アンドエル株式会社

スマートキャンプ株式会社の創業やベンチャーキャピタルの立ち上げなど、起業や投資の経験を積んできた古橋智史氏。同氏が「最後の挑戦」として2023年に設立したのが、アンドエル株式会社である。

同社は「あらゆる挑戦に、安堵を。」をミッションに掲げ、法人向け健康支援サービス「アンドエルワーク」と、ヘルスケア領域の事業を直接引き受ける「アンドエル健康承継」を展開する。従業員の健康を企業のインフラととらえ、中小企業における健康経営の普及と、働き手が生き生きと活躍できる環境づくりを目指す。

なぜ健康を切り口とした事業に生涯をかけて挑むのか。自社サービスの強みや今後の展望について、古橋氏に聞いた。

古橋智史(ふるはし さとし)──代表取締役
1988年、東京都生まれ。立教大学体育会では水上スキー部主将を務める。2011年、同大学卒業、株式会社みずほ銀行入行。その後、株式会社Speeeなどを経て、スマートキャンプ株式会社を起業、同社を株式会社マネーフォワードがM&A。シード・アーリー向けVCであるHIRAC FUNDを立ち上げ、累計130億円規模をパートナーとして運用。50社以上に出資。2023年、アンドエル株式会社を設立。
アンドエル株式会社
2023年10月、設立。「あらゆる挑戦に、安堵を。」をミッションに掲げ、法人向け健康支援サービス「アンドエルワーク」、ヘルスケアを起点とした生活インフラの事業承継「アンドエル健康承継」を運営。従業員の健康を経営のインフラととらえ、福利厚生と法令対応を組み合わせた独自のサービスを提供。
企業サイト:https://corp.and-l.com/

目次

  1. 古橋代表がアンドエルを「最後の挑戦」と位置づける理由
  2. 企業のインフラとなることを目指す「アンドエルワーク」
  3. 今後、起こり得る日本の事業承継の変化
  4. 福利厚生に手が回らない中小企業に焦点
  5. スタートアップの財務戦略で重要な事業性評価融資とは?

古橋代表がアンドエルを「最後の挑戦」と位置づける理由

── 古橋代表は起業家としてさまざまな経験があると思います。アンドエルを設立するまでの経緯を教えてください。

古橋氏(以下、敬称略)  私は大学時代、水上スキー部の主将として部活動に打ち込みました。卒業後はみずほ銀行に入行し、その後、ウェブマーケティングのSpeeeを経て、2014年にスマートキャンプを創業しています。

同社ではSaaS比較サイト・BOXILなどのメディア運営を中心に事業を拡大し、2019年にマネーフォワードへM&Aによるグループ入りをしました。

その後は同グループ内でHIRAC FUNDというベンチャーキャピタルを立ち上げ、パートナーとして累計130億円規模のファンドを運用し、50社以上への出資、3社のIPOと1社のM&Aを経験しました。

そして2023年、新たにアンドエル株式会社を設立し、現在はヘルスケア領域での事業展開に注力しています。

── 投資家としての経験も経て、再び起業の道を選んだのですね。今回の起業を最後の挑戦と位置づけている理由は何でしょうか?

古橋  投資家として多くの会社を支援する中で、あらためて自分自身の志を大きく持ち、壮大なミッションに挑みたいと考えました。アンドエルが掲げる「あらゆる挑戦に、安堵を。」という言葉には、その覚悟を込めています。

私たちが取り組む健康というテーマは、いつまでも達成しきることがない目標です。この大きな目標に向かって、生涯をかけて取り組む決意を固めました。

── なぜ、数あるテーマの中から「健康経営」という領域に参入したのですか?

