計画修繕とは、建物の劣化状況を把握し、外壁や屋上防水などの修繕を計画的に実施して、建物を長期的に良好な状態へ保つ取り組みです。修繕費は突発的に発生する費用ではなく、時期と規模がある程度読めるものです。相場を探すより、自分の物件の修繕周期から逆算して備える方が確実だといえます。
賃貸経営を続けていると、いずれ外壁や屋上の修繕が必要になります。ところが、いつ、いくらかかるのかが読めないまま経営していると、必要な時期に資金が足りないという事態を招きます。本記事では、修繕費の種類、国土交通省が示す修繕周期の目安、実際の工事費の事例、積立額の決め方、発注の方式をそれぞれ紹介します。
- 修繕費は、日常の小修繕、設備の交換、大規模な計画修繕の3つに分かれる。
- RC造の外壁は、一般に12年目くらいに補修・塗装が必要といわれている。
- 修繕を怠ると、賃料の下落と入居率の低下という形で損失が生じる。
- 積立額は相場ではなく、自分の物件の長期修繕計画から逆算して決める。
- 国土交通省は、修繕時期を確認できるセルフチェックシートを公表している。
目次
賃貸経営でかかる修繕費は3種類ある
修繕費は、日常の小修繕、室内設備の交換、大規模な計画修繕の3つに分けて考えます。
性質の異なる3つの支出
同じ修繕費でも、発生の頻度と金額の規模は大きく異なります。
- 日常の小修繕:設備の故障対応や部分的な補修です。金額は小さいものの、毎年発生します。
- 室内設備の交換:給湯器、エアコン、浴室設備、厨房設備、洗面化粧台、トイレなどの修理・交換です。入退去のタイミングと重なることも多い支出です。
- 計画修繕:屋根や屋上の防水、外壁の補修と塗装、鉄部の塗装など、建物本体に関わる工事です。足場を組むため金額が大きくなります。
修繕を要する建物は増え続けている
賃貸住宅の多くを占める共同住宅は、この30年で大きく増えました。
1993年から2023年までの30年間で共同住宅は約1.8倍に増加し、住宅全体に占める割合は44.9%と過去最高になっています(出典:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」、2026年9月時点)。増えた分だけ、修繕の時期を迎える建物も増えていきます。
区分所有と一棟では備え方が違う
分譲マンションの一室であれば、共用部分の修繕は管理組合が積み立てた修繕積立金でまかなわれます。
一方、一棟を所有する場合は、この仕組みがありません。計画を立てるのも資金を用意するのも、オーナー自身の役割になります。
修繕はいつ必要になるのか
国土交通省は、部位ごとの修繕周期の目安を公表しています。
外壁は築12年前後が一つの節目
国土交通省の資料では、RC造の外壁について、一般的に12年目くらいに補修・塗装工事が必要といわれていると説明されています(出典:国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」、2026年9月時点)。
同じ資料に掲載された木造2階建て6戸の事例では、部位ごとの修繕周期の目安が次のように整理されています。
| 部位・設備 | 修繕周期の目安 | 主な工事内容 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 屋根・屋上 | 10年 | 防水塗装 | 足場が必要になる場合がある |
| 外壁 | 10年 | 塗装・シーリング打替 | 足場仮設を伴う |
| 鉄部・非鉄部塗装 | 10年 | 塗装 | 外壁と同時期に行うと効率的 |
| 給湯・風呂、エアコン | 10年 | 修理・交換 | 入退去時に発生しやすい |
| 浴室・厨房・洗面・トイレ | 15年 | 修理・交換 | 室内設備 |
| 日常修繕 | 毎年 | 日常修理・消防点検 | 小額だが毎年発生 |
もっとも、これらは目安にすぎません。国土交通省自身も、資料で用いている単価や修繕周期は投資の規模感を把握するための参考値であり、実際に取り組む際は管理会社や施工会社に相談するよう促しています。
実際の修繕費はいくらかかるのか
公表されている事例を見ると、工事の規模と内訳がつかめます。
RC造8階建て33戸の事例
