この記事は2025年10月10日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「トランプ関税が及ぼす、ベトナム経済への今後の影響」を一部編集し、転載したものです。
2025年4月、米国のドナルド・トランプ政権はベトナムからの輸入品に対して46%という高関税を課す方針を表明した。背景には、米国の対ベトナム貿易赤字の拡大や、中国からベトナム経由で米国に輸出される「迂回輸出」の増加がある。その後、米国とベトナム両政府は交渉を重ねて7月2日に新たな貿易の枠組みに合意した。
その主な内容は、①ベトナムからの米国向け輸出品に20%の関税を課す、②第三国からベトナム経由で米国に積み替え輸出される商品に40%の関税を課す、③米国からベトナムへの輸出品に対する関税をゼロ%にする──の三つだ。この新たな貿易の枠組みの経済的影響について、以下で考察したい。
まず①について、この水準は中国やインドなど他の新興国の関税率と比べると低い(図表)。また、現時点でベトナム製品は付加価値の低い製品が多いと考えられる。そのため、ベトナムの生産拠点が人件費のはるかに高い米国に置き換わる可能性は低い。20%の追加関税を考慮したとしても、ベトナム製品の米国市場における競争力の低下は避けられると考えられる。
次に②について、現時点では積み替え商品の基準などの詳細は決まっていないが、ベトナムでは、原材料や部品の多くを海外から調達している。そのため、この関税措置が中国以外の国・地域にも適用された場合、日本などからの通常の原材料や部品の調達にも影響が及ぶ恐れがある。他方、この措置が中国からの輸入品に限定して厳格に適用された場合、中国からのベトナムに対する経済的圧力が強まる可能性もある。
一方で、40%の関税措置が徹底されず、ベトナムを経由した積み替え輸出品が引き続き米国へ大規模に輸出される状況になれば、ベトナムに対して追加の制裁関税などが課される可能性も否定できない。こうした事態になれば、ベトナムの輸出産業全体に悪影響が及ぶことは避けられない。
最後に③について、今後ベトナム国内における米国製品、特に自動車(注1)などの価格競争力が高まると予想される。その結果、ベトナム市場では、自動車を中心に、米国製品と国外メーカーや地場企業の製品との販売競争が激化すると見込まれる(注2)。今後、ベトナム政府には、新たな貿易枠組みの運用に対して、慎重かつ真剣に対応することが求められよう。
浜銀総合研究所 調査部 主任研究員/白 鳳翔
週刊金融財政事情 2025年10月14日号