この記事は2025年11月7日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:『責任ある積極財政』とは?」を一部編集し、転載したものです。
- 消費税率0%への時限的な引き下げについては?
- 食料品のみ消費税をゼロ%にする財源については?
- 高市総理が目指す「責任ある積極財政」とはどういうものか?
- 財源確保に向け新たな国債発行の可能性については?
- 日本の財政状況は厳しいと言われていることについては?
- 金融緩和は円安を招きやすく、輸入価格の上昇で物価高が進みかねない点については?
- 財源を伴わない財政拡張については?
以下は会田がコメンテーターとして出演している文化放送の「おはよう寺ちゃん」の内容の一部をまとめ、加筆・修正したものです。
消費税率0%への時限的な引き下げについては?
問(寺島):高市総理は国会で、立憲民主党が物価高対策として掲げる
食料品の消費税率0%への時限的な引き下げに否定的な考えを示しました。
「事業者のレジシステムの改修などに一定期間がかかる」と述べ、こうした課題にも留意が必要だと説明しています。消費減税は高市氏が自民党総裁選に臨むにあたって旗を降ろした経緯があります。かつて主張していた食料品の消費税率0%への時限的な引き下げに否定的な考えを示したことについてはどうご覧になっていますか?
答(会田):自民党と日本維新の会の連立政権は、衆参両院で過半数の議席を保持していません。国会運営を安定させるためには、野党との協調が必要となります。高市総理が、政府の成長投資と比較して、減税へのコミットメントが弱く見えたり、麻生元総理が消費減税を否定してみたりすることは、野党の要求の呑む時の価格を引き上げる意図があるとみられます。自民党が大きなコストを支払ったようにみえるからです。所得税の基礎控除の引き上げは実現するでしょうし、消費税率の引き下げもいずれ俎上に上がるとみています。
食料品のみ消費税をゼロ%にする財源については?
問(寺島):自民と維新は連立合意書で、食料品は2年間限定で税率をゼロにすることを「視野に、法制化を検討する」としています。ただ、本当に食料品を2年間ゼロにするのか、いつから実施するのかなど明確になっていない部分は多いです。維新の藤田・共同代表は「事実上の先送り」との認識を示しています。食料品のみ消費税をゼロ%にすると、税収は年5兆円減少します。この財源についてはどうみていますか?
答(会田):財源は要りません。個別の政策や減税に、個別の財源を求める財政運営のやり方は、日本のガラパゴス・ルールです。過去の民主党政権の時、すべての恒久的な追加支出・減税には、恒久的財源を確保する必要があるという財源確保、ペイ・アズ・ユー・ゴーの原則を閣議決定してから続くガラパゴス・ルールです。高市政権は、このガラパゴス・ルールに縛られないと考えます。歳出と歳入は一体で管理し、その差としての収支の増減は、景気の強弱を基準に考えるというグローバルな標準的な財政運営に改めて行くと考えられます。あえて、財源をつけるのであれば、成長による税収増とするだけです。
高市総理が目指す「責任ある積極財政」とはどういうものか?
問(寺島):高市総理は「責任ある積極財政」を政権の看板に掲げ、財政・金融政策を転換させる姿勢を見せています。その看板政策の具体化へ向け、「成長戦略本部」の初会合が今週開かれ、会田さんは有識者として起用されていますが、高市総理が目指す「責任ある積極財政」とはどういうものなのでしょうか?
答(会田):財政規律の基準を持ちながら、財政の力をより大きく使っていくという考え方です。需要と供給の相対的な強さを示す需給ギャップが0%で、もう十分に景気は良いと、財政を引き締めてしまっていました。需給ギャップが2%超の高圧経済にする、地方や中小企業まで景気回復の実感が広がるまで、財政政策を発動します。0%から2%まで基準を変えるのが、積極財政です。企業と政府の合わせた支出する力であるネットの資金需要が0%と消滅し、経済が膨らまず、家計にも所得が強く回らない状態でした。ネットの資金需要がGDP比5%までは、財政政策を発動し、経済に膨らむ力をかけます。ただ、インフレの高騰やトラス・ショックが起こった米国と英国のように、15%のような無理な膨らませ方はさせないという財政規律があります。純負債残高GDP比を50%という格付けでAAAの水準まで改善させることや、総負債残高GDP比を低下させるという財政規律もあります。
財源確保に向け新たな国債発行の可能性については?
問(寺島):石破前政権での来年度予算の概算要求は、賃上げや物価高への対応を反映して総額122兆円超と過去最大に達しました。「責任ある積極財政」を掲げる高市政権下では、さらなる財政拡張も予想され、財政健全化との両立をいかに図るかが課題となります。高市総理は国会で、市場の動揺を抑えるために「責任」を強調しつつ、財源確保に向け新たな国債発行の可能性も否定しなかったことについてはどうみていますか?
