この記事は2026年10月9日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「AI関連輸出は韓国景気に追い風も、強まる政治への逆風」を一部編集し、転載したものです。


AI関連輸出は韓国景気に追い風も、強まる政治への逆風
(画像=Ramses/stock.adobe.com)

韓国経済は、世界的なAI(人工知能)・半導体関連需要の拡大が追い風となっている。同国は、メモリー半導体で世界トップクラスの競争力を有する。9月の輸出額は前年同月比83.5%増となり、単月ベースの輸出額も過去最高額を更新した。

韓国経済はGDP(国内総生産)に占める輸出比率が4割を上回るなど、構造面で外需依存度が相対的に高く、輸出拡大が景気を押し上げると期待される。実際に中央銀行である韓国銀行は8月の定例会合で、2026年通年の経済成長率が3.3%と5年ぶりの高成長に、27年も2.9%と高水準で推移するとの見方を示した。

こうした状況にもかかわらず、李在明政権の支持率は低迷している。最近の世論調査では、政権支持率が3割台で推移し、不支持率は5割を上回る。背景の一つには、不動産価格の高騰がある。

李政権は昨年来、さまざまな不動産価格高騰への対策を打ち出した。だが、一連の対策によって実需層の資金調達が困難になる一方、規制対象外の地域で不動産価格が上昇する「副作用」も顕在化した。こうした不動産対策への不満は、6月に実施された首都ソウル特別市長選で与党候補が敗北した一因との見方もある。その後もソウルを中心に不動産価格の上昇が続いており、政権を巡る状況は厳しさを増している(図表)。

旺盛な輸出による貿易黒字の拡大に加え、中央銀行のタカ派姿勢も重なり、足元のウォン相場は大きく持ち直している。一方、主要株価指数(KOSPI)は、主要半導体メーカーの株価動向に左右されるかたちで低迷し、足元ではピークを3割近く下回る。こうした金融市場の不安定化も、家計や投資家の心理的低下を通じて政権への評価に影響している可能性がある。

さらに、イラン情勢の悪化によるエネルギーインフレに加え、スーパーエルニーニョに伴う食料価格の上昇によるインフレや、賃金インフレも警戒される。賃金インフレについては、半導体産業の一部で営業利益などの一定割合を従業員の成果報酬の原資とする「N%成果給」が導入され、他産業でも導入を求める動きが広がることも影響している。

韓国では、革新派の支持層が3割弱とされるが、足元では若年層を中心に支持率の低下が加速しており、支持層をつなぎ留めることが困難になりつつある。韓国の歴代政権では、支持率が低下する局面で対日政策が厳しくなるケースが散見された。しかし、李政権は発足以降、国益を重視した「実利外交」を掲げており、現時点でそうした兆しは見られない。

とはいえ、李政権の実利外交を巡っては、与党である「共に民主党」の主流派を中心に反発が根強く、党内対立の火種となる可能性は残る。現在の良好な日韓関係が今後も続くのか、韓国国内の情勢を見極める必要性が高まっている。

AI関連輸出は韓国景気に追い風も、強まる政治への逆風
(画像=きんざいOnline)

第一ライフ資産運用経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト/西濵 徹
週刊金融財政事情 2026年10月13日号