この記事は2025年9月11日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:日本経済見通しのメインポイント(政策)」を一部編集し、転載したものです。
シンカー
米国:K字型経済で「中立金利」は押し下げられる
12月FOMCでは、3会合連続となる25bpの政策金利引き下げが決定された(FF金利誘導目標3.50%-3.75%)。前会合と同様、マイラン理事が50bpの利下げ、カンザスシティー連銀シュミッド総裁が据え置きの主張で反対票を投じたのに加え、今回はシカゴ連銀グールスビー総裁も据え置きを主張し反対した。また、今回、準備預金の流動性を保つため短期国債の購入でバランスシートを拡大させていく方針を示した。四半期に一度の経済見通しサマリー(SEP)では、実質GDPの見通し中央値が各年で上方にシフトした。
失業率の見通しは概ね変化なく、今年の4.5%がピークで、以降は低下していく見通しである。FF金利は中立金利に近づいているとの判断の下、2026年は25bpのみの利下げで、その先もロンガーラン金利3.0%に向け僅かに引き下げる見通しとなっている。声明文とパウエル議長の記者会見でも、想定される中立金利のレンジの上限に今回の利下げで到達したとの判断の下、今後の利下げはデータ次第でより慎重になる考えが示された。雇用環境の悪化への対応でロンガーラン金利を下回る水準にまで利下げを行う考えを示しているメンバーは現時点で少数である。パウエル議長は、インフレ高止まりと雇用悪化のリスク度合いは足元で概ねバランスしているとの認識を従前通り示した。
しかし、パウエル議長も指摘するように関税引き上げの価格転嫁が長引くリスクは低いことや、住居賃料はじめサービス価格も鈍化が続くことが見込まれる一方で、労働市場は各種指標を踏まえても改善の傾向はみられない。失業率の水準や失業保険申請件数の水準が低くとも、労働需要が減退基調であることは変わらない。関税の影響がこれから顕在化するのであれば、なおさら雇用には下押し圧力となりかねない。
こうした点を踏まえるとインフレと雇用のリスク度合いはバランスしておらず、景気刺激の即効性はなくとも金利の引下げ余地はまだ残されていると考えられる。仮に関税の価格転嫁が今後進んだ際に、企業の利益マージンが維持されることで雇用にはプラスであると解釈せず、引締め方向で対応すれば雇用需要はさらに下押しされる。
また、家計・産業の二極化を意味する「K字型経済」の影響の判断は現時点で難しいとパウエル議長は述べたものの、基調的には消費や成長率のトレンドが押し下げられるため、政策金利のトレンド(「中立金利」)も低くなることは過去に示されている。来年にFRBのハト派色が強まることも踏まえ、足元の市場の利下げ織り込みが大きく修正される見込みは低いと引き続き考える。(松本賢)
日本経済見通しのメインポイント(政策)
① 2026年以降のグローバルな循環的景気回復の局面と高市政権の官民連携の成長投資と需要の拡大による内需拡大で、設備投資サイクルの上昇が牽引役となり企業貯蓄率は低下。物価上昇率は景気停滞による減速の後、2%の物価目標に向かって再拡大。2027年には、設備投資サイクルの上振れと実質賃金の上昇による内需の強い拡大。2028年には企業貯蓄率は正常なマイナスに戻り、構造的デフレ圧力を払拭し、構造的デフレ不況を完全に脱却する。
図1:日銀とCACIBのGDP、CPI見通し
② 2026年初までの1回の利上げの後、高市政権の高圧経済の方針の下、利上げは1年間止まる。中立金利に向けた利上げの本格的サイクルに入れるのは、内需の回復がしっかりする2027年からとなる。2%の物価目標に向けた物価上昇率の再拡大で、ゼロ%程度の実質金利に合わせた利上げを継続。実質金利ゼロの維持が、経済活動を促進。2028年には政策金利は2%強となり、実質政策金利は物価目標対比でマイナスを脱する。
② 2026年初までの1回の利上げの後、高市政権の高圧経済の方針の下、利上げは1年間止まる。中立金利に向けた利上げの本格的サイクルに入れるのは、内需の回復がしっかりする2027年からとなる。2%の物価目標に向けた物価上昇率の再拡大で、ゼロ%程度の実質金利に合わせた利上げを継続。実質金利ゼロの維持が、経済活動を促進。2028年には政策金利は2%強となり、実質政策金利は物価目標対比でマイナスを脱する。
図2:日銀の政策金利
③ ネットの国内資金需要(企業貯蓄率+財政収支)が回復し、リフレの力で、名目GDPを拡大させた。高市政権の官民連携の成長投資と需要の拡大策による積極財政での内需の回復と、グローバルな循環的景気回復が見込まれる。企業の支出の増加によって、企業貯蓄率が低下を始め、積極財政の動きと合わせ、消滅してしまっているネットの資金需要が再回復し、構造的デフレ不況の完全脱却に向かうリフレの力になる。
図3:政府の経済政策の方針
④ トランプ関税によるグローバルな景気減速の下、金融・財政政策の後押しが不十分で、信用サイクルが腰折れれば、内需の鈍化で企業貯蓄率は上昇し、構造的デフレ不況に戻るリスクに。日銀の拙速な利上げによって、雇用・賃金・消費を含む内需の回復が遅れ、コアコア消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)の前年同月比は1%台前半まで減速する。政府の経済対策と、物価上昇率の減速が実質賃金を上昇させることで、2026年以降の内需の回復が促進される。
図4:信用サイクルと失業率
図5:日本経済見通し
図6:米国銀行融資担当者調査(SLOOS)融資基準と失業率
図7:米国自発的離職率と失業率
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