この記事は2026年9月11日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「量と質の両面で就労状況の改善が求められる高齢者雇用」を一部編集し、転載したものです。
(韓国経済人協会「2023年中長年求職活動実態調査」ほか)
韓国では、2013年に「雇用上の年齢差別禁止及び高齢者雇用促進に関する法律」が改正され、労働者の定年を60歳以上とすることが義務付けられた。改正法は16年から従業員300人以上の事業所や公共機関に、17年からはすべての事業所等に適用された。急速な高齢化が進む韓国において、定年延長は高齢者の雇用安定と所得確保を図る重要な制度改革だった。
しかし、法定定年が60歳以上となっても、多くの労働者が60歳まで主たる職場で働いているわけではない。韓国経済人協会が23年に実施した調査では、主たる職場の平均退職年齢は50.5歳で、50歳未満で退職した人が45.9%を占める一方、60歳以上まで働いた人は7.8%に過ぎなかった。また、勧告退職や名誉退職、整理解雇などによる非自発的退職も56.5%に達しており、法定定年と実際の退職年齢との間には依然として大きな乖離がある。
主たる職場を早期に離れた中高年層の多くは、その後も再就職や自営業などで働き続けている。実際、韓国の自営業者の割合は23年時点で23.2%であり、OECD(経済協力開発機構)平均である16.6%を大きく上回っている。韓国の平均実効引退年齢も22年時点で男性65.4歳、女性67.4歳であり、OECD平均である男性64.4歳、女性63.1歳を上回る。これは、公的年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられ、33年には65歳となったことも影響している。
一方で、65歳超の高齢者の相対的所得貧困率が22年時点で39.7%であり、OECD平均の14.8%よりはるかに高い。背景には、公的年金の給付水準が十分でない高齢者が多いことに加え、早期退職後に低賃金で、不安定雇用環境の職場に移行するケースが少なくないこともある。
以上を踏まえると、韓国の定年延長政策は、法定定年を60歳から65歳へ一律に引き上げるだけでは十分とはいえない。まずは50歳前後で主たる職場を離れる早期退職慣行を改善し、実質的な雇用期間を延ばす必要がある。その上で、定年延長や定年制の廃止、継続雇用など複数の選択肢から企業が実情に応じて選べる雇用延長制度を検討することが望ましい。また、60歳、63歳、65歳と段階的に定年を引き上げる「段階的定年制」や、労働者が退職時期を選択できる「選択的定年制」など、多様な仕組みも考えられる。
中高年労働者の再就職については、就業機会の「質」を高めることも重要だ。例えば、経験や専門性を生かせる職務開発や職業訓練、リスキリング(職業能力の再教育)、転職支援を強化する必要がある。同時に、公的年金の支給開始年齢と雇用が保障される年齢との間の所得空白を埋め、年金制度と雇用政策の整合性を取ることが求められる。高齢者と若年者が勤務時間や業務を分担する「ペア就業」など、高齢者の雇用延長が若年層の雇用機会を圧迫せず、世代間で雇用機会を補完できる仕組みの構築も不可欠だろう。
ニッセイ基礎研究所 上席研究員 亜細亜大学 都市創造学部 特任准教授/金 明中
週刊金融財政事情 2026年9月15日号