この記事は2025年12月17日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:3段階の国債格上げに相当する財政状況の改善は早すぎ」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)

目次

  1. シンカー
    1. 米国:2026年も利下げ期待が後退する可能性は低い
  2. 3段階の国債格上げに相当する財政状況の改善は早すぎ

シンカー

米国:2026年も利下げ期待が後退する可能性は低い

公表が遅れていた米国の10月と11月分の雇用統計は、雇用者数では10月が前月比-10.5万人、11月が同+6.4万人、8月と9月は合計3.3万人下方修正された。減少分の多くは削減が続く連邦政府職員で、民間に限ればそれぞれ+5.2万人、+6.9万人だった。10月から11月にかけて続いた政府機関閉鎖の詳細の影響については不透明であるとBLSは説明した。

事業所調査は、毎月12日を含む期間に勤務もしくは賃金が支払われれば雇用者として計上される。失業率は4.6%と、9月4.4%から悪化した(10月は未公表)。雇用の減速は続くなか、10月のコア小売売上高(自動車・ガソリン・外食・建設資材除く)は前月比+0.8と消費の強い伸びを示した。雇用が悪くも成長率は堅調、の乖離は失業率ギャップと需給ギャップでもみられる。

今回の雇用統計で失業率はインフレに中立とされるCBO試算の自然失業率(NAIRU、4.4%)や、12月FOMCで示された2025年見通し中央値(4.5%)を上回った。AIの普及で構造的に労働需要が減少し、NAIRUが上昇する可能性をFRBのパウエル議長は12月FOMCでも指摘した。NAIRUが上昇していれば失業率上昇の「許容度」が広がるため、雇用対策としての利下げは大幅に行う必要はない、との判断に繋がるものの、雇用減少が起きている業種の裾野は広く、労働需要の減退はAIの影響以外にもあるとみるべきだろう。

成長率は堅調でインフレ率が目標を上回っていても、足元の雇用需要減退はインフレ圧力低下の意味でも利下げを続けるうえで十分な根拠となる。1%までの利下げを求めるトランプ大統領が指名するFRB新議長の下、2026年も利下げ期待が後退する可能性は低いだろう。(松本賢)

3段階の国債格上げに相当する財政状況の改善は早すぎ

  • 日銀資金循環統計では、2025年7-9月期の企業の貯蓄率(GDP%、4QMA)は+3.2%となった。高市政権は、企業を異常な貯蓄超過(プラスの貯蓄率)から正常な投資超過(マイナスの貯蓄率)に回復させ、日本経済をコストカット型から投資・成長型に移行させるマクロ戦略をとっている。企業の貯蓄率は、2023年7-9月期から+4%前後で硬直していて、企業の国内支出は十分に増えていない。2024年3月の日銀のマイナス金利政策の解除からの拙速な利上げで、企業が国内投資を抑制してしまっている結果とみられる。日銀は12月に再利上げをする見込みのようだが、企業の国内支出を減退させることがあってはならない。政府は、日銀に対して、強い経済成長と物価安定のデュアルマンデートを課している。1年間は利上げを休止することで、政府の経済の基本方針と整合的な金融政策運営を心掛け、企業の貯蓄率の低下を目指していくことになるだろう。

  • 石破前政権の緊縮路線がデータに表れている。7-9月期の財政収支は-0.5%と、財政赤字がほとんどなくなっている。経済規模の拡大と税収の増加に対して、デフレ型の歳出キャップを続けている結果だ。一方、家計の貯蓄率は2%前後の史上最低水準に低下して困窮している。明らかに政府が税収を取り過ぎて、内需が拡大できない形になっている。7-9月期の政府の純負債残高GDP比(負債-金融資産)は74.8%と、2020年10-12月期のピークの129.5%から大きく改善している。過去の格付けとの相関関係を見れば、既に3段階の格上げに相当するほどに、財政状況はあまりに早すぎる改善をしてしまっている。2026年度の政府の一般会計予算の歳出は120兆円台との報道があり、名目GDP比では18.4%(120.9兆円の場合)となる。2025年度の当初予算は18.3%と変化はない。6月の石破政権による緊縮的な骨太の方針の影響を2026年度の予算編成が強く受けている結果だ


日銀資金循環統計では、2025年7-9月期の企業の貯蓄率(GDP%、4QMA)は+3.2%となった。高市政権は、企業を異常な貯蓄超過(プラスの貯蓄率)から正常な投資超過(マイナスの貯蓄率)に回復させ、日本経済をコストカット型から投資・成長型に移行させるマクロ戦略をとっている。企業の貯蓄率は、2023年7-9月期から+4%前後で硬直していて、企業の国内支出は十分に増えていない。2024年3月の日銀のマイナス金利政策の解除からの拙速な利上げで、企業が国内投資を抑制してしまっている結果とみられる。日銀は12月に再利上げをする見込みのようだが、企業の国内支出を減退させることがあってはならない。政府は、日銀に対して、強い経済成長と物価安定のデュアルマンデートを課している。1年間は利上げを休止することで、政府の経済の基本方針と整合的な金融政策運営を心掛け、企業の貯蓄率の低下を目指していくことになるだろう。

石破前政権の緊縮路線がデータに表れている。7-9月期の財政収支は-0.5%と、財政赤字がほとんどなくなっている。経済規模の拡大と税収の増加に対して、デフレ型の歳出キャップを続けている結果だ。一方、家計の貯蓄率は2%前後の史上最低水準に低下して困窮している。明らかに政府が税収を取り過ぎて、内需が拡大できない形になっている。7-9月期の政府の純負債残高GDP比(負債-金融資産)は74.8%と、2020年10-12月期のピークの129.5%から大きく改善している。過去の格付けとの相関関係を見れば、既に3段階の格上げに相当するほどに、財政状況はあまりに早い改善をしてしまっている。2026年度の政府の一般会計予算の歳出は120兆円台との報道があり、名目GDP比では18.4%(120.9兆円の場合)となる。2025年度の当初予算は18.3%と変化はない。6月の石破政権による緊縮的な骨太の方針の影響を2026年度の予算編成が強く受けている結果だ。

企業と政府の合わせた支出をする力であるネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支、GDP%、4QMA、マイナスが強い)が、経済が膨らむ力と家計へ所得を回す力となる。7-9月期のネットの資金需要は+2.7%と、まだ消滅した状態が続いてしまっている。高市政権が目指す経済グランドデザインは、企業と政府の支出する力を十分に強くして、家計に所得が回る力を強くすることだ。官民連携の戦略投資が不十分で、企業と政府の支出する力であるネットの資金需要が消滅し続け、財政黒字が拡大する中で、家計の貯蓄率が低下する家計貧困化のこれまでの経済グランドデザインから脱却すべきだ。戦略投資のダイナミックスコアリングの結果を反映する中長期の財政試算では、官民連携の戦略投資でネットの資金需要を十分なマイナスとして、家計の所得と貯蓄率が上昇する強い経済のグランドデザインとすべきだ。来年の通常国会で3月末に政府予算が国会を通過した後、戦略投資を中心とする経済対策が実施され、石破予算を高市予算に変えることになるとみられる。

図1:ネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)

ネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)=企業と政府の支出する力
(出所:日銀、内閣府、クレディ・アグリコル証券)

図2:政府の純負債残高GDP比

政府の純負債残高GDP比
(出所:日銀、内閣府、クレディ・アグリコル証券)

図3:米国失業率ギャップ、需給ギャップ、実質FF金利

米国失業率ギャップ、需給ギャップ、実質FF金利
(出所:BLS、BEA、NBER、クレディ・アグリコル証券)

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

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