「なぜかっこいい白衣がないのか」──。そんな医師の声から生まれたメディカル(医療)アパレルブランド、クラシコ。創業以来、医療従事者のモチベーションとパフォーマンス向上に貢献し、今や世界中から注目を集めている。

既存の常識を打ち破り、医療アパレル市場を牽引する同社の代表取締役CEO・大和新氏は、大学卒業後、ネット企業で営業をしていたが、医師になっていた中学時代の同級生から聞いた、「病院で支給される白衣がとにかくかっこ悪くて、仕事のやる気が出ない」という話をきっかけに、クラシコを創業することになる。

医師や看護師向けのユニフォームから、最近では患者向けの患者衣も発売。海外展開も進めている同社の成功の秘訣と、今後の展望を聞いた。

(取材日:2025年9月)

大和新(おおわ あらた)──代表取締役CEO
1980年生まれ。2003年、立命館大学を卒業後、IT関連企業で営業や事業開発に従事する。その後、オーダースーツ職人で高校時代の同級生・大豆生田伸夫(現CQO)を誘い、2008年にクラシコ株式会社を設立。現在では、日本国内のみならず、世界中から注文を受けるまでに成長し、革新的な製品とサービスで医療アパレル市場を牽引している。
クラシコ株式会社
2008年設立のメディカルアパレルブランド。「なぜかっこいい白衣がないのか」という医師の声を原点に、医療従事者が自分らしく働ける白衣やスクラブを企画・開発・販売。自社ECや直営店舗を通じて顧客の声を反映し、機能性・耐久性とファッション性・着心地を両立。素材開発からのものづくりで、メディカルアパレルの価値を再定義し続けている。 企業サイト:https://classico.co.jp/

目次

  1. 同級生の医師の「支給される白衣がカッコ悪い」がきっかけ
  2. 強みは「商品」にも「販売手法」にもある
  3. 医療アパレル市場の未来と挑戦
  4. 「患者衣」はドラマで着用されることも
  5. IPO、グローバル展開、組織の未来

同級生の医師の「支給される白衣がカッコ悪い」がきっかけ

── 創業のきっかけから現在に至るまでについて教えてください。

大和氏(以下、敬称略) クラシコを設立したのは2008年で、それ以前はインターネット業界で営業職をしており、メディカルやアパレルとはまったく異なる分野にいました。

あるとき、中学時代の同級生である医師と久しぶりに会った際、「病院で支給される白衣がとにかくかっこ悪くて、仕事のやる気が出ない。周りのドクターもみんな不満に思っている」という話を聞いたのがきっかけです。

また、高校時代の友人が当時、オーダースーツの職人として働いていました。彼のスーツ作りの技術を活かし、「テーラード白衣」という新しい白衣を作るコンセプトで試作品を制作し、医師向けのウェブサイトに掲載したところ、多くの問い合わせをいただくようになりました。これがクラシコのスタートです。

── もともと起業したいという思いはあったのでしょうか?

大和 大学生の頃に起業を考えるきっかけがありました。大学は関西の大学に通っていたのですが、大学2年生の時に、当時渋谷でやっていたインターネットの学生ベンチャーで長期間にわたりインターンシップをする機会がありました。小さな会社でも大きなことにチャレンジができる面白さや可能性を感じ、いつか自分も起業したいと漠然と考え始めました。

── すぐに起業したのではなく、会社に勤めながら副業として始めたとか。

大和 はい。創業時は、まずテーラード白衣1型からスタートしました。当時はECサイトを自分たちで手作りし、医師に直接販売していました。

一般的な白衣が3,000円(当時)程度であるのに対し、弊社の白衣は20,000円から30,000円と高価格帯でしたが、デザイン性、着心地、洗濯耐久性のバランスが非常に良いと評価され、口コミで顧客がどんどん増えました。

その後、病院全体でユニフォームをそろえたい、看護師がスクラブをそろえたいといったニーズが出てきたため、BtoBの法人向け事業を立ち上げ、大規模病院や国立大学病院、大手民間病院への導入が進みました。

また、ECだけでは実物を試着できないという要望も多く、店舗展開も開始しました。最初はオフィス併設型でしたが、今では東京、大阪、名古屋、横浜の商業施設に 常設店を4店舗展開しています。

さらに、海外からも注文をいただくようになりました。医師や看護師がいない国・地域はないため、どの国でも昔からかっこ悪い白衣を着ているという状況は共通しています。当初は台湾などから越境ECをスタートし、現在は中国、東南アジア5ヵ国など、展開国・地域を増やしています(2025年11月からはアメリカ・カナダ・オーストラリアでも展開開始済)。

── 白衣についてですが、医師は個人で選べるのですか?

