この記事は2025年12月5日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:高市政権の物価高対策は円安によって効果が薄れてしまうのか?」を一部編集し、転載したものです。
目次
高市政権の物価高対策は円安によって効果が薄れてしまうのか?
- 円安効果がガソリンの暫定税率廃止を相殺してしまうのでは?
- 政府は積極的な為替介入を行うべきなのでしょうか?
- 12月日銀会合で利上げの可能性が高まっていることについては?
- 子育て世帯に限った現金給付については?
以下は会田がコメンテーターとして出演している文化放送の「おはよう寺ちゃん」の内容の一部をまとめ、加筆・修正したものです。
円安効果がガソリンの暫定税率廃止を相殺してしまうのでは?
問(寺島):コメと並んで高騰が続いていたガソリン価格については、今月末で暫定税率が廃止され、それまでの移行措置として補助金が引き上げられる運びとなっています。しかし、暫定税率が廃止されても、単純に1リットル25.1円下がるわけではありません。税金や補助金と仕入れコストとは別なので、原油の仕入れ値を安くするため、円安を是正しないと根本的な解決にはならないとの声があります。円安が進めば、輸入価格が上がってしまう可能性があります。となると、多額の予算を使っても、効果が薄まってしまうとの見方についてはどうでしょうか?
答(会田):円相場とインフレ率の関係は、誤解があるようです。ドル・円は何円と水準で語られます。一方、インフレ率は前年比何%と変化で語られます。150円台のドル・円が継続すると、3%程度のインフレ率が持続してしまうという誤解です。昨年のドル・円の平均は152円程度でした。現在の水準と大きな変化はありません。この水準が続けば、円相場のインフレ率への影響は徐々に0%に向けて小さくなっていきます。しかし、物価水準は上がってしまっていますので、今回の経済対策の効果で、合計で1%程度、物価水準を押し下げることになります。
政府は積極的な為替介入を行うべきなのでしょうか?
問(寺島):政府が21兆円を超える大規模な経済対策を決定して、積極財政路線を鮮明にさせる中、外国為替市場では円安基調が続いています。片山さつき財務大臣は、為替介入は選択肢として「当然考えられる」と市場をけん制しました。円安の副作用を軽減するために政府は積極的な為替介入を行うべきなのでしょうか?
答(会田):これまで財務省は為替介入に消極的でした。日本の財政事情は極めて深刻にもかかわらず、膨大な外貨準備があるから、マーケットは安定しているという誤解があったからです。外貨準備を減少させるドル売り・円買い為替介入は、両刃の剣になります。しかし、高市政権は財政事情が深刻であると考えていません。必要となれば、為替介入を積極的にするとみられます。外貨準備の実現益は、政府の成長投資の原資にするかもしれません。
12月日銀会合で利上げの可能性が高まっていることについては?
問(寺島):一方、日銀が今月18〜19日に金融政策決定会合を開きます。植田総裁はこの会合で追加利上げする可能性を示唆しました。高市総理は追加利上げに慎重とみられますが、利上げをしてしまうと、政府が景気浮揚に向けアクセルを踏む中で、日銀がブレーキをかけることになってしまうのでしょうか?
答(会田):高市政権下でも、来年1月までの日銀の1回の利上げは規定路線です。この利上げ期待を消してしまえば、ドル・円が円安に大きく振れ、積極財政がやりにくくなるからです。利上げが12月なのか、1月なのかは、日銀が行儀が良いのかどうかで決まります。高市首相は植田日銀総裁の前で、「今後の「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」の両立の実現に向けて、適切な金融政策運営が行われることは非常に重要である」と発言し、日銀に事実上のデュアル・マンデート、二つの目的を課しています。臨時国会の終盤で、経済対策の補正予算が国会を通過した直後に、景気を下押しする利上げを、日銀が12月の金融政策決定会合で決定することは常識的ではありません。政府の経済政策の物価高対応と整合的に、利上げによって物価安定を図るというのが日銀の論理とみられますが、利上げで景気を下押して物価を押し下げることは政府の経済政策の基本方針と整合的ではありません。1月の支店長会議で政府が懸念している地方経済の状況を確認し、展望レポートで、政府の経済政策の効果を検証して、2026年度の実質GDP成長率の見通しを1%程度まで引き上げ、利上げを決定するのが行儀が良い対応です。
リスクシナリオとして、1月の通常国会冒頭の衆議院解散によって利上げが遅れることを恐れて、日銀が12月に駆け込みで利上げを強行することです。政府は日銀との連携に疑問を持ち、来年4月と6月の政策委員会審議員の人事では、利上げに慎重な候補が任命されることになるとみられます。12月の米国のFRBの利下げ期待で、円安を抑える力が既にあります。12月にタカ派的な政策の現状維持となることで来年1月までの日銀の利上げの意識が続き、円安を抑える力を継続させるのが通常の判断です。12月に円安抑制の弾薬を一気に使ってしまうと、1月の日銀の連続利上げは想定できないため、年末・年始の流動性が細るところで、円安の勢いが増すリスクとなります。その場合、積極的な為替介入で対応することになるでしょう。12月に利上げをして、円安対応の為替介入をしやすくすると考えることもできます。または、現在編成過程にある2026年度の政府予算で、成長投資の戦略分野を中心に増額を目指す試みに対して、政府内で反対する向きが、日銀の12月の利上げの実施を容認することによって、増額を阻止しようとしている動きもあるかもしれません。12月にFRBが利下げをしなければ、円安の勢いを抑えるため、12月に日銀が利上げをする可能性が高まります。植田日銀総裁の「利上げの是非について適切に判断したい」との発言は、そのリスクシナリオに対する備えでもあると考えられます。
子育て世帯に限った現金給付については?
問(寺島):高市政権は物価高対策として、18歳以下の子どもを持つ家庭への2万円給付も掲げています。1人2万円、所得制限は設けられない方針です。例えば、該当する年齢の子どもが3人いる家庭は6万円を受け取ることができます。ただ、子どもが多い家庭は高所得者層が多いという調査もあることから、金持ち優遇との声もあります。子育て世帯に限って給付することについてはどうみていますか?
答(会田):財務省は、当初、一般会計歳出で14兆円程度の経済対策を計画していました。しかし、家計支援を充実したい高市首相の思いもあり、17兆円程度まで増額されました。当初から財務省が計画的に家計支援の支出の案を練っていれば、いろいろな政策が打てたと考えられます。しかし、急遽増額することになると、実効性としては、こども手当を増額することで、食費のかかる子育て世代を支援することになったと言えます。当初に予算を渋ると、政策の発動余地を狭めてしまう例だと思われます。
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