この記事は2025年11月27日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:20兆円規模の経済対策の長期金利の上昇が15bp程度なのであれば安いコスト」を一部編集し、転載したものです。
高市政権は、需給ギャップが+2%を十分に超えるまで、積極財政と緩和的金融政策、官民連携の投資・需要の拡大によって、「高圧経済」を目指していく。まずは、政府の投資と家計への支援を含む21.3兆円(一般会計歳出は17.7兆円)の経済対策を実施することで、需給ギャップの上振れを目指す。高市政権の積極財政の方針によって、昨年の一般会計歳出13.9兆円を大きく上回る。ここで注意が必要なのは、投資は長期的には供給能力の拡大であるが、短期的には需要であることだ。需給ギャップの上振れ余地がなければ、官民連携の投資の拡大はできないことになる。投資による需要の拡大によって需給ギャップが上振れても、投資がいずれ供給能力を拡大するため、インフレ圧力が持続的に高騰することはない。
20兆円規模の経済対策で政府の財政赤字が同水準で増加すると仮定すれば、財政赤字はGDP比3.2%分の拡大となる。マクロ・フェアバリューモデルの係数を踏まえれば、経済対策による財政赤字拡大からの10年金利への直接的な押し上げ寄与は+15bp程度となる。高市政権が目指す「高圧経済」では、社会課題解決のため「危機管理投資」と「成長投資」など官民連携で投資を拡大していくことを明確にしており、中長期的なスパンでの投資戦略を示すことで、企業の予見可能性と成長期待を高めることが期待される。
直近の2025年4-6月期時点で企業の貯蓄率はGDP比+4.3%と大幅な貯蓄主体であり、官民合計の貯蓄投資バランスであるネットの資金需要は同+3.6%と、国内の資金需要は消滅してしまっている。企業の異常な貯蓄超過(プラスの企業貯蓄率)が示すコストカット型経済から、正常な投資超過(マイナスの企業貯蓄率)に転換することによる成長型経済への移行の足掛かりである、20兆円規模の財政支出で長期金利の押し上げが15bp程度なのであれば、安いコストだといえる。経済対策によって、日本経済が好転することを期待した上昇分を割り引けば尚更安いコストだ。
高市政権は、足元の景気は十分に強くなく、需給ギャップ0%近傍では地方や中小企業まで景気回復の実感が広がらないという現状認識にたっている。「依然として『デフレ・コストカット型経済』から脱し切れておらず、成長に向けた投資拡大と生産性向上を伴う『成長型経済』への移行が道半ばにある」と、21日に閣議決定された総合経済対策の基本的枠組みで記している。また、高市政権は、日本の財政状況が深刻であるとは考えていない。フローである財政収支の赤字はほぼゼロとなり、ストックである純負債残高GDP比はピークの133%から85%まで改善し、加えて企業は、自己資本である株式を除いたネットの負債残高GDP比は-10%と、負債が消滅してしまっている。このように民間で空前の金余りとなっている状況下では、国債という安全資産への需要は根強く、内需拡大によるインフレ圧力も強くなく、長期金利が急騰することは起こり得ない。高市政権下での初めての経済対策である、21.3兆円の財政支出が長期金利に与える押し上げ寄与は限定的であり、マーケットが懸念する財政不安やインフレ懸念による「日本売り」は全く当てはまらない。
日本の長期金利(国債10年金利)のマクロ・フェアバリューは、企業貯蓄率と財政収支を合わせたネットの国内資金需要(対GDP比%、マイナスが強い)、日銀の政策金利(コールレート)、日銀の長期国債買入れ額(対GDP比%)、米国10年国債利回り、緩和的金融政策のコミットメントの強さを表すダミー変数で推計できる。企業と政府の支出をする力であるネットの国内資金需要(マイナスが需要拡大、対GDP比%)が国内のマクロ経済要因、日銀の政策金利であるコールレートと長期国債買入れ額(対GDP比%)が金融政策要因、そして米国債10年金利がグローバルな金利動向の代理変数となる。さらに、政策金利を引下げるコミットメントを強めたマイナス金利政策実施後から、インフレ率を下回る政策金利を維持することで実質の政策金利がマイナスとなっている足元までの期間を緩和的金融政策として捉え、ダミー変数とする(2016年1-3月期以降を1、マイナス金利を解除した2024年4-6月期以降は0.75、追加利上げを行った2025年1-3月期以降と、それ以外の期間は0とする)。なお、一過性のショックなどで長期金利がマクロ・ファンダメンタルズから一時的に大幅に乖離した局面(外れ値)を、アップダミーとダウンダミーというダミー変数(モデルの標準誤差が±1を超えるときに1、それ以外は0)を入れることで取り除き、マクロ・ファンダメンタルズにより適合したフェアーバリューを算出する。