答(会田):財政健全化派は、プライマリーバランスの黒字化を重視していることで、成長投資を税収の範囲内に収めようとしています。一方、高市総理や私のような成長投資派は、将来の経済成長と所得増加をもたらす投資のための国債発行は躊躇しません。既存の建設国債だけではなく、教育国債、防衛国債、または成長投資国債などの考え方も支持されます。高市政権は、官民連携の成長投資の更なる拡大と、供給能力の拡大にそった需要の拡大を可能にするため、成長投資まで税収でまかなう必要に迫られる欠陥がある既存のプライマリーバランスの黒字化目標に代わる、新たな財政規律のあり方への改革に動くでしょう。複数年度にわたる予算処置を可能にし、民間の予見可能性を高め、グローバルな官民連携の危機管理投資・成長投資・需要の拡大の競争に劣後しないようにします。成長投資の是非は、国債発行に見合う成果が上げられるのかどうかで判断されます。
日本の財政状況は厳しいと言われていることについては?
問(寺島):ただ、インフレ下での財政出動はさらなる物価高を招くリスクがあるほか、財政悪化で国の借金のツケを将来に回すことにもつながりかねず、論戦の焦点の一つとなっています。安倍元総理の後継者を自任する高市総理は、安倍氏が掲げた経済政策「アベノミクス」を意識して、積極財政と金融緩和を志向しています。しかし、日本の債務残高の対GDP比は今年時点で234.9%と先進7カ国の中で突出して高く、財政状況は厳しいと言われていることについてはいかがですか?
答(会田):日本でも、G7各国と同様に、国債は永続的に借り換えされていき、将来の税収で返すことが前提となっていません。国債の償還が来たら、また新たな国債を発行するだけです。国債を将来の税収で返すという間違った切迫感をまずは脱する必要があります。将来世代への最大のツケは借金ではなく、成長と所得の損失、強い経済を残せないことです。成長投資のための国債発行を躊躇すると、そのツケは大きくなります。日本は、債務残高GDP比は大きいですが、外貨準備などのように、資産と債務が両建てとなっているものが多いです。債務から金融資産を引く純債務残高GDP比は、既にピークの125%程度から85%程度まで改善し、国債の格付けが2段階引き上げられても不思議ではない状態になっています。
金融緩和は円安を招きやすく、輸入価格の上昇で物価高が進みかねない点については?
問(寺島):またアベノミクスはデフレ克服を目指した政策でしたが、現在はインフレ局面にあります。金融緩和は円安を招きやすく、輸入価格の上昇で物価高が進みかねません。この点についてはどうなのでしょうか?
答(会田):エコノミストとして不思議に感じるのは、インフレ率は前年からの変化でみて、ドル・円は何円という水準でみて、150円の円安の水準が続くと、3%程度のインフレ率が継続するという結論になってしまっていることです。インフレ率への影響は、ドル・円でも変化になります。150円程度でも、前年からの変化はほぼ0%です。既に、輸入物価の前年比は8か月連続のマイナスとなっています。輸入物価からのインフレ圧力は減退してくるはずです。物価水準が上がってしまった家計の負担は、実質賃金がしっかり上昇するまで、財政政策で支えることになります。
財源を伴わない財政拡張については?
問(寺島):与野党には懸念が広がっています。公明党の斉藤代表は代表質問で「円安がさらに進めば、家計にさらに重い負担がのしかかる」と指摘しました。また自民党の重鎮は「デフレを前提にしたアベノミクスを岸田、石破政権で修正してきたが、いまさら回帰するのか」と漏らしています。財源を伴わない財政拡張は、市場の信認を損ない、金利上昇を通じて一段の財政悪化を招く恐れはないのでしょうか?
答(会田):日本には企業の資金需要が全くありません。企業は借入ではなく、貯蓄をしています。30年以上、企業は借金の返済を続けた結果、企業のネットの債務は消滅してしまいました。政府は独占的な借り手で、国債を発行して、成長投資や家計支援を行っても、金利が急上昇するリスクはほとんどありません。ネットの資金需要でみれば、現在、過去最大の投資先がない金余りの状態にあるからです。逆に言えば、政府が国債を発行して支出を増やさなければ、企業と政府の合わせた支出する力であるネットの資金需要は回復せず、家計に所得がしっかり回りません。実質賃金も上昇できません。企業の国内支出が十分に強くなるまでは、政府は国債発行による支出の拡大を続ける必要があります。政府の支出としては、企業の投資を促す方策、官民連携の成長投資がベストです。高市政権の経済政策の方向性は正しいと考えます。
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