◆個人消費以外の需要項目の動向

2014年度の住宅投資は前年比▲11.7%の大幅な落ち込みとなったが、1997年度の同▲18.9%に比べれば落ち込み幅は小さかった。新設住宅着工戸数の動きを確認すると、消費税率引き上げの前年末頃にピークをつけた後、急速に落ち込んだ点は共通しているが、前回は夏場にかけていったん下げ止まりの兆しが見られたものの、1998年に入り水準を大きく切り下げた。

これは1997年秋以降アジア通貨危機などをきっかけに景気が急速に悪化したことを受けたものと考えられる。一方、今回は2014年夏頃に底打ちした後、持ち直しの動きを続けている(図表9)。

消費増税前後の新設住宅着工戸数

理由のひとつは住宅投資の駆け込み需要とその反動が前回よりも小さかったことである(4)。この背景としては、当時に比べ住宅購入世代が減少し潜在的な需要が縮小していること、住宅ローン減税やすまい給付金などの平準化措置が取られたことなどが挙げられる。

また、貸家については、2015年からの相続税の課税強化を見越して、相続税対策としての貸家建設の需要が拡大したことが住宅着工全体を下支えした。

設備投資は1997年度の前年比5.5%に対し、2014年度は同0.4%と前回増税時を大きく下回る伸びとなった。当時と比べて企業が国内投資よりも海外投資を優先する姿勢を強めているという構造的な要因もあるが、前回発生しなかった消費税率引き上げ前の駆け込み需要が発生したという特殊要因も影響している。

四半期毎の設備投資の推移をみると、前回は税率引き上げ前後で大きな変動は見られなかったが、今回は税率引き上げ前の2014年1-3月期に前期比5.1%の非常に高い伸びとなった後、2014年4-6月期には同▲4.8%と急速に落ち込んだ(図表10)。

消費増税前後の実質設備投資の動き

「簡易課税制度」の適用を受けて税率が低い時に投資を行うインセンティブがある中小企業で一定の駆け込み需要が発生したことに加え、ウィンドウズXPのサポート終了に伴う更新需要が2013年度末にかけて発生したため、2014年度入り後にその反動が生じた模様である。

このため、四半期毎の推移を比較すると、前回は1997年度末にかけて急速に落ち込みその後も大幅な減少が続いた(5)が、今回は2014年7-9月期に小幅ながら増加に転じた後、年度末の2015年1-3月期には前期比2.7%の高い伸びとなった。

1997年度は財政再建を進めるために、消費税率引き上げと同時に特別減税廃止、社会保険料引き上げ、公共事業の削減を実施した。このため、1997年度の公的固定資本形成は前年比▲7.1%の大幅減少となり、政府消費、公的在庫と合わせた公的需要も前年比▲2.1%の減少となった。公的需要の減少により1997年度の実質GDPは▲0.5%ポイント押し下げられた。

これに対し、今回は消費税率引き上げの悪影響を緩和するために、公共事業の追加を含む5.5兆円規模の経済対策を実施したため、2014年度の公的固定資本形成は前年比2.0%となり(公的需要の寄与度は0.2%)、景気の下支えに一定の役割を果たした(図表11)。

消費増税前後の実質公的固定資本形成の動き

ただし、2012年末の安倍政権発足直後に策定された10兆円規模の大型経済対策によって2013年度の公的固定資本形成は前年比10.3%と大きく押し上げられていたため、2014年度の押し上げ幅は限定的にとどまった。

外需寄与度は1997年度が1.0%、2014年度が0.6%とともに成長率の押し上げ要因となったが、これは消費税率引き上げ後の国内需要の低迷に伴い輸入の伸びが前年度から大きく低下したことが大きい(財貨・サービスの輸入:1996年度:前年比11.6%→1997年度:同▲1.5%、2013年度:前年比6.7%→2014年度:同3.7%)。

円/ドルレートは1997年度、2014年度ともに前年度よりも10%程度の円安となっており、輸出にとっては好条件となっていた。こうした中、1997年度前半は輸出数量が比較的堅調に推移したが、アジア通貨危機が発生した年度下期には弱い動きとなった。

今回は2014年末にかけて輸出数量は持ち直しつつあったが、2015年に入り弱めの動きとなるなど、均してみれば横ばい圏の動きが続いた(図表12)。

消費増税前後の輸出数量指数の推移

海外経済の回復ペースが鈍いという循環的な要因に加え、生産拠点の海外シフトといった構造的な要因によって、大幅な円安下でも輸出が伸びにくくなっていると考えられる。