大和 医師と看護師では状況が異なります。医師の場合、ほとんどの病院で白衣が支給されますが、何を着用しても良いというところが大半です。そのため、支給品がありながらも、より良いものを求める医師はECサイトなどで購入しています。

一方、看護師は支給品しか着用できないというケースが8割ほどを占めますが、最近では個人で選べる病院も増えてきています。

強みは「商品」にも「販売手法」にもある

── 売上比率はECと店舗どちらが多いのですか?

大和 ECです。ECは創業当初からスタートしていますが、店舗は2019年ごろから本格的に展開を始めたばかりなので、まだECの比率が大きい状況です。

しかし、店舗も着実に売り上げを伸ばしています。特に東京と大阪の商業施設に出店した店舗は、出店から数年経つ中で、顧客が増えています。時期によっては、多くのアパレルブランドが軒を連ねる中で施設内で上位の売り上げを記録するほどです。

── 医療用アパレルに繁忙期はありますか?

大和 はい、明確な繁忙期と閑散期があります。個人向けでは、4月の年度替わりが最も売上が伸びる時期です。研修医が医師になったり、医師が異動になったりする時期なので、2月から5月ごろは個人の顧客の売上が非常に増えます。

── 強みや特徴、競争優位性はどこにあると分析していますか?

大和 弊社の強みは、既存のユニフォームメーカーとは異なる「商品面」と「販売手法」の二つに集約されます。

まず「プロダクト」ですが、従来の医療ユニフォームは、病院のタオルやシーツと同様にリネンサプライ業者による工業洗濯に耐えうる素材が主流でした。高温での洗浄や強力な洗剤、プレス機によるアイロンがけに耐えるため、非常に耐久性の高い素材が使われていましたが、その結果、着心地やデザイン性は犠牲になっていました。

最大の特徴は、この洗濯耐久性と、着心地、デザイン性、機能性を両立した素材を「糸からオリジナルで開発している」点です。この高い次元で両立した素材開発ができる会社は、ユニフォームメーカーにはないと思っています。

次に「販売手法」です。従来この業界では、必ず代理店が間に入って病院に商品を卸すというのがメインの構造でした。医療従事者に直接販売する会社はほとんど皆無に近かったのです。

弊社は2008年当時、まだD2Cという言葉も一般的ではないころから、医師とECサイトで直接つながり、直接顧客の声を聞きながら商品開発や改善、データの蓄積を行ってきました。これにより、高価格帯でありながらも顧客に評価されるブランドを築き上げました。

── ECサイトでの集客は大変だったのではないですか?

大和 創業期は、私の友人の一言から始まったように、「おしゃれな白衣やかっこいい白衣がない」ことに不満を感じている人が非常に多かったのです。そのため、「おしゃれ 白衣」や「かっこいい 白衣」といったキーワードで検索した際に弊社のサイトが出てくることで、初期のコアユーザー、いわゆるアーリーアダプターが自然と集まりました。

ニーズが顕在化されていたため、広告を打たなくても顧客が増えていったという経緯があります。

── BtoBの営業は強化されているのですか?

大和 強化しています。BtoB事業は7年前にスタートしましたが、病院全体でユニフォームを揃えたいというニーズに応えるためです。

医療ユニフォーム市場は、国内ではBtoBの流通比率が大きいので、弊社のミッションを実現するうえで、BtoBの販路は不可欠な選択肢です。そのため、BtoB向けの商品開発や営業体制を構築し、加速させています。

── 大規模病院への営業はどのようにしていますか?

