この記事は2025年12月10日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:日本経済見通しのメインポイント(経済)」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)

目次

  1. シンカー
    1. 米国:労働市場を重視しFRB新体制は「やや引き締め的」な金融環境の緩和を目指す
  2. 日本経済見通しのメインポイント(経済)

シンカー

米国:労働市場を重視しFRB新体制は「やや引き締め的」な金融環境の緩和を目指す

雇用環境の悪化が緩やかながらも続いていることで、FRBの利下げは12月会合含め、継続されることが見込まれる。雇用需要を表す求人件数はここ1年間横ばいで推移しながらも、労働者の転職意欲を示す自発的離職率は低下が続いている。

2023年の地銀ショック以外では金融システムに目立った緊張は生まれていないものの、やや引き締め的(modestly restrictive)な状況が続いていることはプラスが続いている実質政策金利や銀行の融資基準からも把握でき、経済活動や労働市場には抑制的な状況が当面は維持されることが分かる。

失業率は過去との比較で低水準ではありながらも、モメンタムは明確に鈍化基調が続いている。7月に成立した財政法案は短期的な景気浮揚効果は限定的だと思われ、追加的に家計への2,000ドル給付案が出されているものの、成立は不透明である。

政権として他に残された手段はFRBの利下げとなる。停滞している製造業や住宅、不動産などへの梃入れに、トランプ政権は利下げを求め続けていくことが見込まれる。次期FRB議長の有力候補とされるケビン・ハセット氏は利下げ余地が依然大きいことを指摘している通り、「やや引き締め的」な金融環境の緩和を目指すだろう。(松本賢)

日本経済見通しのメインポイント(経済)

① 異常であるプラスの企業貯蓄率が示す構造的なデフレ圧力が残っているため、内需はまだ弱い。トランプ関税によるグローバルな景気減速の下押し圧力を受ける。輸入物価の押し上げの影響の剥落とまだ弱い内需によって、物価上昇率は一時的に減速する。物価減速による実質賃金の上昇が、内需を徐々に拡大させる力となる。

図1:企業貯蓄率と消費者物価

図1:企業貯蓄率と消費者物価
(出所:総務省、日銀、内閣府、クレディ・アグリコル証券)

② 積極財政と緩和的な金融政策の継続によるリフレの力が、名目GDPを大きく拡大させてきた。日銀のこれまでの拙速な利上げに加え、トランプ関税によるグローバルな景気減速で、名目GDPの拡大は一時的に減速する。

図2:名目GDP

名目GDP
(出所:内閣府、クレディ・アグリコル証券)

③ ネットの国内資金需要(企業貯蓄率+財政収支)が回復し、リフレの力で、名目GDPを拡大させた。高市政権の官民連携の成長投資と需要の拡大による積極財政の推進による内需の回復と、グローバルな循環的景気回復が見込まれる。企業の支出の増加によって、企業貯蓄率が低下を始め、積極財政の動きと合わせ、消滅してしまっているネットの資金需要が再回復し、構造的デフレ不況の完全脱却に向かうリフレの力になる。

図3:ネットの資金需要

ネットの資金需要
(画像=出所:日銀、内閣府、クレディ・アグリコル証券)

④ 設備投資サイクルの上振れが企業貯蓄率を正常なマイナスに戻す力となる。企業貯蓄率の低下が設備投資サイクルに追い付いていく局面で、実質賃金の上昇が強くなる。経済・政策・企業・マーケットの重点が外需から内需にシフトする。

図4:設備投資サイクル

設備投資サイクル

図5:日本経済見通し

日本経済見通し
CACIB
(出所:日銀、内閣府、総務省、Bloomberg、クレディ・アグリコル証券)

図6:米国自発的離職率と失業率

図6:米国自発的離職率と失業率
(出所:BLS、NBER、クレディ・アグリコル証券)

図7:米国銀行融資担当者調査(SLOOS)融資基準と失業率

図7:米国銀行融資担当者調査(SLOOS)融資基準と失業率
(出所:FRB、BLS、NBER、クレディ・アグリコル証券)

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

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