(人工知能)・デジタル化の急速な進展への対応といった経営課題の解決に向けては大胆な先行投資や構造改革を不可欠とするが、短期的利益や株価が重視される上場維持前提では一定の限界に直面すると判断した。

ブラックストーンはテクノプロHDに対して完全子会社化を目的に1株4870円でTOBを始めた。買付代金は5074億円に上り、人材サービス業界で過去最大のM&Aとなる見通しだ。TOBが成立すれば、所定の手続きを経て、テクノプロHDの東証プライム市場への上場は廃止される。

ブラックストーンはM&A投資で1000億円超、AI・デジタル投資で100億円超の支援を予定している。多様な技術領域に対応できるエンジニア基盤の構築や、AIツールを活用できるエンジニアの育成強化による供給制約の解消などを通じて、技術系人材サービスの事業モデルの革新につなげる。

テクノプロHDは2006年、ジャパン・ユニバーサル・ホールディングス・アルファとして設立。旧グッドウィル・グループ(不正問題などで廃業)の事業を2012年に引き継いだのに伴い、現在の社名に変更した。

同社は2014年に東証1部に上場。積極的なM&Aで業容を拡大してきた。2025年6月期業績は売上高9%増の2389億円、営業利益8.8%増の238億円。

トライト、上場企業の看板を2年余で返上

トライトは米投資ファンドのカーライル・グループが実施したTOBが7月末に成立し、非公開化への道筋をつけた。

続いて10月に、カーライルがトライトの筆頭株主であるアイルランド企業から60%の株式を相対で取得し、完全子会社化する運びだ。一連の買収総額は874億円。

トライトは看護師、ケアマネージャー、介護福祉士、理学療法士などの人材紹介・派遣を主力とする。2024年12月期の売上高は571億円。実は、同社は2023年7月に東証グロース市場に上場したばかりで、3年を待たずに上場企業の看板を返上する。

医療福祉をめぐっては人手不足と高齢化のダブルパンチで構造的な採用難が続き、労働力確保と生産性改善が急務になっている。こうした中、先見的な経営ノウハウと豊富な資金力を持つカーライルの傘下で、M&A戦略やDX(デジタルトランスフォーメーション)投資を進め、企業価値の最大化を目指す。