大和 大規模病院でユニフォームを最も多く着用するのは看護職員です。医師の約5倍の人数がいらっしゃるため、看護職員が所属する部署である看護部にご提案をしたり、パートナーの代理店さんからご紹介をいただきます。

たとえば、看護師が多く集まる「看護フェア」のような展示会に出展したり、パートナーである代理店からの紹介で看護部を訪問したりすることもあります。また、この業界ならではですが、デジタル広告よりも郵送のDMがよく見られる傾向にあるため、そういったアナログな手法でリードを集めることもあります。

医療アパレル市場の未来と挑戦

── 医療アパレル市場の今後の成長性について、どう見ていますか?

大和 市場自体は、国内、海外問わず構造的かつ継続的に拡大する見通しです。国内では、少子化や高齢化により患者が増え、医療従事者の数が足りないため、国として医療従事者を増やしていく方針です。これにより、単純に医療人口が増えるという側面があります。

二つ目に、コロナ禍を経て感染予防の観点から、一人当たりのユニフォームを持つ枚数が増えているという流れがあります。

そして三つ目に、長年ファッショナブルなユニフォームが存在しなかった業界でしたが、ようやくその価値に気づき始めたという点です。これらの複合的な要因により、グローバルで市場は年率9%台で成長していくと予測されています。

── ジェラートピケなどとのコラボレーションもされていますが、今後もこうしたコラボは続ける方針ですか?

大和 継続する予定です。最近では「Scrub Canvas Club」(スクラブ キャンバス クラブ)という新しいスクラブラインで、ポケモンやブラック・ジャック、アニメのワンピース、パティシエのサダハルアオキさんなど、本当にさまざまなブランドやIPとご一緒しています。

弊社のミッションに共感していただき、ブランド同士の距離があることにより、コラボをすることで新しい価値を生み出すことができそうな方々とは、引き続き協業を進めていきます。ロンハーマンさんとのコラボは2015年から、ジェラート ピケさんとのコラボは2018年から継続しており、毎年好評で顧客も増え続けています。

── 医療業界以外でも着用されるケースがあるそうですね。

大和 一般の方もいらっしゃいますが、どちらかというと体を動かす仕事の方や、医療に隣接する領域、例えば整体・マッサージ師の方々、介護職の方など、あとは珍しいところでは保育士の方々にもスクラブが広まっています。

機能的で耐久性があり、動きやすいという点で評価いただいています。

「患者衣」はドラマで着用されることも

── これまでにぶつかった壁や最も難しかった出来事、時期があれば教えてください。

大和 創業期は、感度の高いお客様がほぼ口コミのみで広がり、自動的にお客様が増えていきましたが、そこから事業を拡大していく際に壁にぶつかりました。

医療業界は保守的な面もあり、「おしゃれな白衣などいらない」「見た目ではなく腕でしょう」といった意見を、特にベテランの医師から言われることがありました。若い医師が弊社の白衣を着ているとよく思われないこともあったというお声を聞いたこともありました。この「常識を変えていく」という点が非常に苦労しました。

しかし、初期の顧客の中には、技術や腕が優れていて、他の医師から尊敬されたり憧れられたりする、著名な医師が多くいらっしゃいました。

そういった方々が弊社の白衣を着用することで、「診療の質を高めるために、パフォーマンスを上げるために良いものを着るのは当たり前だ」という、アスリートがスポーツウェアを着るような感覚が広まっていきました。

これにより、誤解が解け、徐々に浸透していったのです。初期には「けしからん」といった声もありましたが、信頼できる医師の着用事例をコンテンツとして発信することで、それが当たり前へと変わっていきました。

── 今後の事業構想について教えてください。

大和 創業から医療従事者向けを中心に展開してきましたが、直近で大きく伸びているのが「患者衣」というカテゴリーです。入院時にレンタルされる、チェック柄のヨレヨレのパジャマのような患者衣は、多くの患者さんにとって不満の種であり、着用すると気持ちが落ち込むという声が多くありました。

そこで弊社は2020年、入院セットサービスを提供する株式会社エランと資本業務提携を結び、共同で理想の患者衣「lifte」(リフテ)を開発しました。色味や着心地が良く、病院全体が明るくなるようなデザインが非常に好評で、導入病院が急増しています。