古橋  10年以上の起業や投資の経験を通じて、伸びる会社には共通点があることに気づきました。それは、社長をはじめ従業員の皆さんが生き生きと働いていることです。

これまでは、健康診断やストレスチェックといった法令対応のみに留まる企業がほとんどでした。しかし、従業員の健康こそが企業が戦うための“インフラ”であると私は確信しています。

この仮説に基づき、従業員の健康にフォーカスした事業をつくりたいと考えました。昨今、経済産業省が推進する健康経営優良法人の認定数も増えており、社会的な関心も急速に高まっています。

企業のインフラとなることを目指す「アンドエルワーク」

── 現在展開している「アンドエルワーク」の詳細について教えてください。

古橋  アンドエルワークは、法人向けの健康支援サービスです。従業員の方がいつでも利用できるオンライン診療やチャットでの健康相談など、福利厚生としての機能を備えています。

同時に、会社法に基づいたストレスチェックや産業医面談といった法令対応も内包しています。これらをパッケージ化し、49人以下の企業であれば月額1万9800円(税込み)からというリーズナブルな価格で提供するものです。

── 導入企業には、どのようなメリットがあるのでしょうか?

古橋  大企業であれば社内に専用の診療所を持つことも可能ですが、ベンチャーや中小企業では現実的ではありません。私たちのサービスを使えば、月々約2万円で社内専用オンラインクリニックを持つことができるようなイメージです。

医師や専門家に直接相談できる仕組みを整えることで、従業員の満足度向上につながります。

また、今後義務化の流れがある49人以下の企業におけるストレスチェックにも対応しており、法令遵守の面でも安心です。

── 人事労務担当者の負担軽減という側面もありそうですね。

古橋  その通りです。人事担当者は多忙であり、専門外である健康面や体調不良の対応まで抱え込むのは大変です。そこを専門家に任せることで、本来の業務に集中できる環境を整えます。

── 競合他社と比較した際の、アンドエルの優位性はどこにありますか?

古橋  まず挙げられるのは、導入しやすい価格設計です。そして、オンライン診療からチャット相談までを一気通貫で提供できる体制も、優位性の一つです。

相談窓口には医師だけでなく、公認心理師などの専門職も待機しています。メンタル面も含めたプロのサポートをリーズナブルに提供できる点は、他社にはない明確な強みです。

── 急成長を追うだけでなく、プロダクトの質や基盤の安定を重視している印象を受けます。

古橋  ベンチャーとして成長は不可欠ですが、私たちはこのサービスを50年、100年と続くインフラにしたいと考えています。そのためには、着実な土台づくりが最も重要です。

先行する大手企業も素晴らしい実績を上げていますが、私たちはまず安定した基盤を築くことを大切にしています。それが結果として、顧客からの信頼につながると信じています。

今後、起こり得る日本の事業承継の変化

── もう一つの柱である「アンドエル健康承継」についても詳しく教えてください。

古橋  これはヘルスケアや生活インフラ産業の事業承継を、仲介ではなく自社グループとして引き受ける事業です。医療などヘルスケアサービスを中心に、HR・マーケティング・ソフトウェアも対象に展開しています。を中心に展開しています。

── 仲介ではなく、自らグループとして取り込むという手法を選んだのはなぜですか?

古橋  投資家としての経験から、多くの会社をモニタリングし支援することに抵抗がなかったことが挙げられます。そして何より、自分たちが直接経営に携わることで、より深い支援ができると考えました。

グループに入っていただくことで、アンドエルワークなどの健康支援サービスを直接導入し、実際に業績が向上するのか、従業員の雇用が維持されるのかの検証、実証が可能です。

── 事業承継において、特に重視しているポイントは何でしょうか?

古橋  従業員の皆さんが生き生きと働ける環境づくりです。昨今の事業承継では、PMI(ポスト・マージ・インテグレーション、M&A成立後の統合プロセス)がうまくいかないケースも散見されます。

私たちは、現場の責任者や従業員の方がリーダーシップを持って会社を引き継いでいけるようサポートします。ドラスティックに中身を変えるのではなく、今ある現場を大切にしながら、健康面や採用、IT活用を支援します。

── 日本の事業承継が抱える課題を、どのようにとらえていますか。

古橋  経営者の平均年齢は年々上昇しており、次世代へのバトンタッチは急務です。しかし、単に経営者が代わるだけでなく、働く人々がオーナーシップを持てる体制を築くことが本当の承継だと考えます。

アメリカにはTeamshares(米国の事業承継スタートアップ。オーナーから従業員に株式を無償付与するのが特徴)のようなモデルもありますが、日本でも今後、従業員を主体とした承継が求められるはずです。私たちは「健康」を切り口に、そのインフラを支える役割を担います。

福利厚生に手が回らない中小企業に焦点

── これまで多くの壁を乗り越えてきたと思いますが、特に困難だったことは何でしょう?

