日本の事業承継問題が深刻化するなか、M&A仲介業界は「量」の拡大から「質」と誠実さが問われる大きな転換期を迎えている。
2021年に創業したM&Aロイヤルアドバイザリー株式会社の橋場涼代表取締役社長は、現在の業界をクオリティと高い倫理観が求められる「第三世代」と定義する。同社はプロセスの完全分業化や、上司が育成に専念できるインセンティブ構造の改革を通じ、属人性に頼らない高品質なアドバイザリー体制を構築してきた。
さらに、金融・税務の専門家を内包し、上場・未上場を問わず、企業の成長や資本戦略を支える高度な投資銀行サービスの提供を推進している。
業界の歪みを正し、誠実な伴走者として日本経済の活性化に挑む同氏の経営哲学に迫った。
企業サイト:https://ma-la.co.jp/
目次
M&A仲介業界における「第三世代」の到来と設立の背景
── 銀行員、大手M&A仲介会社を経て独立したそうですが、創業の経緯と、現在の事業内容について教えてください。
橋場氏(以下、敬称略) 当社は2021年11月に設立し、現在は5期目を迎えるM&A仲介会社です。創業以来、一貫してM&A仲介業務に専念してきました。
私が独立を決意した背景には、M&A仲介業界の変遷と、そこから生じた課題感があります。
私は現在のM&A仲介業界を「第三世代」のフェーズにあるととらえています。第一世代は、約35年前に創業した日本M&Aセンター様や、その後に続いたストライク様、M&Aキャピタルパートナーズ様といった先駆者たちです。彼らはM&Aという手法を日本社会に浸透させた、いわば草分け的な存在です。
── 第一世代が市場を切り拓き、その後に第二世代が登場したのですね。
橋場 そのとおりです。第二世代の代表格は、約8年前に登場したM&A総合研究所様などです。ITを駆使した効率化やAIの導入により、業界のドメスティックな部分を刷新しました。この時期、投資家は「コンサルタント数×一人当たり売上高」を重要視し、業界全体で採用が急加速しました。
一方で、業界全体で採用が急拡大するなか、人材育成や品質管理が組織の成長スピードに追いつかないケースも見られるようになりました。M&Aは、税務・財務・法務に関する専門知識に加え、経営者の想いに寄り添う姿勢や高い倫理観が求められる仕事です。だからこそ、担当者の経験や知識、支援品質にばらつきが生じないよう、教育体制と組織的な品質管理を整えることが、業界全体の重要な課題になったと考えています。
── 業界全体で「量」から「質」への転換が求められるようになったということでしょうか。
橋場 まさにそうです。数年前には、不適切な買い手による買収後の資金抜き取りといった深刻な事件も発生しました。こうした事態を受け、中小企業庁をはじめとする公的機関もコンプライアンスやガバナンスの強化を強く求めるようになりました。
この「クオリティと誠実さ」が最優先される時代が、私の定義する第三世代です。当社はこの第三世代の旗手として、高い専門性と倫理観を持ち、オーナーの皆様に真に寄り添うサービスを提供するために設立しました。社名の「ロイヤル」には、誠実さや忠誠を尽くすという意味の「Loyal」を込めています。
高い専門性を維持するための「分業制」と「組織力」の強み
── 業界の課題を解決するために、どのような体制を構築しているのですか。
橋場 当社の最大の特徴は、プロセスの分業化による品質の均一化と再現性の確保です。一般的なM&A仲介会社では、一人のコンサルタントが営業からマッチング、契約交渉までを一気通貫で行います。
しかし、これでは個人の能力に依存する属人性が高まり、サービスの質にバラつきが生じます。
当社では、各フェーズに専門部隊を配置しています。たとえば、買い手企業を探すマッチングフェーズでは提携支援部という約20人の専門部署が動きます。彼らは日々、全国の買い手候補と面談し、最新のニーズを把握しています。
── 個人のネットワークに頼らず、組織として最適なマッチングを実現する仕組みですね。
橋場 そのとおりです。案件が発生した際、必ず提携支援部に相談するルールを設けています。これにより、業種やエリアを問わず、最適な候補先を迅速にリストアップすることが可能です。また、成約までのプロセスを支える「コーポレートアドバイザリー部」の存在も欠かせません。
この部署には、公認会計士や税理士といった専門家が在籍しています。M&Aの過程で行われる買収監査(デューデリジェンス)は、膨大な資料と数百件に及ぶ質疑応答を伴う過酷な作業です。オーナー様にとって、これらを一人でこなすことはたいへんな負担となります。
── 専門家が直接サポートすることで、オーナーの負担は大幅に軽減されるのでしょうか。
橋場 はい。当社の専門家がオーナーの皆様と買い手側の専門家の間に立ち、質問の意図を噛み砕いて説明し、回答の作成を全面的に支援します。これにより、買い手側が求める正確な情報をタイムリーに提供でき、ストレスのない円滑な進行を実現します。
こうした専門人材を外部委託ではなく、正社員として雇用している点も当社のこだわりです。社内にノウハウを蓄積し、いつでも迅速に相談できる環境を整えることが、最終的にお客様への利益還元につながると確信しています。
また、機密情報の管理という観点からも、自社メンバーで完結させる体制は不可欠です。