最近ではドラマの入院シーンでも使われるなど、注目を集めています。これにより、医療従事者だけでなく、患者さんや検査・検診時の検査着など、提供領域が広がっています。

そして、最も成長の核となるのが、クラシコのグローバル展開です。メディカルアパレル市場はグローバルで見ると非常に大きく、医師も看護師もいない国・地域はありません。

また、アパレルは地域や国によってトレンドや嗜好性が異なりますが、メディカルアパレルはどこの国でも同じようなものを着用しているという共通性があります。東南アジアでもサウジアラビアでも、プライベートで着る服は違えど白衣やスクラブはほぼ同じようなものを着用しています。

この構造的に拡大する巨大市場において、これまでグローバルブランドが存在せず、ローカルの老舗企業が作業着として提供してきたという状況がありました。ユニフォームに共通して求められるのは機能性であり、その核となるのが素材です。

日本はポリエステルをはじめとする合繊素材において世界でも非常に強みを持っています。ユニクロさんが東レさんと組んで海外で評価されているように、国内の素材メーカーは世界的に高い評価を受けています。弊社もそうした素材メーカーと組み、糸から素材開発をしている点が海外でも高く評価されています。これが、弊社がグローバルで優位性を持つポイントとなっています。

IPO、グローバル展開、組織の未来

── 海外展開では、まずどういった地域を攻めたいといった戦略はありますか。

大和 はい、すでに現時点で14の国と地域で展開しており、中心は台湾、中国、東南アジア5ヵ国、そして中東6ヵ国(サウジアラビアなど)です。今年の11月以降には、アメリカ、カナダ、オーストラリアでの展開もスタートする予定です。

アジアを中心にしているのは、洋服である以上「サイズ問題」があるためです。デザインの嗜好性は共通していても、体型は国によって異なります。アジア圏であれば同じパターンで行けるという利点がありました。

アメリカ、カナダ、オーストラリア向けには、フィットするサイズのパターンを現在制作しており、それを持って展開を開始します。

── 今後の海外展開や事業・組織拡大において、M&Aや資金調達はどのように計画していますか?

大和 私たちはIPOをゴールではなく通過点と捉えています。資金調達だけでなく、グローバルブランドへと成長していくうえで欠かせないガバナンス・財務体制・人材基盤などの強化を目的に取り組んできました。

今後も、上場企業としての責任を果たしながら、より良い医療と社会の実現に貢献していきます。

── 人材については、どの職種を強化しているのですか?

大和 弊社は商品の企画から販売まで一貫して行っているため、職種は多岐にわたります。常にさまざまな職種を募集していますが、特に後の海外事業の成長を見据え、海外人材やグローバルで一緒に働いてくれる人材に注力していく考えです。

中途採用者のバックグラウンドも非常に多様です。アパレル業界出身者は商品企画メンバーなど一部で、教育業界やバスガイド、住宅会社出身者など、本当にさまざまな方が活躍しています。外国籍のメンバーも多く在籍しており、グローバルチームに限らず、職種を問わず多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍しています。

これは、弊社のミッションに共感して入社してくれる方が多いためだと感じています。私も最終面接は必ず一人ひとり行い、そういった方々に入社いただいています。

── 経営の厳しい病院が増えているというニュースも見聞きします。

大和 おっしゃる通り、いま、医療現場は非常に厳しい状況に置かれています。人手不足や長時間労働、心身への負担など、社会に欠かせない医療インフラそのものが継続の危機に直面しています。それでも、医療従事者の皆さんは日々、患者さんのために懸命に現場を支え続けています。

私たちは、そんな方々の力になりたいという想いから、「医療現場に、感性を。」というミッションを掲げています。白衣やスクラブは、単なる作業着ではなく、着る人の気持ちや誇り、生産性を支える大切な“働く人を支える服”だと考えています。デザインや機能性を通じて、少しでも医療現場の空気を前向きに変えられるよう、日々ものづくりに取り組んでいます。

これからも、日本発のグローバルナンバーワンブランドを目指し、医療に新しい価値と感性を届けていきます。

氏名
大和新(おおわ あらた)
社名
クラシコ株式会社
役職
代表取締役CEO