2025年のTOB(株式公開買い付け)件数が100件(届け出ベース)に到達した。前年は年間で100件ちょうどだったが、今年は3カ月半を残して100件の大台に2年連続で乗せた。これまで最多の2007年104件を超えるのは時間の問題だ。
例年、10~12月が1年で最も件数が伸びることから、今後、どこまで記録を伸ばすのか注目される。またTOBのうち、MBO(経営陣による買収)を目的した案件はすでに21件と過去最多に並ぶ。
前年比6割のハイペース
今年のTOBが100件に達したのは9月12日。出光興産と博報堂DYホールディングスの2社がTOB開始を関東財務局に届け出たことで、100件ジャストとなった。前年のこの時期は60件(9月10日)だったので、6割を超える大幅な増加となる。

出光興産は持ち分法適用関連会社で石油精製を手がける富士石油、博報堂DYはインターネット広告代理店のデジタルホールディングスに対し、それぞれ完全子会社化を目的にTOBを始めた。
TOBが成立すれば、富士石油、デジタルホールディングスはいずれも東証プライム市場への上場が廃止となる。
国内投資ファンドの健闘が目立つ
今年のここまで100件のTOB対象企業の上場区分(韓国証券取引所上場、非上場の各1社含む)をみると、東証スタンダードが40社で最も多く、東証プライム37社、東証グロース13社、名証3件、東証リート(不動産投資信託)3社、その他4社。
TOBの目的は子会社化60件、MBO21件、親子上場解消9件、純投資・買い増しなどが10件。
また、買付者が投資ファンドとなった案件は25件と全体の4分の1を占め、引き続き牽引役となっている。ただ、25件のうち14件に国内投資ファンドが関与し、海外ファンドの独壇場だった前年(27件中、海外ファンドが21件)と打って変わり、健闘が目立つ。
MBOもTOB件数を押し上げている。今年は21件とすでに前年の年間19件を上回り、過去最多の2011年に並ぶ。
背中を押す「東証要請」
TOB増加の背景として見逃せないのは東京証券取引所が2023年3月にプライム市場とスタンダード市場の上場企業に要請した「資本コストと株価を意識した経営の実現への対応」だ。
PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る割安企業は、物言う株主(アクティビスト)の経営介入を招きやすく、買収の標的になる懸念がある。このため、投資ファンドとの連携やMBOによる株式の非公開化で先手を打つ動きが広がっているとみられる。
例えば、今回、博報堂DYがTOBを始めたデジタルホールディングスでは物言う株主のシンガポール系投資ファンドのシルバーケイプ・インベストメンツが10%強の株式を保有する大株主となっており、こうした物言う株主の存在がTOB受け入れの決め手の一つになった可能性もある。