この記事は2026年9月11日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「欧州熱波は食品価格を通じてインフレ圧力に」を一部編集し、転載したものです。


欧州熱波は食品価格を通じてインフレ圧力に
(画像=Oleh/stock.adobe.com)

記録的な高温と干ばつが欧州の広域を襲った。その結果、幅広い分野の経済活動に大きな影響を及ぼしている。

エネルギー面では、河川水位の低下と水温の上昇により、フランスやハンガリー、ルーマニアで原子力発電所の停止や出力抑制が実施された。一方、冷房使用量の増大に伴ってエネルギー需要が高まり、天然ガス貯蔵量がこの時期としては過去10年で最低水準となった。冬場のエネルギー不足も懸念され始めている。

産業面でも、ドイツにおいてライン川の水位低下により大型船舶の航行に支障が生じている。そのため、物流網を河川に依存する沿岸の重化学工業では、サプライチェーンに混乱が生じている。

こうした中で特に懸念されているのが、農業を中心とする食料生産への影響だ。欧州穀物・油糧作物輸出入組合(COCERAL)の推計によれば、高温と干ばつにより、大麦や小麦、トウモロコシ、オート麦の収穫量は計900万トン下振れ、2億8,660万トンとなる見通しである。これは、2018年以降では最低水準となり、食料需給の逼迫が意識されている。実際、欧州市場における小麦やトウモロコシの先物価格は7月以降に上昇ペースを速めており、足元では前年比で3~5割程度高い水準となっている(図表)。

熱波が食品価格に与える影響は無視できない。欧州中央銀行(ECB)の試算によれば、22年に発生した熱波はユーロ圏の食品インフレ率を0.7ポイント押し上げたとされる。COCERALによる今年の穀物収穫量予想は当時の実績を2%近く下回っているため、食品価格への影響は22年を上回り、1.0ポイントに達することも想定される。

この影響は、加工・流通過程を通じて徐々に商品価格に波及し、10月ごろから顕在化するだろう。食品の消費者物価指数(CPI)に占めるウェイトを踏まえれば、CPI全体に対しても0.2ポイント程度の押し上げになると見込まれる。これは、2%物価目標との対比では1割に相当する無視できないインフレ圧力となり、ECBの新たな悩みの種となるかもしれない。

足元では中東情勢の影響による原油高でさらにインフレ圧力が高まり、直近8月のCPIは前年比で3.3%上昇した。ただし、中東情勢が一段と悪化しない限り、原油高に伴う追加的なインフレ圧力は限定的とみられる。

一方で、原油価格が落ち着いても、ECBはなかなか利下げの再開に踏み切れない展開になる可能性が残る。異常気象の頻度や強度が高まるなか、気候変動リスクが欧州のインフレと金融政策を左右する構造的なリスク要因の一つとして定着しつつあるからだ。

欧州熱波は食品価格を通じてインフレ圧力に
(画像=きんざいOnline)

明治安田総合研究所 経済調査部 主任エコノミスト/森田 幸大
週刊金融財政事情 2026年9月15日号