この記事は2026年10月23日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「韓国労働市場に問いかけるAI普及と雇用なき成長」を一部編集し、転載したものです。


韓国労働市場に問いかけるAI普及と雇用なき成長
(画像=Lumi Stock Studio/stock.adobe.com)

(韓国雇用情報院「2025年AI受容度調査」ほか)

AI(人工知能)の急速な普及が労働市場にもたらす変化について関心が高まっている。とりわけ生成AIの登場以降「AIが人間の仕事を奪うのではないか」という懸念が一段と強まっている。

この点、韓国企業の現場で実際に進んでいる変化は、やや趣が異なる。AIは人そのものを排除するというより、反復的・定型的な業務を代替し、一人の労働者がより多くの仕事を処理できる方向で導入されている。それ故、企業の売上げや生産性は伸びても、雇用は同じようには増えない「雇用なき成長」が構造化する可能性がある点は問題視されよう。

韓国雇用情報院が2025年に2,297事業所を対象に実施した実態調査によると、AI導入率は28.6%であり、依然として初期段階にとどまっている。ただし、産業別には差が大きく、運輸は11.4%に過ぎないが、情報通信業は62.9%に達する(図表)。

導入目的についても、人員削減よりも反復業務の軽減や業務効率化、生産性向上を挙げる企業が多い。つまり、現段階のAIは既存労働者の能力を補完し、生産性を引き上げる道具として活用されているとみる方が適切である。

ただし、AI導入企業ほど売上げ成長への期待は高い一方、雇用増加への期待は相対的に低く、「成長と雇用のデカップリング」が生じていることは見逃せない。企業が同じ人数でより多くの業務を処理できれば、新規採用の必要性が低下することは必然だ。こうした変化は、景気や人口構造など複数の要因が絡んでいるものの、韓国で近年、新卒者の一括採用が縮小し、随時・職務別採用へ移行している流れとも重なってくる。

AIの普及による影響は、産業によっても異なる。機械・設備や研究開発、精密機器、情報通信業では、AI関連人材と新規採用の需要がともに増えると予想される。一方、事業支援サービスや保健・社会サービス、文化・芸術分野では、両方の需要が減少する可能性が指摘されている。このため、一律的な雇用政策では対応しにくい。

今後はAI専門人材の育成だけでなく、既存労働者がAIを活用できるよう職務を再設計し、再教育やリスキリングを充実させる必要がある。企業もAIを単なる人件費削減の手段ではなく、人材を高付加価値業務へ移し、新たな市場や職務を生み出す手段として活用すべきである。

もはや、AIの普及を止めることはできない。重要なのは、生産性向上を雇用と所得を生む新たな機会につなげることである。AI時代においては人員削減ではなく、技術と人間が補完し合える労働市場をいかに構築するかが問われている。

韓国労働市場に問いかけるAI普及と雇用なき成長
(画像=きんざいOnline)

ニッセイ基礎研究所 上席研究員/亜細亜大学 都市創造学部 特任准教授/金 明中
週刊金融財政事情 2026年10月27日号