高市政権は、需給ギャップが+2%を十分に超えるまで、積極財政と緩和的金融政策、官民連携の投資・需要の拡大によって、「高圧経済」を目指していく。まずは、政府の投資と家計への支援を含む21.3兆円(一般会計歳出は17.7兆円)の経済対策を実施することで、需給ギャップの上振れを目指す。高市政権の積極財政の方針によって、昨年の一般会計歳出13.9兆円を大きく上回る。ここで注意が必要なのは、投資は長期的には供給能力の拡大であるが、短期的には需要であることだ。需給ギャップの上振れ余地がなければ、官民連携の投資の拡大はできないことになる。投資による需要の拡大によって需給ギャップが上振れても、投資がいずれ供給能力を拡大するため、インフレ圧力が持続的に高騰することはない。
20兆円規模の経済対策で政府の財政赤字が同水準で増加すると仮定すれば、財政赤字はGDP比3.2%分の拡大となる。マクロ・フェアバリューモデルの係数を踏まえれば、経済対策による財政赤字拡大からの10年金利への直接的な押し上げ寄与は+15bp程度となる。高市政権が目指す「高圧経済」では、社会課題解決のため「危機管理投資」と「成長投資」など官民連携で投資を拡大していくことを明確にしており、中長期的なスパンでの投資戦略を示すことで、企業の予見可能性と成長期待を高めることが期待される。直近の2025年4-6月期時点で企業の貯蓄率はGDP比+4.3%と大幅な貯蓄主体であり、官民合計の貯蓄投資バランスであるネットの資金需要は同+3.6%と、国内の資金需要は消滅してしまっている。企業の異常な貯蓄超過(プラスの企業貯蓄率)が示すコストカット型経済から、正常な投資超過(マイナスの企業貯蓄率)に転換することによる成長型経済への移行の足掛かりである、20兆円規模の財政支出で長期金利の押し上げが15bp程度なのであれば、安いコストだといえる。経済対策によって、日本経済が好転することを期待した上昇分を割り引けば尚更安いコストだ。
積極財政の継続で企業貯蓄率が低下に向かえば、ネットの資金需要の拡大で10年金利はさらに押し上げられると考えられるものの、名目成長率3%と整合的なネットの資金需要-5%程度の維持に必要な財政赤字幅はその分、縮小する。その際には、政府の財政赤字や負債残高のみに着目することによる、マーケットの過度な財政不安は払拭されるだろう。なお、日銀の政策金利は100bpの利上げで10年金利を69bp押し上げ、25bpの利上げであれば17bpの押し上げ寄与になることがモデルでは示唆され、今回の20兆円の財政拡大とほぼ同水準である。長期金利の動きに政策金利が与える影響が大きいことを改めて認識すべきだろう。この観点では、高圧経済を掲げる高市政権の下で、日銀は日銀法4条で政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるようコミュニケーションをとることが求められており、明確に内需が拡大するまでは利上げは慎重になることが想定され、今後も長期金利を抑える要因となるだろう。そして、高市政権下での高圧経済により「成長型経済」に完全に移行し、潜在成長率の押し上げとともに中立金利に向けた利上げサイクルの開始が十分に織り込まれる環境となれば、堅調な株式市場と安定的な金利動向は維持されつつ、為替は健全な形で円高方向に向かうことにより、あらゆる資産での「日本買い」が見込まれるだろう。
国債10年金利(%)=0.24 +0.68 コールレート (%)+0.28 米国債10年金利(%)-0.043 ネットの資金需要 (%GDP)-0.024日銀長期国債買入額(年率換算、対GDP比)-0.38緩和的金融政策ダミー +0.49 アップダミー -0.44 ダウンダミー; R2 =0.99(アップ・ダウンダミー修正前R2=0.98)
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