古橋  正直なところ、困難なことはその都度忘れてしまう性格です。ただ、一度乗り越えた壁は次からは壁ではなく、自分の糧や引き出しになります。

同じような事象が起きても「いつか見た景色だ」ととらえ、冷静に対処できるようになります。今のところ、すべての困難を乗り越えて生きているので、特定の出来事を壁とは感じていません。

── 今後、予想される課題や注視していることはありますか?

古橋  やはり人の部分です。事業が拡大し、導入企業やグループ会社が増える中で、いかにオペレーションを回し、キーマンとなる方々にやりがいを持って働いてもらうかが重要です。

特にAIの進化によって、ホワイトカラーの仕事のあり方が劇的に変わろうとしています。やりたい仕事自体が減ってしまうリスクがある中で、経営サイドがいかに従業員をエンパワーメントできるかが問われています。

── 顧客獲得の戦略については、どのように考えていますか? SaaSモデルではマーケティング投資が重要視されますが。

古橋  現在は、既存のお客様からのご紹介や、会計事務所、社労士事務所といったパートナーとの連携を軸にしています。満足いただいた方からの紹介が、最も説得力があるからです。

ターゲットは50〜300人規模の中小企業、いわゆるSMB領域がスイートスポットです。大企業に比べて福利厚生が未整備なケースが多く、私たちのサービスが最も価値を発揮できる領域だと考えています。

── 中小企業の福利厚生の実態は、どのようなものなのでしょうか?

古橋  実態としては、ほとんど何もできていない企業が多いのが現実です。世の中に約400万社あるといわれる企業の中で、健康経営優良法人の認定を受けているのはわずか2万社程度しか存在しません。

上場企業であれば対応は進んでいますが、それ以外の大多数の企業では法令で定められた健康診断を行うのが精一杯という状況です。しかし、これは裏を返せば大きな伸びしろがあるということでもあります。

スタートアップの財務戦略で重要な事業性評価融資とは?

── 健康経営への投資は、採用や離職率にも影響を与えるのでしょうか?

古橋  明確なデータが出ています。健康経営に取り組んでいる企業とそうでない企業では、離職率に約3倍の開きがあるといわれています。従業員を大切にする姿勢が、定着率に直結するのです。

中小企業にとって採用難は永続的な課題ですが、健康経営を自社の魅力として打ち出すことは、非常に有効な戦略になります。私たちはそのためのソリューションを提供しています。

── 今後のファイナンス戦略や、M&Aの展望について教えてください。

古橋  資金調達については、ベンチャーキャピタルからのエクイティ調達に加え、銀行からのデット調達を組み合わせています。資本と負債のバランスを最適に保つことが、健全な経営には不可欠です。

特に最近は、金融機関がスタートアップに対しても積極的に融資を行う環境が整ってきました。また、2026年5月からは「事業性評価融資」の流れが加速しています。

── 事業性評価融資とは、どのようなものですか?

古橋  従来の不動産担保などに頼る融資ではなく、事業が生み出すキャッシュフローや利益を評価して融資を行う仕組みです。これにより、私たちのようなベンチャー企業もチャレンジがしやすくなります。

買収先の財務状況や将来性を切り分けて評価してもらえるため、ロールアップ戦略を進める上で非常に強力な追い風となります。毎年5〜10件程度のM&Aを実行できる体制を整えたいです。

── 健康経営に関して、古橋代表が経営者に訴えたいことは何でしょうか?

古橋  AIが普及し、働き方が問われる時代だからこそ、変わらない価値である「健康」に目を向けてほしいと考えています。健康は、あらゆる挑戦を支えるインフラです。従業員、その先にいるご家族の健康をサポートすることは、結果として事業を伸ばすことにつながります。

氏名
古橋智史(ふるはし さとし)
社名
アンドエル株式会社
役職
代表取締役

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