国土交通省のガイドブックには、築22年のRC造マンションで、15年かけて分割施工した事例が掲載されています。総額は2,138万円です(出典:国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」、2026年9月時点)。
| 工事の内容 | 金額 | 備考 | 実施の考え方 |
|---|---|---|---|
| 外壁(補修・塗装) | 934万円 | 全面補修・コーキング・塗装 | 面ごとに年度を分けて施工 |
| 廊下・階段・バルコニー | 463万円 | 各防水工事 | 劣化の進んだ箇所から |
| 足場仮設 | 313万円 | 養生・飛散防止ネット・高圧洗浄を含む | 工事のたびに発生する |
| 屋上 | 265万円 | 部分補修・全面防水・トップコート | 防水の状態で判断 |
| 鉄部 | 163万円 | 玄関扉・受水槽などの塗装 | 外壁工事と合わせやすい |
ここで注目したいのが、足場仮設の313万円です。足場は工事そのものではありませんが、外壁や屋上に手を入れるたびに必要になります。屋根と外壁と鉄部の時期をそろえれば、この費用を一度で済ませられます。
金額は物件ごとに変わる
とはいえ、この金額をそのまま自分の物件に当てはめることはできません。構造、規模、立地、劣化の進み方によって工事の内容は変わるためです。事例は規模感をつかむためのものと考えてください。
修繕を先送りすると何が起きるのか
修繕の遅れは、賃料の下落と入居率の低下という形で表れます。
賃料は経年で下がっていく
国土交通省のガイドブックに掲載された木造アパートの試算では、新築時の満室時賃料を100とした場合、賃料収入の水準は10年目で87.0、20年目で74.9、30年目で67.3、40年目で60.7と推移しています(出典:国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」、2026年9月時点)。
この試算は、計画修繕を実施した場合のものです。適切に手を入れてもこれだけ下がるのですから、放置した場合の下落はさらに大きくなると考えられます。
40年通算で見ると収支はどうなるか
同じ木造アパートの事例では、40年間の通算値も示されています。
総家賃収入が15,347万円、総支出が12,997万円で、手元に残る資金は2,350万円という試算です。総収入と総支出が交差する損益分岐点は28年目とされています。表面利回りは5.68%である一方、実質的な利回りは1.40%にとどまります。
ここで注意したいのは、この試算が計画修繕を実施した前提だという点です。修繕費を投じてなお収支が成り立つ設計になっており、修繕を織り込まない収支計画は現実的でないことがわかります。
競争力の低下は数字に表れにくい
国土交通省は、築年数が経って外観の劣化が進んだまま経営を続けると、競争力が低下し、家賃の下落や入居率の低下につながると指摘しています。
なお、修繕を先送りしても支出が消えるわけではありません。劣化が進んだ分だけ工事の範囲は広がり、費用は増える傾向にあります。
積立額はどう決めればよいか
相場を探すのではなく、自分の物件の修繕周期から逆算します。
長期修繕計画から逆算する
手順はそれほど複雑ではありません。
- 建物診断を受ける:現在の劣化状況を把握します。ガイドブックの事例でも、築12年目や築18年目に建物診断を実施したうえで計画を作成しています。
- 工事の項目と時期を並べる:屋根、外壁、鉄部、室内設備について、次に手を入れる年を書き出します。
- 概算費用を置く:施工会社から見積りを取り、項目ごとの金額を入れます。
- 残り年数で割る:工事までの年数で割れば、毎月または毎年いくら備えるべきかが出ます。
国土交通省の支援ツールを使う
自分で計算するのが難しい場合、公表されているツールが役立ちます。
賃貸住宅経営のセルフチェックシートは、家賃や入居状況を入力することで、修繕資金確保のための簡易なシミュレーションができるものです。賃貸住宅の修繕点検時期のセルフチェックシートは、築年数と建物や設備の状況をチェックすることで、修繕や点検の時期を認識できます(出典:国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」、2026年9月時点)。
築年数から逆算する目安の立て方