教育体制の抜本的改革――「利己」から「利他」へ変わるインセンティブ構造
── M&A業界は個人のインセンティブが強いイメージがありますが、貴社の教育体制について教えてください。
橋場 多くの仲介会社では、個人の売上に応じたインセンティブ制度を採用しています。この仕組みでは、上司が部下を育成するメリットが薄く、組織としての成長が阻害されがちです。
当社はこの構造を根本から変えました。
当社の部長陣は、原則として自分自身で案件を担当しません。その代わりに、部全体の売上が自身の評価や賞与に直結する仕組みを導入しています。つまり、部下が成長し、成果を上げることが上司の利益になる構造です。
── 上司が教育に専念できる環境を作ることで、組織全体の質を高めているのですね。
橋場 ええ。教育の優先順位を組織として高めることで、若手のアドバイザーも早期に高いプロ意識とスキルを習得します。この仕組みは、短期的な個人の稼ぎを優先する文化では成立しません。当社の幹部メンバーは、将来の成長のために現在の役割を全うする「一枚岩」の精神を持っています。
創業から現在まで、ボードメンバーが一人も欠けていないことは当社の誇りです。この強固な組織文化があるからこそ、拠点を急拡大させるのではなく、まずは東京と大阪で質の高い組織を作り上げることに注力しています。
── 質の高い人材を育てるための投資を惜しまない姿勢が、顧客からの信頼につながっていると感じます。
橋場 M&Aは一生に一度の重大な決断です。そこに携わる人間が、単なる営業マンであってはなりません。私たちは、オーナー様の人生の集大成を次世代につなぐ責任を負っています。その重みを理解し、誠実に行動できる人材を育成することが、私たちの社会的使命です。
企業の成長を支える「投資銀行サービス」という未来像
── 今後の成長戦略として、どのようなビジョンを描いていますか。
橋場 私たちが目指すのは、日本で「最も称えられる投資銀行」となることです。一般的に投資銀行サービスといえば、ゴールドマン・サックス様やJPモルガン様のように、超大企業を対象としたものを想像するかもしれません。
しかし、時価総額が1000億円以下の企業や、素晴らしい技術を持つ未上場企業は、そうした高度な財務戦略のアドバイスを受ける機会が限られています。私たちは、こうした企業群に対して、M&Aを軸とした投資銀行レベルのサービスを提供したいと考えています。
── 中堅・中小企業やスタートアップにとって、M&Aは重要な成長戦略の一つですね。
橋場 そのとおりです。昨今、IPO(新規上場)を目指していたスタートアップが、市場環境の変化や上場維持基準の厳格化により、M&Aを選択するケースが増えています。また、上場企業であっても、自力での成長(オーガニック成長)には限界があります。
中期経営計画を達成するためには、M&Aによる非連続な成長が不可欠です。私たちは、単なる仲介にとどまらず、資金調達や資本政策、さらには非公開化(MBO)といった高度なソリューションを提案できる体制を構築しています。
── そのために、金融庁出身の経営企画室長や、投資銀行業務のスペシャリストといった強力な人材が参画されたのですね。
橋場 はい。金融行政の視点を持つ人材や、銀行実務のスペシャリストが加わることで、当社のガバナンスと専門性はさらに強固なものとなりました。彼らとともに、上場企業だけでなく、未上場企業や中堅企業も高度な戦略を練り、実行できる環境を作ります。
M&Aは、日本経済を活性化させるための強力なエンジンです。企業が合従連衡を繰り返し、より大きな付加価値を生み出す集団へと進化する。その中心的な役割を担うのが、私たちの目指す投資銀行の姿です。
M&Aはあくまで「選択肢」──経営者の壁打ち相手として描く持続可能な未来図
── 事業承継や中長期の成長戦略において選択肢に悩む経営者に対し、貴社はどのようなスタンスで寄り添い、共に意思決定を重ねていきたいと考えていますか。
橋場 お伝えしたいのは、M&Aはあくまで「選択肢の一つ」であるということです。親族への承継や、信頼できる役員・従業員への承継が最善であれば、それが一番です。しかし、現実には後継者不在などの理由で、それが難しい場合も多々あります。
そのときに初めて、M&Aという選択肢を検討すればよいのです。大切なのは、突発的に決めるのではなく、時間をかけて戦略的に準備することです。親族のため、従業員のため、そして取引先のために何が最善かを吟味する必要があります。
── 悩んでいる段階から、専門家に相談してもよいのでしょうか。
橋場 もちろんです。私たちは、すぐにM&Aを実行することを勧めるわけではありません。中長期的な視点でお付き合いをし、経営者の皆様の「壁打ち相手」になることが私たちの役割です。一緒に悩み、最適な未来を模索するパートナーでありたいと考えています。
M&Aロイヤルアドバイザリーという会社が、誠実に、そして高い専門性を持って皆様を支える存在であることを知っていただければ幸いです。日本の素晴らしい技術や文化を後世に残すため、私たちは全力を尽くします。
- 氏名
- 橋場 涼(はしば りょう)
- 社名
- M&Aロイヤルアドバイザリー株式会社
- 役職
- 代表取締役社長

