2024年「マンション評価見直し」の背景と現在地
2024年1月、マンションの相続税評価額について新たな計算ルール(区分所有補正率)が導入されました。これは、市場価格(時価)と相続税評価額との間に生じていた大きな乖離を是正し、納税者間の公平性を確保するための措置でした。
あれから約2年。この「評価の適正化」に向けた議論は、タワーマンション等の区分所有物件にとどまらず、より広範な不動産へと広がりを見せています。
2025年11月13日、政府税制調査会の専門家会合において、国税庁より『財産評価を巡る諸問題』と題する資料が提出されました。
資料には、現在の資産評価における課題と、今後の制度設計における重要な論点が示されています。 どのような視点で「評価の適正化」を進めようとしているのか、その内容を読み解きます。
11月13日の資料で示された、是正が検討される「3つの論点」
今回の資料において、市場価格と相続税評価額との乖離が依然として大きく、租税負担の公平性の観点から看過しがたい事例として、主に以下の3点が取り上げられました。
論点1:一棟賃貸マンション・ビルの評価乖離
1つ目は、一棟所有の賃貸不動産です。 資料では、「多額の借入金により、市場価格に近い価格で賃貸物件を取得し、相続税評価額との差額を利用して相続税負担を大幅に圧縮している事例」が紹介されました(例:借入22億円で物件取得、評価額は5億円等)。 特に、多額の借入金と組み合わせ、相続開始の直前に物件を取得するなど、経済実態に比して著しく税負担が低くなるケースについては、他の納税者との公平性を保つ観点から、是正の必要性が議論されています。
論点2:小規模宅地等の特例(貸付事業用)の適用要件
2つ目は、「小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)」です。 本来、事業の継続性を配慮して設けられた制度ですが、相続直前に現金を不動産に換え、形式的に貸付事業を開始して特例の適用(評価額50%減)を受ける事例が散見されるとの指摘があります。 これに対し、事業としての実態をより厳格に問う方向や、保有期間などの要件を見直すべきではないかという論点が浮上しています。
論点3:不動産小口化商品の評価方法
3つ目は、近年普及が進む「不動産小口化商品」です。 資料には、「3,000万円で購入した商品が、相続時には480万円(約84%減)の評価額となる」といった具体的な数値が示されました。小口化商品は不動産としての実体を持つものの、投資家にとっては金融商品に近い側面もあることから、実勢価格との乖離が特に大きいものについては、その評価方法のあり方が問われています。参考:【デ4-3】国税庁説明資料(財産評価を巡る諸問題)|第4回 経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合(2025年11月13日)資料一覧|税制調査会 - 内閣府
「総則6項」の個別適用から、予見可能な「ルール化」へ
これまで、著しい評価乖離が見られる事案に対しては、「財産評価基本通達総則6項」という例外規定を用いて、国税当局が個別に適正な評価(時価評価等)を行ってきました。 しかし、今回の資料からは、個別の対応にとどまるのではなく、タワマン税制と同様に「一定のルール(客観的な計算式や期間要件)」を設けることで、評価の適正化を図ろうとする意図が読み取れます。
これは、納税者側から見れば「予見可能性が高まる」ことを意味します。「後から否認されるかもしれない」という不安定な状態よりも、明確なルールの下で適正な申告が行える環境整備が進められていると解釈できます。 具体的には、海外(ドイツ等)の事例を参考に、「取得後一定期間(たとえば3年等)以内の相続については、取得価額(時価)で評価する」といった制度の導入が検討の俎上に載っています。
12月20日前後の「税制改正大綱」が試金石に
これらの方針が、具体的な制度としていつ具現化されるのか。その試金石となるのが、例年12月中旬から20日頃に発表される「税制改正大綱」です。もし今回の大綱に、これらの不動産評価見直しに関する具体的な記述が盛り込まれれば、2026年度以降、制度変更が現実のものとなる可能性は高まります。
投資家の皆様におかれましては、「資産評価の適正化」という時代の潮流を正しく理解することが重要です。単なる節税効果のみを追求するのではなく、資産そのものの収益性や価値維持に重きを置いた、本質的な資産管理への転換が求められているといえるでしょう。
次回の記事では、発表されたばかりの「令和8年度税制改正大綱」の内容を確認し、不動産評価に関する記述について詳報します。
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