建物診断をまだ受けていない段階でも、おおよその見当はつけられます。
屋根と外壁が10年周期であれば、前回の工事から何年経ったかで次の時期が決まります。築10年を過ぎて一度も外部の工事をしていない物件であれば、すでに検討の時期に入っていると考えてよいでしょう。国土交通省の資料でも、2000年代前半に建てられた住宅がまさにその時期を迎えていると指摘されています。
資金は分けて管理する
備えた資金を手元の口座に置いたままだと、日常の支出と混ざってしまいます。家賃収入の入金口座とは別に管理し、修繕以外に使わない運用にしておくと確実です。
発注の方式で費用は変わる
国土交通省は、計画修繕の発注方式として3つの方法を示しています。
管理会社一任方式:調査・設計から施工、工事監理、検査までを管理会社に任せる方式です。オーナーの手間が軽く、工事中の苦情や要望の窓口も日常の管理業務と同じになります。
責任施工方式:調査・設計から施工までを施工会社に一括して発注する方式です。初期の段階から施工に配慮した検討ができます。
設計監理方式:調査・設計と施工会社の選定、工事監理を設計コンサルタントに委託し、施工は施工会社に発注する方式です。中立的な立場での工事監理が可能で、施工会社の選定に競争原理が働きます。
反対に、工事の進め方にも選択肢があります。共用部分をまとめて工事する一括施工方式のほか、優先度の高い部分から各年に分けて施工する分割施工方式もあります。先ほどのRC造の事例は、15年かけて分割した例です。
なお、管理を委託している場合は、維持保全の実施状況が定期報告の対象に含まれます。管理会社は、少なくとも年1回以上の頻度で、管理業務の実施状況をオーナーへ報告する義務を負います(出典:国土交通省「賃貸住宅管理業法ポータルサイト 管理業者の業務」、2026年9月時点)。報告の内容を確認しておけば、劣化の進み方を早い段階で把握できます。
一方、修繕そのものを負いたくない場合は、現物を所有しない方法もあります。不動産を小口化した商品では、建物の維持管理を事業者が担うため、修繕の判断と資金準備をオーナー個人が抱えることはありません。ただし、これらの商品にも元本の保証はなく、分配される金額は運用の状況によって変動します。
FAQ:賃貸経営の修繕費に関するよくある質問
修繕の実務で問い合わせの多い項目をまとめました。
Q.建物診断は誰に依頼するのですか
修繕施工会社や管理会社に依頼するのが一般的です。国土交通省のガイドブックの事例でも、修繕施工会社へ工事の実施提案を依頼したうえで建物診断を行っています。診断の結果に基づいて長期修繕計画を作成します。
Q.入居中でも大規模修繕はできますか
できます。外壁や屋上の工事は共用部分が中心のため、居住しながらの施工が一般的です。ただし足場の設置期間中は洗濯物やバルコニーの使用に制限がかかるため、入居者への事前案内が必要です。
Q.木造とRC造で修繕費は違いますか
異なります。国土交通省の事例集では、木造とRC造を含む35物件の取り組みが紹介されています。構造だけでなく、規模、階数、外壁の仕様によっても工事の内容と金額は変わります。
Q.修繕の見積りは複数社から取るべきですか
取ることを推奨します。設計監理方式では、施工会社の選定に競争原理が働き、修繕費の削減が可能とされています。統一した仕様書で入札できれば、見積りの比較検討も容易になります。
Q.修繕費用に使える補助制度はありますか
自治体によって制度が用意されている場合があります。省エネ改修やバリアフリー改修など、目的が限定されていることが多いため、物件の所在地の自治体窓口で確認してください。
まとめ:修繕費は「相場」ではなく「自分の物件の周期」から逆算する
修繕費は突発的な支出のように見えて、実は時期の読める費用です。屋根と外壁がおおむね10年、室内設備が15年という周期を前提に、次の工事がいつ来るかを並べれば、備えるべき金額は計算できます。放置すれば賃料は下がり、工事の範囲も広がります。まずは、所有する物件の築年数と、これまでの修繕履歴を確認するところから始めてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の商品の勧誘や投資助言を行うものではありません。制度の内容は変更される場合があります。
(提供:ACNコラム)