(写真=PIXTA)
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アベノミクスの開始以降、株式市場が右肩上がりで推移するなか、株式投資信託の純資産残高が、株価上昇を上回るペースで拡大してきた(*1)。預金から投資へのシフトが徐々に進み、新たな投資家層を取り込みながら、金融緩和マネーが投資信託に流入してきたといえる。

その中でも、シンガポールや香港などのアジアの上場REITに投資するアジアREIT型投資信託が、2015年上期に日本国内で目覚しい拡大をみせた。例えば、それらの国内最大規模の銘柄(*2)をみると、上期のわずか6ヶ月間で、純資産残高が1,314億円から3,112億円の約2.4倍にまで拡大した。加えて、一層急拡大した中小規模の銘柄や、新規に設定された銘柄も複数みられた。

これらのアジアREIT型投資信託急拡大の背景には、ここ数年のJ-REIT型投資信託(日本国内の上場REITに投資)の飛躍的な認知度向上が挙げられる。超低金利のもと、比較的高い安定した利回りを見込める投資先として資金が集まり、J-REIT型投資信託の純資産残高は、2011年12月末以降の3年間で約6倍(*3)に膨張した。

しかし、2015年に入ると、価格上昇によってJ-REITの分配金利回りが3%を切る水準に低下したため、より高い利回り(*4)を求める一部の投資家が、アジアREIT型投資信託に目先を移したものと考えられる。

2015年の国内株式市場を振り返ると、上期には楽観が支配的であったものの、8月末以降は中国経済の失速に対する懸念などから、一変して乱高下する展開となった。上期の大幅上昇の貯金により、TOPIXはプラス約10%の年間リターンを確保したものの、下期の急落局面の印象は強く、また、東証REIT指数の年間リターンがマイナスに終わったことなどから、弱含みの1年だったといえる。

アジアREIT型投資信託についても、2015年上期の爆発的な拡大の後、下期には純資産残高が8%減少し、2015年12月末時点で3,695億円となった(*5)。上期に急速に認知度を高めたアジアREIT型投資信託であったが、中国経済の失速懸念が世界同時株安を招く中、アジアに投資する投資信託として負の影響を免れなかったといえる。

ただし、株価下落とともにアジアREIT型投資信託の基準価格も大幅に下落し、該当銘柄の加重平均基準価格は2015年下期に16.3%も下落した。大幅な基準価格の下落に比べ、純資産残高の減少が8.1%に止まったことから、下期にもアジアREIT型投資信託への資金流入は継続し、純資産残高の減少を緩和していた。

今後も、中国経済の失速懸念について早期の払拭は期待し難い。しかし、アジアREITのファンダメンタルズは、香港やシンガポールのREITが大半を占め(*6)、必ずしも中国経済の失速や新興国からの資金逃避の影響を直接的に受けるものではない。

また、アジアREITには、J-REITを上回る高い利回りや、投資口あたりキャッシュフローの継続的成長など、J-REITと異なる魅力もある。日本国内で急速に普及し始めたアジアREIT型投資信託であるが、再び拡大トレンドに戻るのか、引き続きその資金流入動向が注目される。

(*1)増宮守、「拡大するREIT型投資信託、成長速度はネットサービス業も圧倒」ニッセイ基礎研究所、研究員の眼2015/6/15
(*2)三井住友アセットマネジメントの「アジア好利回りリート・ファンド」、アジアの他、オーストラリアの上場REITを約3割含む。
(*3)投資信託協会による公募株式投資信託の国内不動産投信分(2015年11月末)。ちなみに、公募株式投資信託の国内株式分は同期間で2.6倍に拡大。
(*4)増宮守、「高利回りのアジアREIT~特に日本の投資家にとって魅力的?~」ニッセイ基礎研究所、研究員の眼2015/1/8
(*5)モーニングスターのデータベースによると、国際REIT型でアジア投資する投資信託は2015年12月末時点で35本、純資産残高合計は3,695億円。
(*6)増宮守、「アジアREITの不動産ポートフォリオ~アジア新興国への国際分散も進む~」ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート2015/7/8

増宮守
ニッセイ基礎研究所 金融研究部

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